改訂新版 世界大百科事典 「ヒバリ」の意味・わかりやすい解説
ヒバリ (雲雀)
スズメ目ヒバリ科の鳥の1種,または同科の鳥の総称。ヒバリAlauda arvensis(英名skylark)は全長約17cm。全体に黄褐色で,頭上,背,胸に暗色の縦斑があり,眉と腹は白っぽい。ツンドラ地帯を除いた旧北区に広く分布し,日本でも全国の畑地や草地で繁殖している。また,カムチャツカや千島から冬鳥として日本に渡ってくるものも少なくない。草の根もとに,枯れ草や細い根を敷いて皿形の巣をつくり,1腹3~5個の卵を産む。おもに草の種子を食べるが,雛は昆虫と幼虫で育てられる。人間が農耕を始め,牧畜を拡大したことで,ヒバリのすみかが広がり,数も増えた。繁殖期には,雄は空中高く舞い上がって複雑なさえずりを長く続ける。このヒバリの歌を楽しむために,特別な籠に入れて飼うことが最近まで行われていたが,現在,野鳥の飼育は禁止されている。
ヒバリ科
ヒバリ科Alaudidae(英名lark)の鳥はどの種も草原,原野,畑,荒れ地,砂漠などの開けた乾燥地にすむ。地上を歩いたり走ったりしながら,草本の種子や昆虫・クモ類を見つけて食べる。後趾(こうし)のつめは著しく長くのび,地上での生活に適している。羽色は全体にじみで目だちにくい。砂漠にすむ種は羽色が褐色無地だが,草地にすむものは,程度の差はあれ,胸や背に黒褐色の縦縞の斑があり,環境にうまく融けこむようになっている。
ヒバリ科は旧世界のユーラシア大陸,アフリカの鳥で,とくにアフリカに多い。15属75種あまりに分類されるうち,アフリカにはその全属と約80%の種が分布している。アフリカから南アジアに広く分布するヤブヒバリMirafra javanica1種だけがオーストラリアまで分布を広げ,新世界のアメリカにはハマヒバリEremophila alpestrisただ1種が分布を広げ,そこで多様な環境に進出している。
ヤブヒバリ属Mirafraはアフリカが分布中心で,低木が疎生する半乾燥草地にすみ,ときには開けた林でも見られる。ハシボソヒバリ属Certhilaudaもアフリカ産で,細長いくちばしをもつ。スズメヒバリ属Eremopterixはヒワ類に似た太くてじょうぶなくちばしをもち,砂漠や岩石の多い地方にすみ種子を食べる。ヒバリ類のうちでもっとも砂漠性なのはスナヒバリ属Ammomanesで,アジアとアフリカの砂漠地方にすむ。おもにアジア産のコウテンシ属Melanocoryphaは大きなくちばしをもち乾燥草地に分布する。ヒメコウテンシ属Calandrellaは乾燥草地,カンムリヒバリ属Galeridaはやせた畑や荒れた草地にすむ。砂地の疎林に分布を広げたのはヨーロッパ産のモリヒバリ属Lullulaで,海岸や高地の湿ったやせ地にはハマヒバリ属が進出した。ヒバリ属Alaudaは畑や草地を好む。日本ではヒバリのほかにはクビワコウテンシ,ヒメコウテンシ,ハマヒバリがごくまれに観察される。
執筆者:長谷川 博
象徴,伝説
ヒバリは朝を象徴する鳥であり,その歌声は清浄な愛をあらわすとされ,夜の愛を歌うナイチンゲールの対をなす。アッシジのフランチェスコは小鳥たちに説教したことで知られるが,とりわけこの鳥を愛でた。彼の死に際してはヒバリが寓居の屋根で輪をつくり,哀悼の歌をうたったという。早起きでかいがいしく動き回るので,イギリスには〈子羊とともに寝てヒバリとともに起きよGo to bed with the lamb, and rise with the lark〉とのことわざがある。空高く舞い上がりさえずりつづける姿は,しばしば天空とか芸術的な高揚に結びつけられ,イギリスの詩人W.ブレークはこれを詩的霊感の訪れとみなした。春を告げる鳥の一つでもある。
執筆者:荒俣 宏
民俗
ヒバリは鳴声がよいので,かつては飼い慣らして野外で放し,空中でさえずらせたり,滞空時間の長さを競ったりする〈放し雲雀〉や,籠の中の台から飛びたたせてさえずらせる〈台切り〉の遊びが行われた。ヒバリの鳴声と飛翔(ひしよう)の有様が特徴的なため,昔話の〈雲雀金貸〉では,ヒバリは借財の返済を催促するために,毎日天にのぼってさえずるのだと語られている。また,ヒバリの鳴声と飛翔のようすから天候を占う例は全国的に見られるが,晴れた日に空高く舞い上がるので,この鳥を太陽の使者とみなした例もある。ヒバリは繁殖期にのみ鳴き,初夏には畑地,草原などに巣を営んで産卵するが,この鳥に危害を加えると火事になるなどの俗信があって保護されてきた。
執筆者:佐々木 清光
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報