イリオモテヤマネコ(読み)いりおもてやまねこ(その他表記)Iriomote wild cat

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イリオモテヤマネコ」の意味・わかりやすい解説

イリオモテヤマネコ
いりおもてやまねこ / 西表山猫
Iriomote wild cat
[学] Mayailurus iriomotensis

哺乳(ほにゅう)綱食肉目ネコ科の動物。世界中でただ1か所、沖縄県の西表島の森林だけに生息する。体長60センチメートル、尾長25センチメートル、体重4キログラムほどである。体は暗灰褐色で、背側で濃く腹側で淡く、多数の黒褐色の斑点(はんてん)が縦に並ぶ。オオヤマネコなどと同じく上あごの第2前臼歯(きゅうし)がなく、歯数は28本。耳の骨(聴胞)とその後ろにある骨の突起(後頭傍突起)が成獣でも離れている点が著しい特徴で、これにやや類似したネコ類は南アメリカのチリに産するコドコドOncofelis guignaだけである。単独で生活し、夜行性であるが、繁殖期には日中も出歩く。地上性でありながら木登りや泳ぎが巧みで、潜水もする。原生林の中にある湿地や沼や小川、マングローブ林、草原などでカルガモやバンなどの鳥、トカゲやヘビ、イノシシの子、カエル、カニ、オオコウモリなどを捕食する。1頭で面積約700ヘクタールの行動圏(ホームレンジ)があり、3~4日で一巡する。繁殖期は11月中ごろに始まり、雄は雌を求めて広い地域を歩き回り、つがいを形成する。雌が強く発情すると半月以上にわたる共同生活を営み、このときに妊娠を伴う交尾があると考えられる。妊娠期間は65日前後と推定され、5月ごろ大木の樹洞で2頭ぐらいの子を産む。子は1歳を過ぎるまで母親に保護される。寿命は飼育下で8~9年。

 発見が遅く、1967年(昭和42)に新属新種として発表されたきわめて原始的なヤマネコで、鮮新世に滅んだ化石ネコ類のメタイルルス族の生き残りと断定されている。貴重な種にもかかわらず生息数は約100頭と少なく、特別天然記念物、国際保護動物とされ、完全な保護対策が望まれているが、保護区の範囲や、イノシシわなの禁止など保護の内容で住民との意見が一致せず、十分な保護がなされておらず、絶滅が心配されている。

[今泉忠明]

『今泉吉典・今泉忠明・茶畑哲夫著『イリオモテヤマネコ 南海の秘境に生きる』(1978・平凡社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「イリオモテヤマネコ」の意味・わかりやすい解説

イリオモテヤマネコ (西表山猫)
Iriomote cat
Mayailurus iriomotensis

イエネコよりやや大きく尾が太い食肉目ネコ科の哺乳類。沖縄県西表島の特産,1965年に発見された。体長50~60cm,尾長約25cm,体重2~5kg。耳介が丸くその背面中央に白斑があり,体側には暗灰褐色の地に前後に走る暗色帯があるなどベンガルヤマネコに似るが,歯は1対少なく28本,脳が小さく,腰が下がっている。またすべてのネコ類と異なり,肛門腺が会陰部に開いていて悪臭が強く,のどを鳴らさない。犬歯後縁が鋭く,側頭筋の付着部が狭いなどの点から化石のメタイルルスに近縁の〈生きている化石〉と考えられている。池や湿地の多い原生林にすみ,昼は樹上,樹洞,洞窟などで休み,おもに夜間活動する。主食はクイナ,カモ,ネズミ,イノシシの子などであるが,昆虫,カニ,魚,カエル,トカゲ,ヘビ,小鳥,コウモリなども食べる。水に入るのをきらわず,大きな川も泳いで渡る。交尾期は12~3月。3~5月に1~2子を樹洞などに生む。子は約1年後に雌親から別れ独立する。寿命は8年前後。繁殖期以外は単独で生活し,各自が400~750haのハンティング・テリトリーを占有する。このテリトリーの中を狩りをしながら3~4日かけて巡回し,周辺にある大きな石,切株などに尿と肛門腺の分泌液をかけ,露出した地面に糞をしてサインポストとし,他の個体の侵入を防ぐ。生息数はわずか100匹前後と推定(環境庁,1994)され,イノシシわなにかかったり,犬におそわれたり,自動車事故にあったりして死ぬものがあるほか餌も十分でなく,生息地の破壊もあり絶滅が心配されている。1972年特別天然記念物。
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百科事典マイペディア 「イリオモテヤマネコ」の意味・わかりやすい解説

