改訂新版 世界大百科事典 「ウニ」の意味・わかりやすい解説
ウニ (海胆)
sea-urchin
sea-porcupine
ウニ綱に属する棘皮(きよくひ)動物の総称。ウニ類はすべて海産で,潮間帯の石の下や岩のくぼみにすむものから,水深6000mの深海にまで生息の範囲を広げている。現在約900種が知られており,太平洋~インド洋海域がもっとも種類が多く,アフリカ,オーストラリア,日本,ハワイへと広がっている。
形態と機能
ウニ類は正形類と不正形類とに大別される。正形類はバフンウニやムラサキウニなどのように半球状の殻をもち,不正形類はブンブクチャガマやタコノマクラの殻のように心臓形や扁平な楕円形をしている。
(1)外部形態 体は多くの石灰質の骨板が互いに密着して規則正しく配列した殻に包まれる。骨板には小孔が並んでいる板と孔のない板とがあり,同じ構造の2列が相接するので,殻全体は放射状に10列に並んでいるように見える。孔のある骨板の列を歩帯(管足帯),孔のない骨板の列を間(かん)歩帯(管足間帯)という。そして歩帯と間歩帯とは交互に配列している。骨板の上には乳頭状のいぼがあり,それにそれぞれ特有の長さや形をしたとげが連結し,その部分の筋肉によってどの方向へも動かすことができる。とげの形にはコシダカウニのように密生する短いとげや,パイプウニのように太いもの,ガンガゼのように長い針のようなものまでいろいろある。種類によっては一つの殻に大棘(だいきよく),中棘,小棘の3種のとげをもつものもある。
とげの間には叉棘(さきよく)という先端がくちばし状になった小さいとげがあり,体表に付着した異物を取り除くとか,小動物をとらえるとか防御に役だて,なかには毒腺の袋をもっているものもある。骨板の小孔からは管足が体外に突出する。管足は筋肉質の円筒状の管で,先端に吸盤があり,伸縮させて餌をとったり,移動に役だて,この動物群特有の運動器官である。
殻の下面中央部に5個の石灰質の歯からなる〈アリストテレスのちょうちん〉という口器がある。この口器はじょうぶで海底の有機物や海藻類,動物の死体などをかじって食べる。口器の周辺の皮膚にはえらがある。肛門は背面の中央部に開き,小骨片で取り囲まれる。肛門の周囲には5個の生殖板と5個の眼板とがあり,生殖板のうちの1個は大きく,たくさんの孔が開いていて,とくにこれを穿孔(せんこう)板と呼んでいる。各生殖板には1個の生殖孔が,各眼板には1個の眼点がある。穿孔板からは管を通じて海水が体内に入る。
不正形類では体が扁形か卵形で,カシパンやタコノマクラなどは管足が出る歩帯が5個の花紋状に並び,その中央に4個の生殖孔が開く。口は体の下面中央部にあり,肛門はそのやや後方か後端にある。心形類ではアリストテレスのちょうちんがないので,口の周囲にある触手で砂泥を消化管の中に取り入れ,その中の有機物を栄養にする。
(2)内部形態 消化器官は口器から細長い食道になり,薄い膜の太い胃に連絡する。胃は時計の逆回りにひと回りし,その後折り返して,その背側を時計回りに回って肛門に通じている。体内の主要器官はいずれも放射状に配列していて,歩帯には管足系(水管系)と神経系があり,間歩帯には生殖巣がある。水管系は棘皮動物特有の器官である。殻の頂上にある穿孔板から下方に向けて石管がのびて,食道を取り巻く環状管へ連絡する。環状管から5本の放射管が出,そのほかに5個のポーリ氏囊が等間隔に付属している。それぞれの放射管の両側からは多数の小枝管を出し,これが管足の内部に通じ,基部には瓶囊がある。瓶囊の中の海水が管内に押し出されると管足がのびて長くなり,管足壁の筋肉が収縮すると短くなる。雌雄異体で,雌では5個の卵巣が,雄では5個の精巣が間歩帯の内側に並ぶ。不正形類では1個減少して4個になっている。神経系と血管系とは水管系と同じような配列をしている。中枢神経系はまだ分化しておらず,血管系にも心臓のように収縮して搏動(はくどう)する部分は見られない。不正形類の諸器官は正形類とほとんど同じであるが,肛門が腹面に開くので,消化器官の位置が正形類と異なっている。
発生
