動物分布(読み)どうぶつぶんぷ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「動物分布」の意味・わかりやすい解説

動物分布
どうぶつぶんぷ

動物の種または属などが生息している地域的な区分。動物は地球上のほとんど至る所に生息しており、このような生息場所の地理的な広がりが地理的分布geographical distributionである。種・属や、それより上位の分類群の地理的分布のパターンと、その成立過程は動物地理学によって研究される。一方、温度、降水量土壌植生やほかの動物の存在などの環境要因の変化に対応した動物の配置は生態分布ecological distributionであり、その研究は生態学によってなされる。個々の動物群の現在の分布は三次元的な空間の広がりとしてとらえることができるが、この場合の水平方向の要素と標高水深といった垂直方向の要素を区別して、それぞれ水平分布horizontal distribution、垂直分布vertical distributionとよぶ。

 動物はさまざまな環境に適応してきたが、環境に耐えうる個体の能力には一定の生理的限界がある。そのために、個々の種はその条件を満たす特定の地域でしか生存し続けることができない。また、個体の移動分散能力にも限界があるために、好適な環境が存在していても不適な地域があれば、それが障害となって移動が妨げられる。さらに、餌(えさ)となる生物、捕食者、競争種などのほかの生物の存在も、さまざまな形で分布に影響を与えている。一般に陸上動物の地理的分布の境界は、海、山脈砂漠などの地理的障壁や等温線のような気候要因と一致することが多い。しかし、大陸の配置や気候条件は固定したものではなく、地史的にみると大きく変化した。たとえば、南アメリカ大陸は中生代から新生代第三紀までほかの大陸から隔離されていたと考えられているし、ヨーロッパや北アメリカの温帯地域の大部分は、氷期には氷床に覆われた。したがって、動物の現在の地理的分布の状況を理解するためには、現在の気候や地形だけではなく、過去の気候や地形の変遷と、それに伴う動物の分布の変動や生理的能力の変化を考慮する必要がある。一方、分布圏内の小地域における生態分布には、地史的な要素よりも、ほかの生物の存在が重要である。また、人類の活動が広範になるにつれ農耕、牧畜、狩猟、工業などの発展に伴う、人類による直接的、間接的な環境の改変が、動物の分布に重大な影響を与えつつある。

[片倉晴雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「動物分布」の意味・わかりやすい解説

動物分布
どうぶつぶんぷ
animal distribution

動物の生息する地点または地域の広がりのこと。単に地理上の地点または範囲をいうのは地理的分布と呼ばれ,生息地域の環境が顧慮される小区域内の分布は生態分布と呼ばれる。動物には,飛行,歩行などのみずからの運動能力による分散や,海流,風などにより運ばれて,適した環境に分布を広げようとする傾向がある。しかし,山脈,大洋,川などの障壁や,洪水,土砂くずれなどの地殻変動,気候変動などの無機的環境要因,植物相,敵対する動物などの生物的環境要因などは動物の分布を大きく規制する。

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