ナイト(読み)ないと(英語表記)Frank Hyneman Knight

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナイト」の意味・わかりやすい解説

ナイト(Frank Hyneman Knight)
ないと
Frank Hyneman Knight
(1885―1972)

アメリカの経済学者。イリノイ州に生まれる。コーネル大学大学院で学んだのち、アイオワ大学教授、シカゴ大学教授を歴任ナイトシカゴ学派の創始者である。また、アメリカへ移住した外国人経済学者は別として、ナイトこそアメリカの理論経済学を創始したといっていい。ナイトは、主著『危険・不確実性および利潤』Risk, Uncertainty and Profit(1921)において、完全競争モデルを純粋理論モデルとして厳密に構築し、確率論が適応可能なリスク(危険)と、適応不可能な不確実性とを峻別(しゅんべつ)した。さらに静態的分析と動態的分析とを厳格に区別し、利潤が発生するのは不確実性が存在している、企業の動態的な活動においてであると分析した。また、企業が下していく諸「決定」に意味があるのは、ひとえに不確実性が存在するからだと主張した。ナイトは当初はオーストリア学派の迂回(うかい)生産論という資本論を継承したが、まもなくこれから離脱し、「機会費用」の概念基礎として資本理論を展開し、限界収益均等化の理論を確立した。その『経済組織』Economic Organization(初版1933、復刻版1951)と題する教科書は、短文だが巨大な影響を与えた。弟子のうちの三羽烏(さんばがらす)ポール・サミュエルソン、ミルトン・フリードマン、ジョージ・スティグラーは、のちにノーベル経済学賞を授与されたが、この3人がそれぞれ著した教科書は『経済組織』を基礎にしている。弟子にはほかにも公共選択理論のジェームス・ブキャナンが1986年にノーベル経済学賞を授与されており、逸材の弟子たちの数はおびただしい。

西山千明

『奥隅栄喜訳『危険・不確実性および利潤』(1959・文雅堂書店)』


ナイト(George Wilson Knight)
ないと
George Wilson Knight
(1897―1985)

イギリスの文学者、批評家シェークスピアの作品を台詞(せりふ)の象徴的意味を手掛かりに考察した論著『火焔(かえん)の車』(1930、邦訳名『煉獄(れんごく)の火輪』)、『王の主題』(1932)などでシェークスピア批評界に独自の地位を占める。自ら俳優、演出家としても活躍、『アセンズのタイモン』『リア王』などを上演、その成果を『シェークスピア演出の諸原則』(1936)にまとめる。

[村上淑郎]

『石原孝哉・河崎征俊訳『煉獄の火輪』(1981・オセアニア出版)』


ナイト(騎士)
ないと

騎士

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナイト」の意味・わかりやすい解説

ナイト
Knight, Frank Hyneman

[生]1885.11.7. イリノイ,マクリーン
[没]1972.4.15. シカゴ
アメリカの経済学者。ミシガン大学卒業後 (1911) ,テネシー大学で修士号 (13) ,コーネル大学で博士号 (16) を取得。コーネル,シカゴ両大学で教鞭をとった後,アイオワ大学 (19~27) を経て 1927年からシカゴ大学教授。 50年アメリカ経済学会会長。主著の『危険,不確実性および利潤』 Risk,Uncertainty and Profit (21) は,予測不可能なリスク,すなわち不確実性を利潤の真の源泉とし,のちに大きな影響を与えた。また,不確実性をになうものとしての企業家の役割を強調した。 1930年代には資本利子論争に参加し,オーストリア学派を攻撃した。自由企業体制を批判しながらもその倫理的根拠を探求し,リカード研究や社会思想史的研究も多い。シカゴ学派の始祖の1人でもある。著書には,『経済組織』 The Economic Organization (33) ,『競争の倫理』 The Ethics of Competition and Other Essays (35) ,『自由と改革』 Freedom and Reform:Essays in Economics and Social Philosophy (47) などがある。

ナイト
Knight, Thomas Andrew

[生]1759.8.12. ラドロウ近郊
[没]1838.5.11. ロンドン
イギリスの園芸家,植物学者。オックスフォード大学出身。初め,果樹や牛の交雑を手がけたが,やがてエンドウが交雑研究の材料に適していることを見つけ,これを対象に実用的な見地から実験を行い,その結果,豆の色の異なる2種類のエンドウを交配してつくられた雑種が片方の親と同じ色の豆だけを生じること,さらにこの雑種同士をかけあわせて2代目の雑種をつくったときに,他方の色の豆も現れることを発見した (1799) 。これらは,G.メンデルが,のちに優性,分離と呼んだ現象にそれぞれ対応しており,ナイトはメンデルによる研究の先駆者の一人とされている。ただし,観察結果を数量化してはいない。彼は植物生理学者としても高名であり,植物の体液転流に関する研究などのほか,茎や根の生長する方向を決めているのが重力であることを明らかにした (1806) 。 1811年より英国園芸協会会長。

ナイト
Knight, George Wilson

[生]1897.9.19. サリー,サットン
[没]1985.3.20. デボン,エクセター
イギリスの文学研究者,批評家,俳優,演出家,劇作家。トロント大学教授 (1931~40) を経てリーズ大学英文学教授 (56~62) 。『炎の車』 The Wheel of Fire (30) に始る一連の著作によって,シェークスピア劇の象徴的解釈を行なった。ほかに『シェークスピア劇演出の原理』 Principles of Shakespearean Production (36,64改訂) ,『バイロンとシェークスピア』 Byron and Shakespeare (66) など。

ナイト

騎士」のページをご覧ください。

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