改訂新版 世界大百科事典 「カマルグ」の意味・わかりやすい解説
カマルグ
Camargue
フランス南東部,ブーシュ・デュ・ローヌ県の一部を占める地方。ローヌ河口のデルタ部分にあたり,ローヌ川主流(大ローヌ)と支流(小ローヌ)と地中海岸とにかこまれた,約800km2の三角形の地帯である。大部分が平坦な低湿地であり,バカレス湾が南部から深くくいこんでいる。低湿地は多く耐塩性の草原を形成し,沼沢がその間に点在している。塩分をふくむ土地であり,また,冬季に北東から吹くアルプスおろしの強風ミストラルのため,樹木は少なく,古来,耕作は行われなかった。南部海岸線は,その東部にあってはローヌ川の土砂のため沖にむけて伸出し,他方,西部にあっては長期にわたって後退しつつある。闘牛用の黒牛,馬の飼育が行われ,野生の白馬も生息している。少数の住民は背の低い民家をたて,草原と潟湖をあわせて特異な景観をつくりだしている。南フランス生れの作家・詩人ミストラルの代表作《ミレイユ》(邦訳《プロバンスの少女》)の情景を想起させる。北アフリカから越夏のため飛来する鳥類が多く,現在では保護地区に指定されている。南西端の海岸にあるサント・マリー・ド・ラ・メールの城砦教会は,ジプシーの信仰をあつめ,春秋の2回,各地から巡礼に訪れるジプシーでにぎわう。第2次大戦後,低湿地の脱塩事業が推進され,稲作が導入されるにいたり,またブドウ栽培も試みられ,農業経済上の重要性が注目されるようになった。
執筆者:樺山 紘一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報