イノシン酸(読み)イノシンサン

デジタル大辞泉 「イノシン酸」の意味・読み・例文・類語

イノシン‐さん【イノシン酸】

inosinic acid》生物体内に存在するヌクレオチドの一種。アデノシンから生じるイノシンリボース燐酸1分子がついたもの。魚肉・畜肉、特に鰹節のうまみ主成分で、調味料として生産される。イノシン一燐酸。

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精選版 日本国語大辞典 「イノシン酸」の意味・読み・例文・類語

イノシン‐さん【イノシン酸】

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Inosinsäure の訳語 ) 酸性の高分子物質イノシンリン酸の総称。分子式 C10H13N4O8P ヌクレオチドとして死んだ動物中に多数見出される。かつお節に似た強いうま味を示し、これから作られるイノシン酸ソーダは化学調味料として用いられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イノシン酸」の意味・わかりやすい解説

イノシン酸
いのしんさん

生物体内に存在する化学物質で、イノシン一リン酸inosine monophosphateともいい、IMPと略記する。アデニンが脱アミノされた化合物であるヒポキサンチン、リボース、リン酸各1分子によって構成される一種のプリンヌクレオチドである。リン酸のリボースへの結合位置によって2'-、3'-、5'-の3種の異性体があるが、2'-イノシン酸および3'-イノシン酸は生体内に単独では存在しない。生体内で重要な働きをしているのは5'-イノシン酸である。重要なプリンヌクレオチドである5'-アデニル酸、5'-グアニル酸は、5'-イノシン酸を経て生合成される。またADPアデノシン二リン酸)、ATPアデノシン三リン酸)は5'-アデニル酸からつくられるので、5'-イノシン酸はADP、ATPの前駆物質ともいえる。このように5'-イノシン酸は、核酸補酵素、ATPなどを合成するための重要な素材である。核酸のなかでは転移RNAの特定の位置にイノシン酸残基があり、重要な役割を果たしている。

[笠井献一]

調味料としての利用

5'-イノシン酸は肉類のうま味の主成分で、鳥肉や畜肉、水産の硬骨動物の筋肉中に0.1~0.2%含まれる。筋肉中には、もともと5'-アデニル酸が多量に含まれているが、動物の死後、酵素の働きによって5'-イノシン酸に変化する。そこで少し古くなった肉には5'-イノシン酸が多量に含まれる。かつお節の味の主成分は、こうして生成した5'-イノシン酸である。

 2'-イノシン酸と3'-イノシン酸にはほとんど味がない。生体内で重要な働きをしている5'-イノシン酸に構造は似ているがそれほど重要でないこれらの異性体と5'-イノシン酸とを、舌が味覚によって区別できるというのは興味深いことである。

[笠井献一]

 イノシン酸は1847年ドイツの化学者J・v・リービヒが肉エキス抽出物から発見した化合物で、1913年(大正2)小玉新太郎がかつお節のうま味成分の一つとして、イノシン酸のヒスチジン塩がうま味をもつ物質であることを発見した。その後、うま味成分はヒスチジンとは関係なく、イノシン酸そのものにあることがわかり、1959年(昭和34)国中明(くになかあきら)がヌクレオチドの化学構造と呈味性との関係を調べて、イノシン酸はグルタミン酸と共存することで、飛躍的にうま味が増強されることを発見した。以後、イノシン酸の化学的製造の完成とともに、ナトリウム塩のイノシン酸ナトリウム(5'-IMP)が核酸系調味料の一つとして利用されるようになった。通常は、グルタミン酸ナトリウムと混合された複合調味料が市販されている。製法は、酵母より核酸を抽出し、これに微生物から取り出した酵素を作用させて5'-アデニル酸をつくり、酵素処理によって5'-イノシン酸にする方法と、糖類を原料に、発酵法により製造する方法とがある。

[河野友美・山口米子]


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改訂新版 世界大百科事典 「イノシン酸」の意味・わかりやすい解説

