改訂新版 世界大百科事典 「カマレス陶器」の意味・わかりやすい解説
カマレス陶器 (カマレスとうき)
Kamares ware
ミノス文明旧宮殿時代(前1900-前1700)の最も美しい陶器。その形は紅茶茶碗形,コップ形,鉢形,壺形,高杯などがあり,陶用ろくろを自由に使いこなした優美な作品が多い。なかには厚さ1mmほどの卵殻陶器と呼ばれる薄手のものさえある。しかも装飾には色彩を使って多彩陶器の頂点にある。その技法は,まず黒色で地塗して,その上に白,赤,橙,黄色で器体の全面に及ぶ文様を描く。種々の渦巻,波状文,S字形,半円,旋回文,ラケット形などの曲線文や,ロゼット,マーガレット,スイレン,ヤシ,花弁などの植物,泳ぐ魚もみられる。珍しい例には踊る人物を描いたものがある。これらの装飾は流麗な器体とよく融合して,高雅で洗練された華やかな作品が生まれた。カマレス陶器の名は,この様式が最初に発見されたイダ山の礼拝所である洞窟の名によるが,製作所はクノッソスとファイストスの宮殿内の工作場であった。
執筆者:村田 数之亮
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