ウイルス性出血熱(読み)ウイルスせいしゅっけつねつ(英語表記)viral haemorrhagic fever

  • (感染症)
  • Viral hemorrhagic fever
  • ウイルス性出血熱(ウイルス感染症)

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

アレナウイルス,フィロウイルス,ブニヤウイルス,フラビウイルスの四つの科に属する種々のウイルスによって起こる感染症の総称発熱から始まり,重症化すると体のあちこちの粘膜から出血し,ショック状態に陥り,死にいたることも少なくない。アフリカなどで各種の動物からそれまで知られていないウイルスがヒトに感染,いわゆる突発感染症 emerging infectious diseaseとして恐れられる。黄熱デング熱,腎症候性出血熱が古典的であるが,アフリカなどの開発と交通網の発達により,いろいろな出血熱が突発的に知られるようになった。代表的なものにエボラ出血熱マールブルク病ラッサ熱クリミア・コンゴ出血熱がある。これら四つの出血熱は日本では,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 (感染症新法) でペストと並ぶ1類感染症に指定されている。

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内科学 第10版の解説

(4)ウイルス性出血熱(viral hemorrhagic fever:VHF)
定義・概念
 ウイルス感染により発熱,出血(皮下,粘膜,臓器),多臓器不全を引き起こす病態の中で,特にエボラウイルス(エボラ出血熱,Ebola hemorrhagic fever:EHF),マールブルグウイルス(マールブルグ出血熱,Marburg hemorrhagic fever:MHF),クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(クリミア・コンゴ出血熱,Crimean-Congo hemorrhagic fever:CCHF),ラッサウイルス(ラッサ熱,Lassa fever:LF),フニンウイルスなど南米出血熱ウイルス(南米出血熱,South American hemorrhagic fever:SAHF)によるものをウイルス性出血熱とよぶ.日本では感染症法により一類感染症に分類されている.
病原体
 現在のところエボラウイルスには5亜属(ザイール,スーダン,アイボリーコースト,ブンディブジョ,レストンエボラウイルス)が,マールブルグウイルスには1亜属のみ存在する(表4-4-12).レストンエボラウイルスだけは,これまで霊長類に対して高い致死率のVHFを引き起こすことが知られているが,ヒトには病原性を示さないか,病原性を示したとしてもそれは低いものと考えられている.そのほかVHFを発症させるウイルスは表4-4-12
のように分類される.
感染経路
 すべて動物由来感染症である(図4-4-21).エボラおよびマールブルグウイルス,CCHFウイルス,ラッサウイルスなどのヒトへの感染経路は,それぞれオオコウモリ,ダニおよびヒツジなどの動物,ネズミなどの齧歯類である.宿主動物から排出されるウイルスに直接感染する場合と,宿主動物から別の動物が感染し,その感染動物から間接的に感染する場合とがある.ヒトからヒトに感染することもある(院内感染や家族内感染).
疫学
 図4-4-21に流行地を示した.VHFは日本には存在しない.MHFは1967年にウガンダから輸入されたアフリカミドリザルを感染源にドイツとユーゴスラビアでVHFが流行したときに名づけられた病名で,分離された原因ウイルスはマールブルグウイルスと命名された.1976年にはスーダンとコンゴ民主共和国においてほぼ同時にVHFが流行し,そのときに原因ウイルスとして分離されたウイルスがそれぞれスーダンエボラウイルスとザイールエボラウイルスである.MHFとEHFの流行は,現在でもアフリカ熱帯雨林地域で続いている.VHFの中でもCCHFのみアフリカ以外の地域(東欧,中近東,中央および南アジア)でも流行している.ダニが媒介することからその活動性の高まる時期に,北半球では春から初夏にかけて流行する.
 VHFは日本にとって輸入感染症として認識されている.これまで流行地以外の地域で発生したVHFでは,LF例が最も多く,日本を含む各地で発生が確認されている.2008年には,ウガンダの洞窟でマールブルグウイルスに感染して,母国に帰国後にMHFを発症した2事例(米国とオランダ)で報告されている.日本では1987年にシエラレオネから帰国したLFの男性患者が報告されている.
臨床症状
 それぞれのVHFの特徴と症状を表4-4-12に示した.各疾患の臨床症状にはそれぞれ若干の違いが認められるものの,基本的に特異的な症状はない.死亡率が高いことが特徴の1つである.VHFにおいては,出血性ショックに伴う循環不全,腎不全や肝機能障害,播種性血管内凝固症(disseminated intravascular coagulation:DIC)を伴うことが多い.LFでは髄膜炎などの中枢神経感染を呈したり,後遺症として難聴を残したりすることがある.また,CCHFでは,重症化の一因に血球貪食症候群(virus associated hemophagocytic syndrome:VAHS)が関与している可能性が指摘されている.
診断・治療・予防
 疑い患者を含めてこれらの疾患に罹患している患者を診た場合には,その医師は24時間以内(ただちに)に保健所に報告しなければならない.また,各都道府県に設置されている一類感染症指定病院に搬送することが望ましい. 診断には,患者から得られた検体(血液,組織,など)から病原体を検出すること(RT-PCRによる遺伝子診断,抗原検出ELISA,ウイルス分離)と,病原ウイルスに対する抗体を検出する血清診断が基本である.VHF関連ウイルスはバイオセーフティレベルが最も高い高度封込研究施設でのみ扱われる.これらの感染症の診断には特殊な技術を要するため,必要なときには国立感染症研究所(東京)に相談する.
 EHFおよびMHFに対する特異的な治療法はない.DICが病態に強く関与しているため,その対策が重要である.CCHFに対する抗ウイルス薬リバビリンの効果に関する明らかな結論は得られていないが,LFにはリバビリンが有効とされている.
 各疾患の感染予防には,それぞれの疾患における宿主からヒトへの感染経路を勘案して対策を講じる.EHFやMHFに罹患しないようにするには,流行地のウイルス宿主のコウモリが生息する洞窟や鉱山には入らない,野生動物には触れない,患者との無用な接触を避けるなどの対策が,CCHFの場合には,流行地でダニに咬まれないようにすること,家畜や野生動物にむやみに触れないことなどが有効な感染予防策である.LF予防には,流行地で滞在・生活を送る上で,齧歯類に触れないようにすることが必要である. VHFは院内感染対策をより厳重に実施されなければならない.VHFは,おもに接触感染経路で感染が拡大するが,飛沫感染経路で感染が拡大することは否定できない.マスク,ガウン,グローブ,ゴーグルなどによる標準感染予防策に加えて,接触感染予防策・飛沫感染予防策が講じられる必要がある.採血時や処置時の針刺しなどの事故を起こさないことが重要である.アルゼンチン出血熱に対しては,日本で使用することはできないものの有効なワクチンが開発されている.[西條政幸]