イノシン酸 (イノシンさん)
inosinic acid

ヒポキサンチン,リボース,リン酸からなるヌクレオチド。天然物から単離されたヌクレオチドとしては最も古く,1847年にJ.vonリービヒによって初めて筋肉から抽出されている。リン酸の結合する位置により,2′-,3′-,および5′-の3種があるが,一般には5′-イノシン酸またはイノシン-5′-リン酸(IMP)を指す。鰹節のうまみ成分であることが1913年に小玉新太郎によって発見されたが,製品化はひじょうに遅れた。60年代になって分子生物学の進歩により,核酸の生物体内での合成,分解の過程が明らかになり,その応用として酵母を原料とした製造法が開発された。糖蜜などに培養した酵母からRNAを抽出し,これを特殊な酵素を用い

て分解する。イノシン酸と同時に,やはりうまみのあるグアニル酸を生産することができる。RNAを原料とすることから,核酸系調味料といわれる。グルタミン酸と混ぜるとうまみを増す相乗作用があり,両者を組み合わせた複合調味料が市販されている。
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化学辞典 第2版 「イノシン酸」の解説

イノシン酸
イノシンサン
inosinic acid

inosine 5′-monophosphate.C10H13N4O8P(348.21).略称IMP.イノシンの5′位にリン酸基をもつ5′-ヌクレオチド.アデノシン-5′-ホスフェートに亜硝酸を作用させると得られる.転移RNAの微量成分として生体内からも得られるが,とくに死んだ動物の筋肉中に多量に存在する.-18.4°(0.2 mol 塩酸).pK1 2.4,pK2 6.4.λmax 248 nm(ε 12200,pH 6).水に易溶,エタノールに難溶.ナトリウム塩は調味料(かつおぶしの味)に用いられる.LD50 16000 mg/kg(ラット,経口).[CAS 131-99-7]

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百科事典マイペディア 「イノシン酸」の意味・わかりやすい解説

イノシン酸【イノシンさん】

化学式はC1(/0)H13N4O8P。プリンヌクレオチドの一種。ヒポキサンチン,リボース,リン酸各1分子よりなる。5′‐イノシン酸は生体内に存在し,プリンヌクレオチド生合成の共通の前駆体。またかつお節のうま味の主成分といわれ,そのナトリウム塩をグルタミン酸と同様に化学調味料に利用。
→関連項目化学調味料鰹節

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イノシン酸」の意味・わかりやすい解説

イノシン酸
イノシンさん
inosinic acid

略称 IMP (イノシン一リン酸) 。イノシンのリン酸エステルであるが,通常,イノシン- 5' -リン酸をさす (分子式 C10H13N4O8P ) 。核酸成分には普通は含まれないが,転移リボ核酸には微量に存在する。遊離の 5' -IMPはヌクレオチドの代謝中間物として重要であり,アデニル酸やグアニル酸も IMPからの誘導体として生合成される。また IMPは肉類やかつお節のうまみと関係があり,ナトリウム塩は調味料として市販される。肉汁エキスまたは筋肉アデニル酸を酵素で脱アミンすることによってつくる。リン酸基の位置の異なる 2' -IMPや 3' -IMPもイノシン酸と呼ぶ。

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栄養・生化学辞典 「イノシン酸」の解説

イノシン酸

 C10H13N4O8P (mw348.21).

 イノシン5-リン酸,イノシン5-一リン酸,イノシン一リン酸,IMPともいう.アデノシン5-一リン酸の脱アミノによって生じるヌクレオチド.うま味物質で通常グルタミン酸一ナトリウムと併用され,調味料として使われる.生体内におけるヌクレオチド代謝においても重要な化合物.

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世界大百科事典(旧版)内のイノシン酸の言及

【化学調味料】より

…ところで,化学の発達により,だしやスープに含まれているうま味の本体がわかるようになった。コンブのうま味はグルタミン酸,鰹節のうま味はイノシン酸,貝のうま味はコハク酸である。また鶏がらのうま味はグルタミン酸やイノシン酸などの複合したものである。…

※「イノシン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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