チュートン民話に出てくる魔力をもつ小人。エルフの名は古代ノルウェー語álfrより派生し,古代チュートン語でalboz,西部サセックスではylfe,ケントではelf,またノーサンバーランドでは lfという古い形が残っている。この lfは古代高地ドイツ語alp(夢魔の意)より派生している。アングロ・サクソン時代にはエルフはspirit(精霊)を意味し,魔法使いから妖精まですべて包括していた。時代が下るにつれ意味が狭まり,花々の間を動き回るスカンジナビアの明るい妖精に類似したものだけに限られてゆく。F.ドラットル《妖精の世界》(1912)では,北方神話のエルフを〈明るいエルフ〉と〈暗いエルフ〉の2種類に分けている。前者は光と空の軽やかな色白の妖精で,月の下で金髪をくしけずっていたりし,後者は森や洞穴に住む黒く醜い不格好な小人といわれる。両者とも仲間と群れをなして暮らし,真夜中の草原の饗宴を好み,その場所に足を踏み入れた人間や動物を盲目にしたり奇病にしたりする。夜どおし糸を紡いだり織ったりして働き,夜明けの葉末のクモの糸はエルフの仕事の成果といわれる。性質は怒りっぽく気短で,善には善を悪には悪をもって報いるといわれ,皿洗いや馬の手入れ,打穀や糸紡ぎの家事の手伝いをし,報酬に1杯のミルクを欲しがる。整頓されているものを散らかす天邪鬼(あまのじやく)や,旅人の道を迷わせるいたずら好きなものもいる。
執筆者:井村 君江
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
超自然的な精霊、あるいは妖精(ようせい)。すべてのゲルマン種族の間にその存在を知られるが、イメージは一様でない。シェークスピアやドイツの詩人ビーランドが描くエルフは風の精のイメージが強いが、北欧の民間信仰では祖先の霊とされ、またアイスランドの学者スノッリ・スツルソンは、これを光と闇(やみ)の2種の妖精に区別している。
エルフは柄(がら)は小さいが、知力、狡猾(こうかつ)さ、器用さでは人間に勝る。人間界には属さずに森や山、空気中に住むが、人間に脅威を与える巨人と違ってしばしば人助けをし、また意地悪もする。そして起源に応じてさまざまな外観をとるが、光や空気中に住むものは美しく輝き、地中に住むものは黒くて醜い。また山や家の敷居の下、梁(はり)の中などに住むものは非常に小さいとされる。
[谷口幸男]
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