日本大百科全書(ニッポニカ) 「エンバク」の意味・わかりやすい解説
エンバク
えんばく / 燕麦
oat
[学] Avena sativa L.
イネ科(APG分類:イネ科)の一年草または越年草。マカラスムギ、オートムギともいう。初夏に、高さ0.6~1.6メートルになり、数本の分げつが出る。茎は節と節間からなり、節間は中空円筒状で各節に葉を互生する。葉身は線形でコムギよりやや幅が広く1~2センチメートル、長さは10~30センチメートル、葉鞘(ようしょう)は茎を抱く。茎頂から長さ15~30センチメートルの穂を出し、穂の各節から出る細い枝梗(しこう)の先がさらに3本に分かれ、それぞれに小穂をつける。1小穂は2~3個の小花からなり、ツバメ(燕)の翼形の包穎(ほうえい)に包まれるのでこの名がある。包穎は長さ2センチメートル、品種により3センチメートルになり、7~11条の脈があり、中央脈の中央部より長い芒(のぎ)が出る。普通、1小穂中の2花が稔実(ねんじつ)し、粒は軟毛に覆われ、細長形で背に縦溝がある。中央アジア、アルメニア地域の原産とされ、またカラスムギが起源といわれるが、祖先種については、なお諸説がある。
もともと麦畑の雑草であったが、しだいに作物化された、いわゆる二次作物である。栽培が多いのはアメリカ、カナダ、フランス、ドイツなどで、寒冷な気候に適する。日本への渡来は明治初年で、現在は北海道や南九州などで栽培される。寒地では春播(ま)き栽培で、4~5月に種子を播き、8月に収穫し、暖地では秋播き栽培で、翌年6~7月の収穫となる。マグネシウム欠乏に敏感なことはムギ類中でも特異である。また、ムギ類のうちでもっとも倒伏しやすい。冠状さび病に対する抵抗性は重要な改良目標の一つで、アメリカでは近縁野生植物の耐病性を取り入れた品種がつくられている。日本での主要品種はビクトリー1号、前進、北洋、タンミ、黒実(くろみ)1号、ホナミなど。茎葉は青刈り飼料として優れている。子実は、オートミール、ウイスキーなどのアルコール原料、みその醸造、菓子の材料などに用いる。デンプンは粳(うるち)性で、他のムギ類と違ってイネに似た複粒である。暗所で種子を発芽させた子葉鞘(しようしょう)は植物ホルモン(オーキシン)の実験材料とされ、アベナテストとして有名である。
エンバクの穀粒のタンパク質は他のムギ類より多く、脂質もコムギの2~3倍含まれる。穀粒は精白して食糧とされる。粒を精選、焙煎(ばいせん)、精穀、蒸熱、圧偏してつくるロールドオーツrolled oatsをオートミールoat mealといい、イギリスやアメリカの一部で朝食に常食とし、日本にも輸入されている。エンバク粉はねばりがないので、ビスケットやケーキ材料とする際は、小麦粉を混ぜる。また穀粒は家畜、とくに馬の飼料として重要である。日本では飼料用に年間約15万トン輸入している。
[星川清親 2019年8月20日]