診療の内容を記録した文書。正式には診療録という。医師は、医療を行ったときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない(医師法24条)。医師には診療録の記載義務と保存義務、および守秘義務があり、違反行為には罰則規定がある。
診療録の必須記載事項は、(1)診療を受けた者の住所、氏名、性別および年齢、(2)病名および主要症状、(3)治療方法(処方および処置)、(4)診療の年月日、である(医師法施行規則23条)。
診療録の保存期間は5年間である。医師法には、病院または診療所の勤務医の行った診療に関するものはその施設管理者が、その他の診療に関するものはその医師が保存しなければならないと定められている。診療録は、単に診療の経過をみるばかりでなく、医学上の資料、法律上の証拠、会計上の原本として重要である。
近年は電子化の動きが進んでいるが、電子カルテとは、紙に記録していた診療情報(診療の過程で得られた患者の病状や治療経過等の情報)をコンピュータに入力し、電子化して診療に活用する情報システムの総称である。従来のオーダリングシステム機能(処方や検査などの指示を医師がコンピュータに入力し、各部門へ伝達するシステム)、診療録の参照および情報共有機能、患者への情報提供機能、患者個人情報の保護機能、およびデータの事後利用機能などを備えたうえに、電子保存の3基準(真正性・見読性・保存性の確保)を満たすことが必要である。
電子カルテ導入のメリットとしては、医療安全の推進、医療の質の向上や効率化、患者への情報提供、医療機関内外の連携の促進等があげられる。これまで、保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン(厚生労働省2001年1月)をはじめとし、さまざまな施策等が策定されており、医療機関のデータのデジタル化および地域の医療機関間のネットワーク化、ICT(情報通信技術)利活用が推進されている。また、ゲノム医療・AI活用、自身のデータを日常生活改善等につなげるパーソナル・ヘルス・レコード(PHR。個人の健康・医療等情報を、本人や家族が正確に把握するための仕組み)の推進、医療・介護現場の情報利活用の推進、データベースの効果的な利活用の推進(保健医療に関するビッグデータ利活用。民間企業・研究者による研究の活性化、患者の状態に応じた治療の提供等)を目ざした「データヘルス改革」に向けた取組みも進められている。
カルテ開示(診療情報の提供)については、患者の自己決定権や知る権利などの観点から、患者の求めに応じて原則として診療記録を開示すべきであるという基本的な考え方がとられており、法的整備が図られている。「診療情報の提供等に関する指針」(厚生労働省、2003年9月)、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(個人情報保護委員会・厚生労働省、2017年4月)、および個人情報保護法が定められており、院内掲示などによりカルテ開示の手続き等を患者に周知するとともに、開示費用については実費を勘案して合理的と認められる範囲内とすることが求められている。
[前田幸宏 2020年2月17日]
患者の診療記録,つまり病歴記録のことで,医師法では〈診療録〉という。一人一人の患者について別々に作成されており,医師は,診察のたびに症状や身体所見,検査成績,診断と処置,投薬などを記載する。表記は,かつてはドイツ語で行われることが多かったが,最近は日本語,英語で行われることも多い。病院では,入院カルテが外来カルテと別になっており,1回の入院ごとに新しく作られることが多い。毎日の病状や診療内容が記録され,看護師は,看護記録と,体温や食事摂取量,排尿,排便などの経過表を作る。
カルテは患者の身体と病気に関する重要な記録であり,医師法で5年間の保管が義務づけられており,またプライバシー保護の立場から特別な場合(医療訴訟などの証拠物件として裁判所から提出命令が出された場合など)を除き公開されることはない(ただし,アメリカなどでは診療録は患者個人に属するため,本人の請求で提示される)。また医学的資料としても貴重であり,永久保存を目標としている施設も多く,マイクロフィルム化などのくふうもとり入れられている。最近日本でも,カルテの活用と保存を有効に行うために専門的教育を受けた診療録士が資格登録されるようになった。
執筆者:工藤 翔二
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