フィン・ウゴル語派系のフィン語派に属するバルト・フィン諸語Balto-Finnicの一つで,バルト海に臨むエストニア共和国で話されており,言語人口は同共和国で96万余,旧ソ連全体で約103万(1989),アメリカ合衆国などにも相当数いる。北(タリン)と南(タルトゥ)の方言に分かれるが,その差は大きい。標準語は北方言に立脚している。音声面では閉鎖音b,d,gは無声化し,母音間のp,t,kは少し長めである。ほかに子音ではm,n,l,r,s,h,j,vがある。母音は第1音節にa[ɑ],e,i,o,u,õ[ə],ä[a],ö[φ],ü[y]の九つが,第2音節以降にはi,u,e,aの四つが現れる。母音と子音は3段の長さをもつ。たとえば子音では,(1)vaga[vɑɑ]〈固い〉,(2)vaka[vɑkɑ]〈升の〉,(3)vakka[vɑkːɑ]〈升へ〉の3段階((3)(2)(1)の順に長い)があり,母音では,(1)koli[koli]〈ごみ〉,(2)kooli[koːli]〈学校の〉,(3)kooli[koːli]〈学校へ〉となる。形態的には名詞は15格に変化する。たとえば,そのなかには内格koolis〈学校の中に〉,出格koolist〈学校の中から〉などがある。動詞は直接法tulen〈私はくる〉,条件法tuleksin〈私はくるだろう〉,命令法tule〈こい〉のほかに伝聞法tulevad〈くるそうだ〉がある。最古の文献はバンラットWanradtの《教義問答》(1535)である。
→エストニア
執筆者:小泉 保
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ウラル語族のフィン語系バルト・フィン諸語の一つで、フィンランド語に近い。エストニア共和国の人口160万(1992)のうち約60%のエストニア人により話されている。北と南の方言に分かれ、その差は大きく、北方言に基づいてエストニア文語がつくられている。9の母音と16の子音からなり、lina「市」、linna「市の」、linnna「市へ」のように、母音と子音に3段の長さの区別がある。形態的には、名詞は単数と複数で、14格に変化する。動詞は人称と数により、現在と過去に活用し、直接法、条件法、命令法、伝聞法の四つの法をもつ。最古の文献としてはバンラッドWanradtとキョルKoellによる『教義問答』(1525)があり、クロイツワルトの手になる民族叙事詩『カレビポエク』Kalevipoeg(1857)も国民文学の基として知られている。
[小泉 保]
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…だがそこでも民族言語による学校教育が主体をなしつつも,やはりロシア語が必須として課せられていた。例えば,エストニアでは,ソ連時代には初等教育の段階でロシア語は初めに週4.5時間,後に2.5時間が割り当てられ,エストニア語の方は中学と高校で週4.5時間教えられていた。
[公用語の制定と言語戦争]
かつて強大な国家は植民地を支配するにあたり,自国の言語を被支配民族に押しつける政策をとってきた。…
※「エストニア語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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