イリオモテヤマネコ

食肉目ネコ科の哺乳(ほにゅう)類。体長50〜60cm,尾長20〜25cm。西表(いりおもて)島特産,1965年に発見。原始的なヤマネコで,東南アジアのベンガルヤマネコとする説や中国大陸でかつて栄えたネコ科の祖先メタイルルスの直系の子孫であるという説などがある。山地の森林にすみ,トカゲやカエル,クイナなどを食べる。特別天然記念物。絶滅危惧IA類(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目ヤマネコ

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小学館の図鑑NEO[新版]動物 「イリオモテヤマネコ」の解説

イリオモテヤマネコ
学名:Prionailurus bengalensis iriomotensis

種名 / イリオモテヤマネコ
科名 / ネコ科
日本にいる動物 / ◎
解説 / 低地の水辺や湿地、林でえさをとり、1~5km平方メートルぐらいのはんいで生活します。1965年に発見されました。
体長 / 50~65cm/尾長20~25cm
体重 / オス3.5~5kg、メス3~3.5kg
食物 / 小型のほ乳類、は虫類、鳥などいろいろな動物
分布 / 沖縄県の西表島
絶滅危惧種 / ☆
天然記念物 / ☆特別天然記念物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イリオモテヤマネコ」の意味・わかりやすい解説

イリオモテヤマネコ
Felis iriomotensis; Mayailurus iriomotensis; Iriomote wildcat

食肉目ネコ科。体長約 60cm。体毛は黄褐色で縦に黒色斑が並ぶ。頸には5~7本の黒線がある。単独ですみ,普通は地上で生活する。夜行性で,イノシシの子,クマネズミなどの哺乳類,オオクイナ,バンなどの鳥類,トカゲ,カエル,コオロギなどを食べる。 1967年3月に毛皮,頭骨から新属・新種と同定されたが,分類の見直しから今はネコ属 (Felis) の一種とされる。西表島に分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のイリオモテヤマネコの言及

【遺存種】より

…種ばかりでなく,ファウナ(動物相)やフロラ(植物相),また個体群についても用いられることがある。ふつう沖縄本島のヤンバルクイナや西表(いりおもて)島のイリオモテヤマネコのように,島に孤立化している地理的に分布の狭いものが例にあげられているが,いろいろなカテゴリーのものが含まれている。すなわち,アメリカのバイソンのように,かつては個体数が豊富であったのに少数しか残存していないもの(数量的遺存種),メタセコイアのようにユーラシアの広い地域に分布していたものが,現在は中国四川省の限定された狭い地域にだけ生き残っているもの(地理的遺存種),シャミセンガイのように5億年もの間,ほとんど変化することなく例外的にゆっくりと進化したもの(系統的遺存種),ゾウのようにかつてはたくさんの類縁種があったのに,現在では2種しか存在せず類縁種の数が少なくなったもの(分類的遺存種)などである。…

【ネコ(猫)】より

…頰歯(きようし)は草食獣のように臼型でなく,上下の各1対が裂肉歯に特殊化している。前臼歯(ぜんきゆうし)は上あごでは第1あるいは第2前臼歯が消失し,各2~3対(オオヤマネコやイリオモテヤマネコMayailurus iriomotensisでは2対と少ない),下あごでは第1,第2前臼歯が消失して各2対あり,臼歯は上下に各1対しかないが,上あごの第4前臼歯と下あごの第1臼歯が大きく発達し,はさみの刃のようにかみ合って肉を切るのに適した裂肉歯となっている。ネコ類は肉片を丸飲みするため,食物をかみつぶすのに適した歯をもたない。…

※「イリオモテヤマネコ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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