改訂新版 世界大百科事典 「クイナ」の意味・わかりやすい解説
クイナ (秧鶏)
ツル目クイナ科の鳥の1種,または同科の鳥の総称。クイナRallus aquaticusはユーラシア大陸の中緯度地域に広く分布し,北方で繁殖するものは南方に渡って越冬する。日本では北海道の湖沼の草地や湿性草原で繁殖するが,数は多くない。本州中部以南では冬鳥。全長約28cm。頭上から背,尾,翼は褐色で黒斑があり,顔,のど,胸部は灰色,わきに褐色縦斑,腹部から下尾筒に白色と黒色の横縞模様がある。くちばしはやや細長く,黒褐色で一部分は赤い。湿地や川岸の草むらの中の地上に巣をつくり,6~7月に1腹6~7個の卵を産む。
クイナ科Rallidae(英名rail)の鳥は約140種からなり,全世界に広く分布している。全長約10~40cm。日本にはクイナ,オオクイナ,ヤンバルクイナ,ヒクイナ,ヒメクイナ,バン,オオバン,ツルクイナなど11種が分布する。飛翔(ひしよう)力は比較的弱いが,太平洋や大西洋の孤島にも分布し,多くの固有種に分化している。1981年に沖縄本島の山林で発見されたヤンバルクイナは飛翔力が退化している。こうした島嶼(とうしよ)産の種の中には二次的に飛行力を失ったものもいくつかあり,また生息環境の破壊や,人間とともに渡来したイヌ,ネコ,ネズミなどの天敵による捕食によって絶滅に追い込まれたものもある。全長約10~40cm。羽色はセイケイ属Porphyrioのように紫色や青色の鮮やかな色の鳥もいるが,大半の種は黒色,白色,灰色,褐色,くり色などの羽毛で,背や腹に暗色の縦斑や横斑をもち,どちらかといえば目だたない羽色のものが多い。くちばしは太くて短いもの,中程度の長さのもの,かなり細長いものなどがある。バンやオオバンのように上くちばしの基部が額部までのび額板を形成しているものでは,くちばしと額板の際だった色はテリトリー防衛やつがい形成のときのディスプレーに利用される。脚は一般にがんじょうで細長く,多くの種では湿地を歩くのに適応して足指やつめも長い。オオバン類の足指には葉状の水かきがある。生息環境は,種によってかなり異なり,草地,農耕地,荒地など乾燥した環境にすむものや,熱帯の森林にすむものもあるが,多くの種はヨシ原,水田,湿性草原,水辺に近い林などに生息している。警戒性が強く,人前にゆうゆうと姿を見せる種は少ない。驚くと走って物陰に隠れることが多く,敵に追われた場合でも長距離を飛ぶことはほとんどない。種によっては日中より夜間によく活動する。〈戸をたたくクイナの声〉として知られるのはヒクイナ(緋秧鶏,水鶏)の鳴声であるが,このコッ(またはカッと聞える),コッ,コッ,コッ,……と続ける声と警戒時やディスプレー中にも発するピリリー,キャラーなど強い叫び声は,この科の多くの種に共通の基本的な鳴声である。食物はその生息環境によっても種によっても異なり,水生植物の茎や根,各種の水生の小動物,草や木の芽,種子,陸生の巻貝類,昆虫類などさまざまである。
アフリカ西部の森林に生息するもっとも原始的なクイナと考えられているアフリカアシクイナHimantornis haematopusは,樹洞に営巣し,雛はシギ・チドリ類の雛のように明暗のまだらのある黄褐色の綿羽に覆われている。他の大部分の種はよく繁茂する草地ややぶなどの地上に巣をつくり,一部の種は樹上数mの枝上に巣をつくる。雛は真っ黒な綿羽を身につけているものが多い。
執筆者:安部 直哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報