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六訂版 家庭医学大全科の解説

どんな感染症か

 ウイルス性出血熱(VHF)は、発熱、出血(皮下、粘膜、臓器)、多臓器不全を引き起こすウイルス感染症と定義され、以下のウイルス感染症が含まれます。

 エボラ出血熱(エボラウイルス感染症)、マールブルグ出血熱(マールブルグウイルス感染症)、クリミア・コンゴ出血熱(クリミア・コンゴ出血熱ウイルス感染症)、ラッサ熱(ラッサウイルス感染症)、南米出血熱(なんべいしゅっけつねつ)(フニンウイルスなどの新大陸アレナウイルス感染症)、腎症候性出血熱(じんしょうこうせいしゅっけつねつ)(ハンタウイルス感染症)、ハンタウイルス肺症候群(ハンタウイルス感染症)、黄熱(おうねつ)(黄熱ウイルス感染症)、デング出血熱(デングウイルス感染症)、リフトバレー出血熱(リフトバレー熱ウイルス感染症)などです。

 エボラ出血熱マールブルグ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、南米出血熱は、とくに死亡率の高いウイルス性出血熱であり、日本の感染症法では1類感染症に指定されています。エボラウイルス、マールブルグウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、ラッサウイルス、新大陸アレナウイルスは、国際的には高度安全研究施設でのみ、その扱いが許されています。

感染経路と流行地域

 ウイルス性出血熱の原因ウイルスのほとんどは、哺乳動物が宿主(しゅくしゅ)です。宿主動物から排出されているウイルスにヒトが感染するとウイルス性出血熱を発症します(いわゆる人獣共通(じんじゅうきょうつう)感染症)。また、クリミア・コンゴ出血熱や黄熱、リフトバレー出血熱は、それぞれウイルスに感染しているダニや蚊を介してヒトが感染して起こるもので、いわゆる節足動物媒介(せっそくどうぶつばいかい)感染症でもあります。

 そのため、原因ウイルスにかかわる宿主動物や媒介節足動物の分布に一致して、それぞれのウイルス性出血熱の流行地が決まっています。エボラ出血熱マールブルグ出血熱ラッサ熱はアフリカに認められる病気です。腎症候性出血熱は、韓国、極東地域、中国、東ヨーロッパ、北ヨーロッパにかけて広く分布する病気です。

 日本のネズミも、腎症候性出血熱の原因ウイルスであるハンタウイルスに感染していることが確認されていますが、最近では腎症候性出血熱患者の発生はありません。1987年に西アフリカから帰国した男性がラッサ熱を発症した例がありますが、それを除くとエボラ出血熱などのウイルス性出血熱患者は日本では確認されていません。

西條 政幸

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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