イオン化ポテンシャルともいう.孤立系(希薄な気相)で原子,分子,遊離基などから1個以上の電子を無限遠に引き離し,特定の価数のイオンまたは特定のイオンの電子励起状態を生成するために必要な最小エネルギーをいい,通常,電子ボルト(eV)単位で表す.イオンは中性粒子から引き離される電子の結合状態により種々の電子状態をとるので,一価イオン生成のもっとも低いイオン化電位を第一イオン化電位という.たとえば,希ガス原子は,2P3/2 状態を生成する第一イオン化電位の近くに 2P1/2 状態を生成する第二イオン化電位が見いだされる.分子では非結合(nonbonding)π軌道,σ軌道などの電子が,それぞれ引き離されるので,多くの二価イオン生成のイオン化電位が見いだされる.2個以上の電子を引き離すのに必要なエネルギーの最低値は,多価イオン化電位という.したがって,原子,分子,遊離基などの各電子の軌道エネルギーの値を知る上で,イオン化電位は重要である.イオン化電位を測定するには次の四つの方法がある.
(1)原子,分子などの発光スペクトルまたは吸収スペクトルの系列端から求める分光学的方法.
(2)質量分析計で電子衝撃によりイオン化効率曲線を求め,直線の屈折点のしきい値を求める.
(3)電子衝撃のかわりに真空紫外部の連続光をモノクロメーターで各波長に分離し,イオン化効率曲線を求めて各しきい値を決定する光イオン化.
(4)真空紫外部の単色光,たとえば希ガスの共鳴線を使用してイオン化し,生成した光電子のエネルギースペクトルのしきい値から決定する光電子スペクトル法.
このうち(4)がもっともエネルギー分解能が高く,イオンの振動励起状態などの微細構造を観察することができる.また光によるイオン化はフランク-コンドンの原理にもとづく垂直遷移だけでなく,中性分子,イオンの最低振動準位間の断熱イオン化電位も測定しうる.しかし,光学的禁制遷移は見いだせない不利もある.分子がイオン化の過程で解離して生成する断片イオンの必要最小エネルギーは出現電位である.出現電位と多価イオン化電位の測定には電子衝撃が有利である.基底状態からのイオン化電位だけでなく,励起状態からのイオン化電位も重要であり,このエネルギーをホットバンド(hot band)イオン化電位という.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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