化学的あるいは酵素的に処理して得られる天然物のうま味成分,またはそれらのいくつかを混合した調味料。食物の味には,甘,塩,酸,辛,苦の5味があり,さらにこれらで表せない6番目の味にうま味がある。日本でも西洋でも,料理の基本はまずだし作りである。たとえば,日本ではコンブや鰹節を湯で煮てだしをとり,西洋では鶏がらや貝を湯で煮てスープをとる。だしやスープの中にはひじょうに美味なうま味がある。ところで,化学の発達により,だしやスープに含まれているうま味の本体がわかるようになった。コンブのうま味はグルタミン酸,鰹節のうま味はイノシン酸,貝のうま味はコハク酸である。また鶏がらのうま味はグルタミン酸やイノシン酸などの複合したものである。そこで,これらのうま味の本体を塩やコショウのように手軽に調味料として利用しようということが考えられた。こうしてグルタミン酸が1908年,日本のメーカーによりいち早く商品化され発売されたが,これに対し,他のうま味成分の化学調味料化はかなり遅れた。その理由は,グルタミン酸がアミノ酸の一種であり,タンパク質を加水分解するという製法がひじょうに簡単であったこと,また原料の小麦グルテンが安価であったことによる(現在は微生物による発酵法で生産)。グルタミン酸の次に商品化されたのはイノシン酸で,これも日本のメーカーによって企業化された。1960年代になって,生化学の一分野である分子生物学が著しく進歩し,微生物における物質の生合成の機構の解明が進んだ。さらに人為的に生合成を調節できるようになったため,発酵法によってイノシン酸を安価に製造できるようになり,企業化が進んだ。うま味成分は単独よりも複合して用いると,味に相乗作用がでていっそう美味になる。そこで複合調味料(グルタミン酸に核酸系調味料であるイノシン酸あるいはグアニル酸を混合したもの)や風味調味料(化学調味料に鰹節,コンブ,シイタケなど天然だし原料の粉末やエキスなどを混合したもの。顆粒(かりゆう)と液体とがある)なども各種開発されている。化学調味料は食品添加物の一群として扱われるが,安全性が高いので使用規定はない。しかし一時に多量摂取すると異常を起こすことがあるので注意を要する。
執筆者:田島 真
現在,調味料全体のうち約2割が化学調味料であるが(出荷額ベース),その大半を占めるのがグルタミン酸ナトリウム(グルタミン酸ソーダ,略してグル曹ともいう)である。これがコンブのうま味の正体であることをつきとめ,1908年特許をとったのが池田菊苗である。池田の依頼を受けた2代目鈴木三郎助は自身で創業した鈴木製薬所(現,味の素(株))で製造,08年11月〈味の素〉の名で売り出した。当初はまったく売れず,軌道に乗ったのは10年近くたってからである。その後56年,協和醱酵工業がデンプンの加水分解糖などを原料に微生物の働きでグルタミン酸をつくる〈発酵法〉を開発した。これによって大量生産が可能になり,各社とも製法転換をすすめたが,この過程で業界の集約化がすすんだ。現在,メーカーは4社で,生産量では味の素が過半のシェアを占め,以下旭化成工業,協和醱酵工業,武田薬品工業の順になっている。いうまでもなく日本が世界最大の生産国である。需要はかつては輸出も多かったが,現在は内需が9割近くを占め,その内訳は家庭用4割弱,業務用6割強(大半が食品加工用,ほかに飲食店用)となっている。近年の生産量はピークだった69年の10万1000tに比べると8~9割の水準に落ち込んでいる。この要因としては,(1)諸外国で生産が開始され(日本企業の現地生産を含む),輸出が大幅に減ったこと,(2)消費の高度化につれ,単一の味付けがあきられ,国内需要も横ばいであることがある。このため各社は海外生産体制の強化,複合調味料や風味調味料など,より深みのある味の出せる調味料への多角化を進めている。
→調味料
執筆者:富沢 このみ
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
料理にうま味をつけるための調味料。グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸系、イノシン酸ナトリウムなどの核酸系、複合タイプがある。うま味調味料ともいう。
[山口米子]
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