インムニテート(その他表記)Immunität[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「インムニテート」の意味・わかりやすい解説

インムニテート
Immunität[ドイツ]

ヨーロッパ中世の法制史用語。ラテン語ではインムニタスimmunitas,英語ではイミューニティimmunityという。インムニタスは,古代末期のローマ帝国では,諸種の公的負担からの免除を意味する法技術的用語であったが,フランク王国では主として教会所領の特別な国制上の地位を表すようになる。7世紀前半いらい,国王は諸修道院などにインムニテート特権状を与え,その所領を公的裁判権力の管轄外において公吏立入り,強制権の行使公課徴収を禁ずる(不輸不入)とともに,そうした諸権限を教会が自ら,またはフォークト(教会守護)を通じて行使することを認めた。教会領主はその所領内において,事実上,グラーフ(伯)に近い地位を認められたことになるが,逆にいえば国王はこの措置により国家の一般的統治組織に自ら穴をあけているわけである。一見矛盾した国王のこの政策は,一つには,グラーフシャフトなる統治組織が従来考えられていたほど普遍的ではなかったこと,もう一つには,国王がどうしても教会を国家統治の支柱とせざるをえなかったことから説明できる。インムニテートを教会政策の手段として自覚的に用いたのはルートウィヒ1世敬虔帝で,同帝は教会に対する貴族支配を排除して国王の保護下においたうえでこれにインムニテートを与えた。後にザクセン朝の諸帝のもとでこの政策は全面的に展開され,帝国司教教会と帝国修道院は帝国統治の最も重要な装置となるに至った。しかし,11世紀における教会改革の波が高まるとともに,旧来のインムニテートは世俗権力による教会支配の一形態として批判の対象となり,改革派の修道院は自らの〈自由〉を貫くため,教皇特権状を得てその保護支配権のもとに身を寄せるようになった。貴族建立の修道院に対して国王が発給したインムニテート特権状は1045年を最後にしてそれ以降のものは伝わっていない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「インムニテート」の意味・わかりやすい解説

インムニテート
いんむにてーと
Immunität ドイツ語
immunitas ラテン語

中世ヨーロッパにおいて、教会領(修道院領を含む)や俗人の所領が有していた特権。日本の荘園(しょうえん)がもっていた不輸不入権にあたる。インムニテート特権は、消極、積極の両面を含む。消極面では、(1)所領内の土地と住民とが負担すべき国家に対する貢租や労役からの免除、すなわち不輸、(2)国家の役人(グラーフ)が所領内に立ち入り、その権限(主として裁判権と警察権)を行使することの禁止、すなわち不入を意味する。積極面では、領主ないしその代理人が、国家の役人にかわってその権限を行使する権利を意味する。

 インムニテートとは、このように国家の側からの国家権力の行使の放棄であるから、原則として国家の側からの放棄の確認、すなわちインムニテート特権の賦与を必要とする。だが奇妙なことに、インムニテート賦与の文書は、教会領に関しては多数残存しているにもかかわらず、世俗領に関してはほとんど残っていない。この現象を説明するためには、自生的インムニテートという考え方を導入する必要があり、現在では、世俗領主は貴族としての実力に基づき、国家の側からの賦与によらずに自生的にインムニテートの権利を行使しえたとする見解が支配的になっている。

 それとあわせて考慮すべきは、国王のインムニテート政策という観点である。インムニテートをもつことにより、その所領は国家の地方行政組織から離脱して、自立的な支配領域を形成するわけであるから、従来の考え方では、それは国家の封建化にほかならない、とされたのであるが、カロリング時代後期よりグラーフ層の封建領主化が著しくなるのに対し、国王は教会領をグラーフの管轄から切り離し、インムニテートを与えることで、これを自己の直接保護下に置き、封建化の歯止めにしようとした、という新しい考え方が有力になってきている。このような政策は、ルードウィヒ敬虔(けいけん)帝の治下から始まり、オットー諸帝のもとでいっそう大規模に展開されて、ザクセン朝、ザリエル朝時代の帝国教会政策の基礎をつくりあげたと考えられる。

[平城照介]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「インムニテート」の意味・わかりやすい解説

インムニテート
Immunität; immunity

不入権と訳される。ヨーロッパの封建制度のもとで領主が獲得した政治的特権の根幹をなすもの。国王の役人が所領内に立入って公権力を行使するのを禁止することにより,領主権の独立性を基礎づけ,いわゆる荘園が形成されるにいたった。初めはフランク王国時代から教会所領に対して授与されたものであるが,のちには世俗貴族の所領にも拡大された。

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百科事典マイペディア 「インムニテート」の意味・わかりやすい解説

インムニテート

ヨーロッパ中世の法制史用語(ドイツ語)。ラテン語ではインムニタスimmunitas。元来はローマ法で公的負担免除の特権をさした。7世紀以降,国王からこの特典を得た教会領では,公課の徴収だけでなく公吏の立入および強制権(特に裁判権)の行使を免除され,一種の治外法権地域となった。後に高級貴族の世俗領でも国王の付与状なしに事実上これと同格の特権を行使した(自生的インムニテート)。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「インムニテート」の解説

インムニテート

不輸不入権(ふゆふにゅうけん)

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世界大百科事典(旧版)内のインムニテートの言及

【帝国教会政策】より

…これに対抗するため,オットー1世(在位936‐973)は部族超越的組織である教会勢力と結んで,国内統一を確保する政策を採り,以後歴代国王によって継承された。国王の側近に高位聖職者を用いて政策決定にあたらせるとともに,政策の忠実な実行者を各地の大司教,司教,帝国修道院長に配置し,教会領にインムニテートを与えて世俗権力から保護するとともに,高級裁判権,貨幣鋳造権,市場開設権,関税徴収権等の特権を賦与し,王領地の管理や,ときには地方行政のかなめであるグラーフシャフトの管理をさえ,これにゆだねた。 この政策を遂行するためには,国王が聖職者の叙任権を握っていることが前提であり,司祭の任命権は教会設立者の手に留保されるという,ゲルマン的私有教会の観念がこれを支えていたのである。…

※「インムニテート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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