カリウムを有効成分とする肥料の総称。現在日本でカリ肥料として使用されているものの大部分は硫酸カリおよび塩化カリである。またこれらカリ塩の大部分は複合肥料の原料として用いられている。カリは古くから自給肥料の形で使用されており,堆厩肥(たいきゆうひ),草木灰,緑肥,家畜糞尿(ふんによう)などで供給されていた。塩化カリの主要産出国は,旧ソ連,カナダ,ドイツ,フランス,アメリカ,イスラエル,スペイン,ポーランドなどである。日本には優秀なカリ鉱床が存在しないのでこれら各国から輸入しているが,とくにカナダ,旧ソ連に大きく依存している。
カリの最大の貯蔵場所は海水であるが,そのカリ含有量はK2O 0.045%と低いのでまだ大規模な生産は行われていない。自然鹹水(かんすい)も原料となっているが,カリ長石などのカリ含有岩石類は現在のところあまり重要な資源にはなっていない。現在生産されているカリ肥料の原料は天然のカリ鉱床から得られる。カリ鉱床は1856年にドイツのシュタスフルトで発見されたのが世界で最初であり,その後世界各地において次々に発見されたが,経済的に利用可能な天然のカリ塩はK2O換算で500億tに近いと推定されている。量的には旧ソ連(49%),カナダ(37%)に偏在している。
カリ鉱床は,約2億年以上も前に地殻の変動が起こり,海洋の一部が外洋から分離され,高温乾燥の気象条件下で海水が蒸発濃縮し,各種の塩類が晶出してつくられたとされている。したがってカリ鉱床にはナトリウム塩,マグネシウム塩も共存し,また大面積の海水が次第に狭い面積のところに集まったため,数百mにも及ぶ鉱床ができたものである。
カリ肥料の生産は原料の採掘とともに原料中の塩化カリKClや硫酸カリK2SO4を塩化ナトリウムNaClや塩化マグネシウムMgCl2などの夾雑(きようざつ)物からいかに効率よく経済的に分離採取するかという点にかかわっている。カリ鉱石は地下の鉱床まで立坑を掘り,鉱脈に沿って掘り進む柱房法が多く用いられているが,最近は適当な割合のNaCl+KClの加熱溶液を鉱床に注入し,鉱床を溶出してくみ上げ濃縮法によりKClを回収し,残った溶液を成分調整後再び溶出液として使用する溶液採鉱も行われてきている。塩化カリ(塩化カリウム)はカリ鉱石の主要なものであるシルビニット(KCl+NaCl)などからは比重や溶解度の差などを利用して分離製造されている。最近は静電選鉱法なども採用されている。硫酸カリ(硫酸カリウム)は,原鉱石を塩化カリウムおよび硫酸マグネシウムの飽和液で処理して硫酸カリウム・マグネシウムの複塩(K2SO4・MgSO4)を沈積させ,この複塩を塩化カリウム溶液で処理して硫酸カリを分離回収することにより製造される。日本などにおいては塩化カリに硫酸を加えて硫酸カリと塩酸を得る方法も使われている。
KCl+H2SO4=KHSO4+HCl,KHSO4+KCl=K2SO4+HCl
(1)硫酸カリ苦土 K2SO4・2MgSO4で示される複塩で,主としてアメリカ,ドイツで生産される。日本でもにがりから生産される。(2)にがりカリ肥料 海水から食塩を採った後の母液から製造される。肥料成分(K2O 6~8%,MgO10~15%)は低い。(3)炭酸カリ,重炭酸カリ 苛性カリ溶液に二酸化炭素を通じて造る。価格が高い。(4)腐植酸カリ肥料 石炭または亜炭を硝酸あるいは硝酸と硫酸で分解し,生成したフミン酸に炭酸水素カリウムか水酸化カリウムを反応させた肥料で,水溶性カリ約11.0%を含む。(5)緩効性カリ肥料 メタリン酸カリ,リン酸カルシウムカリウム,溶成カリリン肥,ケイ酸カリなど難溶性のカリ化合物で,カリウムが徐々に溶出するように製造された肥料。
カリウムは植物必須元素であり,いずれの植物も必要とするのであるが,タバコやジャガイモなどは硫酸カリがよりよいとされ,テンサイやココヤシは塩化カリがよいとされるなど,作物により随伴アニオンの影響が多少異なるといわれている。
→肥料
執筆者:熊沢 喜久雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
カリ(カリウムの工業的通称名)を主成分とする肥料の総称。草木灰は昔から肥料として使用されてきたが、その主成分であるカリの語源はアラビア語で灰を意味する。現在日本で使用されているカリ肥料は塩化カリ(塩化カリウム)と硫酸カリ(硫酸カリウム)であるが、そのほぼ全量を輸入に頼っている。
塩化カリ、硫酸カリともに水溶性の速効性肥料で、いずれも化学的には中性であるが、生理的酸性肥料で長期間連用すると土壌を酸性化する。塩化カリはおもにカーナライト、シルビニットなどのカリ鉱石や自然の鹹水(かんすい)(塩水)から濃縮分離したカリ塩溶液から製造される。硫酸カリはカリ鉱石中の硫酸塩を利用する方法のほか、カリ塩に硫酸を反応させてつくられるもの、塩酸を製造する際の副産物として得られるものなどがある。両者の肥効の差ははっきりしない場合が多いが、どちらかといえば硫酸カリの有利性を認める試験結果が多い。タバコ、イチゴ、ジャガイモ、レタスなどはとくに塩素を嫌うので、硫酸カリがよいとされる。国内消費に占める両者の割合は約8対2で塩化カリのほうが多い。成分含有量は塩化カリが50%(水溶性カリとして)、硫酸カリが45%以上である。
カリ肥料は作物に対する過剰障害は出にくいが、一度に多量に施すと溶脱や作物による余分な吸収や種子の発芽障害がおこることがある。この改善のため、溶解度の調整を試みたケイ酸カリ肥料が開発され、おもに化成肥料の原料に使用されている。カリ肥料の多くは複合肥料の形で消費されている。
[小山雄生]
『伊達昇・塩崎尚郎編著『肥料便覧』第5版(1997・農山漁村文化協会)』▽『肥料協会新聞部編『肥料年鑑』各年版(肥料協会)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
カリウムを有効成分とする肥料の総称.普通はK2SO4,KCl,およびこれらを主成分とするものがカリ肥料として用いられる.草木灰のものはK2CO3,ワラ灰中のものはK2SiO3である.カリウムは植物細胞内で炭水化物やタンパク質の合成に必要で,昔から自給肥料の形で用いられてきた.19世紀半ばにドイツのシュタッスフルトの天然カリ塩が肥料として用いられて以来,世界各地のカリ鉱床の開発,にがり,海草,カリ含有鉱物,そのほかからカリ塩の採取が行われている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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