翻訳|emu
ダチョウ目エミュー科Dromaiidaeの鳥。大型の走鳥類で,現生の鳥ではダチョウに次いで2番目に大きい。全長約2m,頭高1.5~1.8m,体重36~54kg。体は暗灰褐色の粗い毛状の羽毛で覆われ,顔と首側は羽毛がほとんどなく,青色の皮膚が裸出する。くちばしは短く,やや平たい。翼は退化して小さく,飛ぶことはできない。あしゆびは3本。足はじょうぶで,時速40~50kmで走ることができ,また泳ぎもじょうずである。オーストラリアとタスマニアに分布したが,タスマニアとオーストラリア東部の人口密集地帯では絶滅した。しかし,西部オーストラリアでは現在でもかなりたくさんいる。開けた荒地や低木草原にすみ,繁殖期以外は小群で生活している。留鳥で,渡りはしないが,水をもとめて移動することがある。食性は一般に植物食で,各種の種子,葉,草,根などを食べ,とくに果実を好む。しかし,バッタや毛虫や甲虫類も相当に食べている。繁殖は通常秋・冬期(3~8月)が多い。雌雄は同色だが,鳴声が異なる。巣は地面のくぼみに葉や小枝を敷いてつくり,非常にうまく隠してある。卵は暗緑色で,1腹の卵数は7~12個。抱卵期間は58~61日であるが,その間雄がほとんど巣にいて卵を抱き続ける。雛は孵化(ふか)後数日で巣を離れ,雛の世話は雌雄でする。大型の鳥としては成鳥になるのは早く,2年目から繁殖を始める。
エミューの肉は牛肉に似ているといわれ,植民の初期には開拓民の重要な食料となった。また脂肪はランプの油として利用され,卵はオムレツにして食べた。開拓が進むと,この鳥は畑をふみ荒らし,穀物を食べ,柵を倒し,羊のための水を盗むという理由で,害鳥として駆逐されることになった。とくに1932年には,エミュー退治に軍隊が出動し,〈エミュー戦争〉をひき起こした。この戦争はエミューが分散したので完全な失敗に終わり,防柵をはりめぐらして畑を守ることになったが,60年代になってもエミューの殺害には奨励金が支払われていた。現在ではエミューのための保護区が設けられている。動物園でもよく飼われ,容易に繁殖する。エミューにいちばん縁が近いのはヒクイドリである。両者はよく似ているが,ヒクイドリは頭上に角質の突起をもっている。なお,エミュー科にはもう1種,カンガルー島およびキング島のクロエミューD.diemenianusがいたが,この鳥は1800年代の初めに絶滅した。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鳥綱ダチョウ目エミュー科の鳥。漢字ではと書く。大形の走鳥類で、現生の鳥ではダチョウに次いで大きい。全長約2メートル、頭高1.5~1.8メートル、体重36~54キログラム。体は暗灰褐色で、顔と頸側(けいそく)は皮膚が裸出して青い。ヒクイドリに似ているが、頭上に冑(かぶと)状の角質突起がない。オーストラリア大陸とタスマニア島に分布したが、タスマニアでは絶滅し、人口の多い東部オーストラリアでもまれである。低木を交えた草原や荒れ地にすみ、種子、芽、漿果(しょうか)などを主食としているが、昆虫類もかなり食べる。翼は退化し、飛ぶことはできない。最高時速40~48キロメートルで走り、泳ぎもうまい。巣は地面のくぼみに葉や小枝をすこし敷いただけで、1腹7~12個の卵を産み、雄だけで抱卵する。雛(ひな)の世話は雌雄でする。抱卵期間は58~61日。開拓の初期には、肉と卵は食用に、脂肪はランプの油として利用された。また畑を踏み荒らしたり、穀物を食べるために、最近まで報奨金を払って駆除していたが、現在では保護区が設けられている。各地の動物園でも飼われ繁殖している。
[森岡弘之]
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