日本大百科全書(ニッポニカ) 「カイツブリ」の意味・わかりやすい解説
カイツブリ
かいつぶり / 鸊鷉
grebe
鳥綱カイツブリ目カイツブリ科に属する鳥の総称。この科Podicipedidaeの仲間は世界に20種あり、潜水性の水鳥で、池、沼、静かな江湾などにすむ。全長23~72センチメートル。一般に体の上側は暗褐色か灰褐色、下側は白い。体羽は柔らかく豊かで、硬い尾羽はない。足は体の最後方につき、足指は平たい弁足で、跗蹠(ふしょ)も扁平(へんぺい)である。小魚、水中の小動物、および少量の水草を、弁足を左右に開いて潜水し採餌(さいじ)する。自己の体下面の絹状の羽毛を抜き取って食べる習性があるが、食べた羽毛は不消化物の吐出に役だつと考えられる。日本には旧世界に広く分布するカイツブリPachybaptus ruficollisのほか、カンムリカイツブリPodiceps cristatus、アカエリカイツブリP. griseigena、ハジロカイツブリP. nigricollis、ミミカイツブリP. auritusの同属4種が生息し、これらの4種は冬季には主として海にすむ。カンムリカイツブリは旧世界で、他の3種は北半球北部で広く繁殖している。
[黒田長久]
生態
通常は雌雄で縄張りをもち、巣は水上に水草でつくる浮き巣(下部は水草などに固定する)である。卵は1腹3~8個で、初めは白色であるが、巣材の「あく」でしだいに褐色に変わる。雌雄が交代で抱卵するが、その期間は小形のカイツブリで20日、大形のカンムリカイツブリでは25日ぐらいである。綿羽の雛(ひな)は頭部に白黒の縦縞(たてじま)があり、親の背に乗り運ばれる。親は潜って小さい餌(えさ)をとらえ、自分の嘴(くちばし)からじかに雛についばませる。卵は太陽熱と巣材の発酵熱で過熱するため、親が翼を振動させ送風して冷やす。また、巣を離れるときは卵を巣材で覆い隠して外敵から守る。
[黒田長久]
行動
雌雄は同色で、互いに向かい合い、または並んでさまざまな求愛動作をする。そのうち、巣などの上で行う交尾動作などの台上行動platform behaviorは全種類に共通点が多いが、求愛行動については、よく発達していないものと、種ごとに著しいものとの二つのグループがある。前者にはカイツブリ属Pachybaptus、オビハシカイツブリ属Podilymbus、コバネカイツブリ属Rollandiaの計7種があり、これらの種では頭部に飾り羽がなく、後足の第2趾穿孔筋(せんこうきん)の腱(けん)は独立の骨穴を通るなどの特徴がある。一方、後者にはカンムリカイツブリ属Podiceps11種とアメリカカイツブリ属Aechmorhynchus1種が属し、前記の腱は独立しない。繁殖期には頭部に飾り羽が発達し、求愛行動は、水上に体を立て並んで進む「ペンギン姿勢」、向かい合って行う「直立餌交換」、攻撃姿勢をとる「ネコ姿勢」などがあり、とくにカンムリカイツブリでよく観察されている。アメリカカイツブリA. occidentalisでは独特の「直立鶴頸突進(かくけいとっしん)」行動がある。カンムリカイツブリ属の種ごとに特色のある頭部の飾り羽は、種間の交雑を防止するための特徴として発達したと思われる。なお、隔離された湖沼の留鳥種は飛力退化の傾向があり、たとえばグアテマラのアティトラン湖にいるオオオビハシカイツブリPodilymbus gigasや、アンデスのティティカカ湖にいるコバネカイツブリR. micropterumは無飛力である。
なおカイツブリは古名をニオ(鳰)といい、その巣は「ニオの浮き巣」として詩歌に詠まれた。また、よく潜るので「モグリ」とか「ムグリ」という地方名もある。
[黒田長久]