エネルギー論(読み)エネルギーろん(英語表記)Energetik[ドイツ]

精選版 日本国語大辞典 「エネルギー論」の意味・読み・例文・類語

エネルギー‐ろん【エネルギー論】

  1. 〘 名詞 〙 すべての自然現象エネルギーによって説明できるとするエネルギー一元論。一八四〇年代「エネルギー保存の法則」の確立を基に、当時有力であった原子論に対抗して、ドイツオストワルトらによって唱えられた。〔稿本化学語彙(1900)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「エネルギー論」の意味・わかりやすい解説

エネルギー論 (エネルギーろん)
Energetik[ドイツ]

ドイツ語をそのままとってエネルゲティークともいう。ギリシアデモクリトスに発する原子論は,17世紀ヨーロッパで本格的に復活したが,それはやがてR.ボイル,ドルトンの系譜をたどって化学の世界に花開く。しかしその原子論と無関係ではないにせよ,物理学の世界で,原子論的世界観があらためて大きな問題となった時期があった。19世紀末から20世紀初頭にかけてのことである。この問題はドイツを舞台に繰り広げられたので,この物理学における原子論的世界観は,しばしば当時のドイツ語の用語をとってアトミスティークAtomistikといわれる。エネルギー論またはエネルゲティークは,このアトミスティークに対抗して提案されたもう一つの世界観である。

 アトミスティークとエネルギー論との論争の最初のきっかけは,1895年にリューベックで開かれたドイツ自然科学者・医師協会総会の席上で,オストワルトが行った,ボルツマンらのアトミスティークを批判する講演であった。主としてこのオストワルトの立場をエネルギー論と呼ぶ。アトミスティークが,物理的現象をすべて構成原子の力学的運動によって記述しうると考えるのに対して,エネルギー論は,物理的な概念や法則はすべてエネルギーを扱う法則系に還元されなければならないと主張する。アトミスティークを主張したボルツマンは,エネルギー法則として19世紀半ば過ぎに確立された熱力学の第2法則(エントロピー増大の法則)に分子の運動論的な解釈を与え,さらにそうした分子運動論では,ニュートン力学のような一義的な力学法則ではなく,確率統計的な方法の導入が必要であることを提唱した。こうした熱現象(あるいは熱現象に関する法則)の原子論的,かつ力学的な読換えに対して,オストワルトは,熱現象を原子的モデルでとらえるのではなく,エネルギーモデルでとらえるべきことを主張したのであった。

 こうしたエネルギー論の背景として,19世紀熱学展開のなかで,熱現象を現象論として把握するという態度が生まれており,それがボルツマンらの力学的原理に立ち戻ろうとする主張への反発を醸成したと考えられるが,その意味ではE.マッハもまたエネルギー論の側に立って,ボルツマン批判の論陣を張った。オストワルトは,実際上の存在としての原子を認めなかったわけではなく,一種の世界観としてのエネルギー一元論を抱いていたというべきだろう。ボルツマンは,みずからの熱学の統計力学への書換えのプログラムが人々に受け入れられない不満も原因の一つだったのか突然自殺してしまう(1906)が,その後の物理学の展開は,むしろボルツマンのプログラムの方向に進んだといえよう。
原子論
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百科事典マイペディア 「エネルギー論」の意味・わかりやすい解説

エネルギー論【エネルギーろん】

ドイツ語でエネルゲティークEnergetik。W.オストワルトが唱えた説で,ボルツマンらのアトミスティークAtomistikに対する。1895年に行われたオストワルトによるアトミスティーク批判に端を発したもので,物理的な法則や概念(狭義には熱現象のそれ)は,原子モデルではなく,エネルギーを扱う法則系にもとづかなければならないと説く。→エネルギー原子論
→関連項目エネルギー保存の法則

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エネルギー論」の意味・わかりやすい解説

エネルギー論
エネルギーろん
energetics

エネルゲティクともいう。 19世紀後半ドイツの化学者 F.W.オストワルトによって主張され,20世紀初頭まで有力であった科学思想。すべての自然現象は,エネルギーの移動と形態の転換によって記述されるべきであるという立場を取る。原子論と対立的立場にあったが,20世紀初め J.ペランがブラウン運動の観測からアボガドロ数を決定し,これが分子の実在を示す決定的証拠として当時の学界に受入れられるに及んで,以後次第にその立場を失った。

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世界大百科事典(旧版)内のエネルギー論の言及

【機械論】より

…カントからヘーゲルに至るこの古い機械論批判の過程において哲学用語としての〈機械論〉の概念が定着したのであるが,19世紀には事実上この意味での機械論はすでに乗り越えられていたのである。すなわち,古い機械論の産物であった燃素(フロギストン)説は乗り越えられて近代化学の成立となり,熱素(カロリック)説も克服されてエネルギー論Energetikが成立した。これは原動機モデルの機械論であった。…

※「エネルギー論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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