イギリス産業革命期の発明家、企業家。水力紡績機(ウォーター・フレーム)の発明で知られる。12月23日、ランカシャーのプレストンの貧家の13人兄弟(7人ともいわれる)の末子として生まれる。理髪師の徒弟となり、のちにボールトンで開業、かつらの製作も兼営した。1760年代後半から紡績機に関心をもち、1768年、回転速度の異なる数組のローラーによる粗糸の引伸し機構と、旧来の紡車の一種のフライヤー紡錘の撚(よ)りかけ・巻取りの機構とを組み合わせ、共通の動力で駆動する紡績機を考案し、1769年特許を取得した。この紡績機は現在ロンドンの科学博物館に展示されているが、当時、ハーグリーブスのジェニー紡績機が横糸生産に限られ、工程が断続的で手工業的熟練を必要としたのに対し、これは縦糸生産が可能で、工程の連続化、熟練の不要化、人力以外の動力使用による大量生産の可能性を開いた点など、細糸生産には適さないという限界をもつものの、最初の本格的な紡績機であった。
1768年にノッティンガムに開設した工場の動力は馬であったが、1771年開設のダービーシャーのクロムフォード工場は水力を動力とする大工場であった。水力紡績機の名称はこれに由来する。紡績工程の機械化は、むらのない原料粗糸の大量供給を可能とする前紡工程の機械化を必要としたため、この課題に取り組み、梳綿機(そめんき)、練条機(れんじょうき)などを考案し、1775年に特許を取得した。以後、これらの機械を有機的に結合、配置し、共通の動力で駆動する機械体系を設備した大紡績工場をダービーシャーを中心に各地で経営し、産業革命期の代表的企業家となった。また、1790年には工場動力として蒸気機関の導入も試みた。
一連の機械の発明に際しての彼の独創性については、その当時から異論があった。そのため彼の特許は、その独占に反対するランカシャーの綿業経営者との間の訴訟の結果、1785年に無効となった。しかし、その着想は他人のものであれ、これを実用に堪える機械に仕上げた点、および近代的工場制度の創始と経営管理の成功は彼に帰すべきものである。特許の取消しも事業経営には打撃とはならず、1786年ナイトの称号を授けられ、1787年にはダービーシャーの州長官に任命された。1792年8月3日クロムフォードで没した。
[水野五郎]
『小松芳喬著『産業革命期の企業者像――綿業王アアクライト伝考』(1979・早稲田大学出版部)』
イギリスの紡績機械発明家,実業家。紡績機械の発明に加えて,梳綿から精紡にいたる全工程の一貫生産技術を確立し,イギリス産業革命に多大な影響を与えた。ランカシャーのプレストン生れ。理髪師,鬘(かつら)製造業を営むかたわら,1760年代には紡績機械に関心をもち改良工夫をはじめる。当時のイギリスの紡績業は,インドから輸入されるインド・キャラコへの対応策と綿糸全体の需要増に見合う生産拡大とが求められていた。アークライトは,ワイアットJ.WyattとポールL.Paulによる紡績機械を発展させ,糸を回転速度の異なる3対のローラーに通し無理なく引き伸ばし,フライヤーで撚(よ)りをかける紡績機械(精紡機)を発明し,69年に特許を申請。同年,馬力による工場をノッティンガムに,71年には水力による工場をクロムフォードに建設。これがアークライトの紡績機械をウォーター・フレームと呼ぶ由来である。ウォーター・フレームの登場によって,細く強い綿糸が大量につくられるようになり,綿と麻との交織(織機の使用にたえうる強度をもった亜麻糸を縦糸に,綿を横糸に使用する織)によらずに薄手の綿布がつくられるようになった。また,クロムフォードの工場では,梳綿・連条・粗紡といった精紡以前の工程も機械化し,一つの大きな水車ですべてを駆動する一貫生産が行われた。アークライトは,これらの技術を75年に特許申請し,以後イギリス各地でアークライトの方式による工場がつくられていったが,自由に工場を建設できない他の業者の不満と,アークライトの特許権に対する疑義が高まり,81年には第2の特許,83年には第1の特許の失効が宣言された。しかし,個々のアイデアに先行者がいたとはいえ,実用に足る機械を製作し,綿紡績の一貫生産を達成した意義はきわめて大きく,86年にはナイトの称号を与えられた。
執筆者:奥山 修平
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1732~92
イギリスの紡績機改良者。1768年水車を動力とする最初の水力紡績機の実用化に成功し,多くの工場を建てた。86年サーに叙された。水力紡績機はまもなくクロンプトンの「ミュール機」にとって代わられた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…昔ながらの紡車に取って代わった最初の紡績機はハーグリーブスのジェニー機(1770特許)であるが,手で操作でき,小型で安価であったから,旧来の家内工業に広く取り入れられた。紡績業を家内工業から工場制度に変えたのは,アークライトの水力紡績機(1769特許)であった。彼の初めの工場では動力源は馬力であったが,1771年ダーウェント川のほとりに設立されたクロムフォード工場では水力が利用された。…
…ところが18世紀後半以後,イギリスで綿織物をつくるための種々の機械がつぎつぎと発明され,綿織物生産は飛躍的に増大するとともに,綿織物工業は産業革命の重要な担い手ともなった。すなわち1733年のJ.ケイの飛杼(とびひ)の発明に始まった織機の改良は,64年J.ハーグリーブズの数個の紡錘をもつ多軸紡績機の発明,68年のR.アークライトによる水力紡績機の発明,さらに85年E.カートライトの蒸気機関を利用した力織機まで続き,綿織物工業は産業革命期のイギリスにおいて飛躍的な発展をとげた。 その後,綿織物工業はイギリスから他のヨーロッパ諸国,そしてアメリカに普及し,とくに19世紀末あたりからはアメリカ南部の綿花地帯に盛んになっていった。…
※「アークライト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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