中世ヨーロッパの著名な詞華集。オーバー・バイエルンのベネディクトボイエルン修道院に伝えられた羊皮紙写本の所収作品の総称で,〈ボイエルンの歌〉の意。1847年最初の刊行に際し編者J.A.シュメラーによって命名された。13世紀の写本と推定されるが,成立の場所,年代は不詳。中世ラテン語の個々の作品に作者名の記入はなく,内容別に,(1)道徳的・風刺的詩文55編,(2)恋愛詩131編(ほかに中高ドイツ語のミンネザング48編),(3)酒と賭博の歌35編の3部門から成り,巻末に6編の宗教劇を加える。いわゆるバガンテンVaganten(遍歴学生,放浪学生)文学の代表的コレクションとして文学史研究に重要な資料を供するだけでなく,一部の歌詞には譜線のないネウマneuma(中世の音符)がそえられている。C.オルフは25の詩を選び,1937年同名の舞台形式カンタータを作曲した。最新のテキスト刊行は70年西ドイツで完成。75年にドイツ語の全訳が出た。
執筆者:岸谷 敞子
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中世の放浪歌人集。1803年ミュンヘン近郊ボイエルンのベネディクト派修道院で発見され、その地名にちなんで『カルミナ・ブラーナ』(ボイエルン歌謡集)と名づけられた。大部分はラテン語で書かれ、詩人たちの名は不明であるが、古典的教養を備えた遍歴の学僧や学生たちとされている。内容的には、(1)道徳的風刺詩、(2)春、愛、酒、賭(か)け事の歌、(3)宗教歌、(4)宗教劇、に分類される。その魅力は、教会と僧侶(そうりょ)の堕落に対する批判、自由奔放な生活や恋愛の謳歌(おうか)にある。近時この歌謡の声価を一段と高めたのは、カール・オルフがこの作品に基づいて作曲した同題の舞台音楽(1937初演)であろう。
[尾崎盛景]
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…酒や恋や友情,母校や祖国や自由など学生身分と密着したテーマが多いが,たとえば1858年以来160版以上を数えるラール版《総合学生歌集》に《野バラ》や《ローレライ》が収められているように,一般民謡との結びつきも強い。《カルミナ・ブラーナ》など中世以来の学生歌の集成公刊は18世紀末に始まり,ナポレオン戦争を通じて高まった自由主義的ないし愛国主義的なブルシェンシャフト(学生団)結成の動きと相まって,19世紀前半に新旧の歌を集めた多くの学生歌集が編まれた。ブラームスは《大学祝典序曲》(1880)の中に4曲の学生歌をちりばめているが,そのそれぞれ(《我らは築きぬ堂々の館》《静粛に諸君,耳傾け給え真摯な響きに》《新入り歓迎歌》《されば楽しまん》)が学生歌の歴史と傾向を反映している。…
… 西ローマ帝国の衰亡後も,ラテン語は長くヨーロッパの公用語であり続けたので,10世紀ごろまでのヨーロッパの詩は大半がラテン語で書かれた。その中には《カルミナ・ブラーナ》(12世紀ごろ成立)のような大規模な歌謡集もある。 中世に入ると,キリスト教化しつつヨーロッパに定着したゲルマン系の諸民族が,それぞれの伝承をもとに,神話的もしくは英雄的な叙事詩を生み出した。…
…ラインマルReinmar von Hagenauを頂点とする盛時のミンネザングは,この愛を神への愛にまで結びつけようとしたが,一方ワルター・フォン・デル・フォーゲルワイデは身分の低い娘を登場させて世俗の愛をうたい,あるいは政治的発言を織り込んだ格言詩をつくり,ナイトハルト(ロイエンタールの)などにいたると,騎士と農民の間の力関係の混乱がパロディの形をとって農村を舞台にした詩に反映されることになる。他方宮廷詩とは別に,《カルミナ・ブラーナ》のように,遍歴学生や農民によって歌われていた巷間の歌がたくましく育っていた。その原形は,のちにロマン派の手によって集成された〈民謡〉などより,もっと粗野で,混沌としたものである。…
…10世紀のオットー帝国もイタリア文化を尊重してラテン語を公用語にしたが,12世紀から13世紀にかけて再びルネサンス運動が起こって,ボローニャ,パリ,オックスフォードなど各地に相ついで大学が創設され,アベラール,トマス・アクイナス,R.ベーコンなどの大学者が登場した。このころに《ケンブリッジ歌謡集》《カルミナ・ブラーナ》などの詩集と,《黄金伝説》《ゲスタ・ロマノルム》などの伝説集が成立している。 14世紀はダンテ,ペトラルカ,ボッカッチョの世紀,イタリア・ルネサンスの前夜である。…
※「カルミナブラーナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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