日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウズラ」の意味・わかりやすい解説
ウズラ
うずら / 鶉
common quail
[学] Coturnix coturnix
鳥綱キジ目キジ科の鳥。猟鳥、飼い鳥、食用卵、実験用動物としてなじみが深い。ユーラシアとアフリカに広く分布する。ユーラシアでは、イギリスと日本も含めて、北緯40~65度の地域に帯状に分布し、秋に南へ渡り、温帯から熱帯にかけて越冬する。アフリカでは南緯15度以南に繁殖分布し、非繁殖期には赤道付近まで広がる。このような長距離の渡りをする鳥は、キジ科ではほかにいない。日本ではおもに本州中部以北の草原で繁殖し、冬は暖地に移動するが、九州で越冬するものは、大陸から渡ってきたものである。
[竹下信雄]
形態・生態
全長18~20センチメートル。日本とその周辺の亜種は小形である。全身褐色で濃淡の縦斑(じゅうはん)がある。体は丸く、尾も短い。雄の夏羽は、のどから頸(くび)にかけて赤褐色(ヨーロッパのものは黒と白の帯模様)であるが、雄の冬羽と雌のこの部分は淡い褐色である。丈の高い草が密生している所には入らないが、穀物畑、牧草地、湿地の草原、半砂漠の叢生(そうせい)地、砂漠のオアシスなど、広い環境で繁殖する。越冬する場所も似たような環境を選ぶ。外敵にあっても、草陰に潜むか走って逃げることが多く、めったに飛び立たない。雄は繁殖期(日本では4~8月)に盛んに鳴く。日本のものはアッジャッパーと、かつての流行語のように聞かれるが、ヨーロッパのものはかなり違っていて、wet my lipsと聞きなされている。この鳴き声によって、雄は自分の縄張り(テリトリー)を確保し、雌を迎え入れる。草むらの中に、地面に浅いくぼみを掘り草を敷いて巣とし、淡黄灰色の地に暗褐色の斑紋のある卵を7~15個産む。雌だけが抱卵し、16~21日後にいっせいに孵化(ふか)する。食物は地上を歩き回って採食する。他のキジ科の鳥と同じように、草の種子などの植物質のものが主であるが、昆虫、クモ、カタツムリなど動物質のものもとる。
[竹下信雄]
人間生活とのつながり
かつてウズラは数が多く、人の近づきやすい環境におり、肉も美味なので、各地で盛んに猟獲された。ヨーロッパ産のものが越冬のために渡来するエジプトでは、1930年代まで多量のウズラを捕獲して、毎年200万~300万羽も食用としてヨーロッパに輸出していた。日本でも1920年代には網やわなにより毎年50万~60万羽がとられていた。近年では生息数の減少に伴い、数万羽にすぎないが、猟犬を使った銃猟の絶好の対象とされている。飼養の伝統は日本が古く、その技術も優れている。起源は明らかではないが、古くから飼われて増殖しカイウズラ(飼い鶉)の系統ができており、江戸時代には、とくに上流階級が雄の長く続く鳴き声を好み、鳴き合わせをして楽しんだ。この系統のものを鳴きウズラまたは巾着ウズラ(きんちゃくうずら)というが、1960年(昭和35)ごろにはほとんど絶えてしまった。現在日本で飼われているものは、ほとんどが採卵用に大正中期にカイウズラからつくりだされた系統である。飼いやすく多産で、世代交代が早いので、実験動物としても多く飼われる。また、狩猟用として、野生化の訓練を施して放鳥される。
[竹下信雄]
飼養
産業として飼育する場合、産卵用の雌と食肉用の雄(孵化後約50日で出荷)は、縦横40センチメートル、高さ12センチメートルほどの籠(かご)に15~20羽入れて飼う。早熟で、孵化後40日後には産卵を始め、餌(えさ)などの管理が行き届くと、1羽の雌の産卵数は平均して年間270個に達するが、産卵開始後1年から1年半たつと産卵率が低下するので、肥育のうえ食用鳥とする。繁殖用の種鳥(たねどり)に使うものと、狩猟用に放鳥するものは、孵化後1か月たつと屋外で飼われ、自由に動き回って体力をつける。さらに、放鳥用は孵化後3か月で、広い細長い小屋に移され、銃猟しやすい直線的な飛行法を覚えさせられる。孵化後4か月たって雌雄ともに繁殖能力が安定する。チャボなどのニワトリに抱卵させることもあるが、現在では普通、孵卵器で雛(ひな)をかえす。
家庭などで小規模に飼うには、ミカン箱などで飼育箱をつくる。後面は荒く板を張って通風をよくし、床は簀子(すのこ)にして前に傾斜させる。絶えず点灯し、雛にはチックフードを与え、しだいにウズラ用配合飼料にする。1羽当り20グラムを朝夕2回与えるほか、青菜、貝殻なども適宜与えるとよい。
[竹下信雄]
食品
ウズラは、肉が白く、味は淡泊で特有の風味がある。近東では古くから食用とされていたようで、モーセがユダヤ人を連れ、エジプトから出て荒れ地をさまよっていたとき、ウズラの大群がきて、これを食べたことが、『旧約聖書』に記されている。日本では高級な料理とされ、とくに、朝廷や武家の礼式の場合にはウズラが鶉羽盛(うずらはもり)として出されたという。これは、ウズラが飛び立つような形にこしらえたもので、たれをつけて焼いたウズラに、羽や尾を添えて盛ったものである。
ウズラは、肉の部分が少ないので、普通は骨といっしょに調理することが多い。骨付きのままつけ焼き、さんしょう焼き、ロースト、から揚げなどにする。また、骨とともにたたいて寄せ物、揚げ煮、焼き物にもする。そのほか、雑炊、鍋(なべ)物などと利用範囲が広い。ウズラの身はタンパク質に富み、ビタミンではB2が多い。
[河野友美・大滝 緑]
たまご
鶏卵に比べて形が小さいが、味は濃厚である。殻は割りにくいので、生(なま)のままで使うときは、卵の端を包丁で切りとるか、手で引き裂くようにするとよい。栄養成分は、鶏卵に比べタンパク質、脂質は大差ないが、ビタミンA、B1は鶏卵の2倍強もあり、ビタミンB2も鶏卵の1.5倍強ある。ウズラ卵は栄養があるといわれるのも、このあたりに原因がありそうである。
生卵は、そば、鍋物などのつけ汁や和(あ)え物に混ぜたりする。また、刺身のつけじょうゆに用いることもある。ゆでたものは各種料理に使用され、オードブル、サラダ、炒(いた)め物、中国料理のスープなどと利用範囲が広い。水煮缶詰も市販されている。
[河野友美・大滝 緑]