ウィルヘルム・マイスター(英語表記)Wilhelm Meister

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

ウィルヘルム・マイスター
Wilhelm Meister

ドイツの詩人,作家ゲーテ教養小説。『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』 W. M.s Lehrjahre (8巻,1795~96) と『ウィルヘルム・マイスターの遍歴時代』 W. M.s Wanderjahre (3巻,1821~29) の2部から成る。『修業時代』はゲーテが 28~37歳の時期に書いた初稿『ウィルヘルム・マイスターの演劇的使命』 W. M.s theatralische Sendungをもとに 45歳 (1794) のときに着手し,演劇のモチーフを人間形成の問題にまで高めたもの。続編『遍歴時代』はシラーの忠言をいれて書かれたもので,完成までに 22年を要した。すぐれた資質をもちながら確固たる意志に欠ける情熱的な青年ウィルヘルムの内面的な成長を描く。旅回りの一座に加わったウィルヘルムはミニヨンらの女性に囲まれ,シェークスピアに触れ,次第に広い世界に目を開かれていく。『遍歴時代』では女優との間にもうけた息子を連れて旅に上り,副題「諦念の人々」 Die Entsagendeの示すとおり,欲望をおさえて社会での現実的な役割に目ざめ,有用な仕事に専心することを学ぶ。息子の教育をゆだねる「教育州」の叙述,アメリカに計画される理想的共同体のくだりも有名。ドイツ文学の主流をなす教養小説の頂点に立つ作品といわれ,後代に与えた影響は,はかりしれないほど大きい。

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ウィルヘルム・マイスター

ゲーテの長編小説,その主人公。第1部《修業時代》(1796年),第2部《遍歴時代》(1829年)からなる。とくに第1部は教養小説の代表作として,その後のドイツ小説の規範となった。市民の家に生まれた主人公は失恋を機に演劇の世界にとびこみ,さまざまな経験をとおして人間的に成長し,同志的な結社の一員となる。第2部は副題〈諦念の人々〉で,社会に有益な活動をするためには自己の職務を限定集中する必要のあることを自覚した主人公は外科医を志し,やがて結社は新大陸アメリカに移って理想の社会を建設しようとする。いくつもの短編や手紙,箴言(しんげん)などが挿入され,形式は統一を欠くが,20世紀の小説の先駆ともいわれる。第1部に登場する可憐な少女ミニョンの物語は,トマ作曲のオペラにもなっている。
→関連項目アクロバットウィーラントノバーリス

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ウィルヘルム・マイスター
うぃるへるむまいすたー
Wilhelm Meister

ドイツの詩人ゲーテの長編小説。「修業時代」Lehrjahre(1796)と続編「遍歴時代」Wanderjahre(1829)の2編がある。一個の人間が社会のなかでいかに自己を形成してゆくかを主題とするドイツ教養小説の代表作品。戯曲『ファウスト』と同じく、その成立に50年以上を要しており、ゲーテの生活と思想を知るうえでも重要である。ゲーテは初め、主人公ウィルヘルムがドイツの国民演劇を創始することをテーマとして『ウィルヘルム・マイスターの演劇的使命』を書いたが、これは中断され、のちに新しい構想のもとに書き直された。これが「修業時代」である。初めの演劇的経験は主人公の人生修業の一段階にすぎず、彼は「塔の結社」というフリーメーソン風の秘密結社によってより広い世界に導き入れられ、具体的に世のためになる実践的生活に入るべきことを学ぶに至る。富裕な商人の子マイスターは芝居に熱中するうちに女優マリアーネを愛するが恋に破れ、やがて自分も旅回りの劇団に加わり、貴族社会に接し、「美しき魂」といわれる敬虔(けいけん)な女性によって宗教生活の美しさを知る。主人公の成長に大きな影響を与えたシェークスピアの世界を知らせたヤルノー。その妹で恋に破れて死ぬアウレーリエ。その愛人で、新しい農業経営法によって実際的生活の意義を探るロターリオ。その妹ナターリエは、かつて盗賊に襲われて負傷したマイスターを助けた騎馬の女性であるが、2人は最後に結ばれることになる。マイスターを慕うミニヨンと老竪琴(たてごと)弾きは奥深い歌によって人生の深淵(しんえん)をのぞかせ、見知らぬ国への憧憬(しょうけい)をかき立てる。はすっぱで官能的で純情なフィリーネの魅力的な姿も忘れがたい。
 続編では、遍歴の旅に出た主人公が、産業革命以後の社会的変革を予想させるさまざまな環境で見聞を広めながら、近代社会では多面的教養が究極の目的ではなく、一つの具体的な職能を身につけるべきことを悟る。とりわけ「教育州」で彼が学ぶ三つの畏敬(いけい)、「われわれ以上のもの、われわれに等しいもの、われわれ以下のもの」に対する畏敬の教えが印象的である。「遍歴時代」はまとまりのある小説というよりは、さまざまな小話の集成であって、ゲーテはそこで、新時代に生きる人々に向かって自分の最晩年の思索や問題意識を自由に開陳していると考えられる。[小栗 浩]
『前田敬作・今村孝訳『ゲーテ全集7 ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』(1982・潮出版社) ▽登張正実訳『ゲーテ全集8 ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』(1981・潮出版社)』

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