雌雄とも生殖巣が成熟すると,卵や精子は生殖孔から直接海水中に放出され,受精する。生殖期は年1回で,時期は種類によって異なり,また同種でも地域的に差が見られる。卵は等黄卵で,卵割は全割。分割を繰り返し,囊胚期を経て,大きさが約0.5mmの4本の腕をもったプルテウス幼生(ウニのものをとくにエキノプルテウスechinopluteusと呼ぶ)になって浮遊生活し,その後成長して8本の腕をもつ幼生になる。受精後約1ヵ月するとこの幼生の体の中に小さな塊ができる。これにとげや管足が生じ,8本の腕がおちると底生生活に入る。キタムラサキウニは2~3年で親になり,10年間ほど生きるといわれている。
生態
すべて海産で,汽水や淡水にすむものはない。ウニ類は海藻の褐藻類や石灰藻類をおもに食べるが,ウニの消化液には植物を消化する酵素が含まれていないので,腸内のバクテリアによって消化される。
東北地方から北海道にかけて分布するエゾバフンウニやキタムラサキウニは,コンブやワカメの有用海藻類を食べて害を与えるが,ウニも重要な水産資源の一つであり,ある程度の害を受けるのはしかたがないと思われる。
とげに毒を含むものが多く,ガンガゼの細長いとげが皮膚に刺さると非常に痛い。ラッパウニは叉棘がらっぱ状に開いていて,毒液を分泌する。イイジマフクロウニなどのフクロウニ類にも強い毒があり,とげにさわると腕が麻痺してしまう。一般にくぼんだ場所や石の下などに隠れるが,餌をとりにはい出した後は再び元の場所に帰る。タワシウニは殻を回転させて岩の穴を広げることができる。シラヒゲウニ,エゾバフンウニ,バフンウニなどは管足で小石や海藻片,ごみなどを殻の表面につけてカムフラージュするが,そのようなことはしないウニのほうが多い。アカウニの口の周囲やとげの間には,ムラサキゴカクガニや小型巻貝のアカウニヤドリニナやヤマモトヤドリニナなどが寄生し,ムラサキウニのとげの間にも全身黒紫色の小さなエビが隠れ,口の周囲には巻貝のキンイロセトモノガイが寄生する。
利用
日本ではウニの生殖巣を生のまま,あるいは塩漬にして食べるが,地中海に面する国々でも盛んである。材料として用いられるものはムラサキウニ,キタムラサキウニ,エゾバフンウニ,コシダカウニ,アカウニ,シラヒゲウニなどである。食用以外では,パイプウニのとげを加工してパイプやのれん,その他の細工物にする。
最近は卵を受精させ,直径1cmほどの稚ウニまで陸上で人工飼育し,その後海中に放流する栽培漁業も行われている。
地方ではエゾバフンウニをガゼやボウズガゼ,キタムラサキウニをノナ,ムラサキウニをクロガゼ,アカウニをオニガゼなどの方言で呼ぶことが多い。
執筆者:今島 実
民俗
地方の呼び名にも残る〈かせ〉,〈がぜ〉はウニの古称で,古くは霊臝子,甲棘蠃,棘甲蠃などの字をあてた。《日本山海名産図会》が〈是塩辛中の第一とす〉としているように,古来ウニといえば,現在の塩ウニなどのように,ウニの生殖巣を塩漬にしたものをいった。《令義解(りようのぎげ)》や《延喜式》に貢納物などとして甲棘蠃の名が見えるが,これも当然塩ウニであったと思われる。催馬楽(さいばら)に〈御肴に何よけむ鮑(あわび)栄螺(さだお)か可世(かせ)よけむ〉とあるように,古くから酒のさかなとして喜ばれたもので,江戸時代には肥前,薩摩,越前などの産が良品とされ,なかんずく越前のそれは美味をうたわれた。料理としては,ウニ田楽,ウニ焼きなどがよく行われたようである。前者は塩ウニを酒でのばして豆腐に塗って焼くもの,後者は現在のように魚などに塗って焼くもののほか,土なべなどに酒を入れ,細く削った鰹節を敷き,その上に塩ウニをのせて火にかけ,ふわふわになったところで食べるというものであった。現在では生ウニも賞味されるが,これは他の多くの生鮮魚貝類と同様,昔は生産地以外では享受しえぬ美味だったと考えられる。なお,塩漬にしただけの塩ウニのほか,粒ウニ,練りウニなどと称する市販品があるが,これらは塩ウニにアルコールを加えたものを,品質によって区別しているものである。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報