〈祈禱所〉の意。音楽用語としては,宗教的または道徳的内容を持つ劇的な物語を独唱,合唱,管弦楽のために作曲した作品をさす。厳格な典礼音楽に対する,自由な祈りの音楽の名称として用いられたらしい。その起源は,フィリッポ・ネリによって祈禱所(オラトリオ会)での宗教的会合で使われた音楽で,これに17世紀初頭の劇音楽の様式が加わりオラトリオが生まれたと思われる。まずローマでラテン語によるオラトリオとイタリア語オラトリオが生まれる。前者は17世紀初めの典礼劇から発展し,G.カリッシミによって典型的な形になる。それは聖書の章句をパラフレーズした散文詩(創作詩も挿入)で,モノディ様式による劇的表現,合唱の重視を特色とする《イェフタ》(1650以前),《ソロモンの裁き》(1669)など。しかしこの伝統は,M.A.シャルパンティエによってパリに伝えられただけで,19世紀まで挙げるべき作品はない。一方,民衆的宗教歌(ラウダ)や宗教的マドリガルから起こったイタリア語によるオラトリオは大きな影響力を持ち,17世紀ローマで,独唱における叙唱とアリオーソ(アリア風旋律)の交代,語り手,合唱を重視した作品がL.ロッシやB.パスキーニなどの手で作られた。17世紀後半ベネチア・オペラの影響を受け,叙唱(レチタティーボ)のセッコとアコンパニャートの分離,叙唱とアリアの対比,管弦楽伴奏の重視が見られる。17~18世紀にはナポリ楽派の作曲家の手へ移り,18世紀に入るとドイツでも生みだされる。主な作曲家は,A.スカルラッティ,マルティーニ,N.ヨメリ,J.A.ハッセ,ハイドン,モーツァルトなどである。中でもヘンデルは,イタリア語の《復活》(1708)から英語オラトリオ《メサイア》(1742)への道を開いた。その間ドイツではプロテスタント教会音楽の中でオラトリオの独自の型が形成された。17世紀のドイツ語の受難曲やヒストリア(クリスマスや復活の物語のための朗唱風音楽)から発展したこのドイツ語オラトリオは,聖書の章句に自由な創作詩とコラールを挿入したもので,バッハの《クリスマス・オラトリオ》(1734-35)に代表される。その後ホモフォニックな作風によるテレマンの《審判の日》(1762)や,抒情的要素の強いC.P.E.バッハの《イエスの復活と昇天》(1787)などを経て,ハイドンの《天地創造》(1796-98)と《四季》(1799-1801)へ至る。啓蒙主義の影響により,題材は聖書よりも人間の信仰や自然の賛美に求められるようになった。
19世紀に入ると再び聖書に題材を求めた作品(メンデルスゾーンの《エリア》1846)や,世俗的内容の作品(シューマンの《楽園とペリ》1841-43)が数多く作られた。リストはラテン語の歌詞を用い,管弦楽章では交響詩の技法を導入した(《キリスト》1862-66)。フランスではJ.F.ル・シュウールによってラテン語オラトリオが復活,また,世俗的なものから典礼と結びついたものまで(ベルリオーズの《キリストの幼時》1854,フランクの《至福》1879,グノーの《贖罪(しよくざい)》1882,サン・サーンスの《クリスマス・オラトリオ》1869),さまざまなオラトリオが作曲された。20世紀に入ると題材も手法も多様化し,地域的な広がりを見せる。まずフランスではオネゲルが中世の神秘劇の手法を導入した《ダビデ王》(1921)を作曲,《火刑台上のジャンヌ・ダルク》(1935)では演技を伴う一種のオペラ・オラトリオを創作し,この種のものとしてストラビンスキー(ロシア)の《オイディプス王》(1927),シェーンベルク(オーストリア)の《モーセとアロン》(1930-32)などがある。1930年ころには教会音楽改新の影響を受けて,プロテスタント教会のヒストリアがK.トーマスによって見なおされ,ドイツではJ.ドリースラーの《生ける者》(1956),スイスではW.ブルクハルトの《イザヤの顔》(1935),F.マルタンの《ゴルゴタ》(1948),《降誕の秘跡》(1959),フランスではG.ミゴの《山上の垂訓》(1936)など数多く作曲される。ドイツではJ.ハースが《聖エリーザベト》(1931)で民謡風の旋律をとり入れオラトリオに新風を送り,その他主要作品としてヒンデミットの《無限なるもの》(1931),C.オルフの《キリストの復活》(1957),W.シュトックマイアーの《ヒストリア》(1980)などが挙げられる。またソ連では社会主義リアリズムの立場から,ショスタコービチの《森の歌》(1949),プロコフィエフの10楽章からなる合唱曲《平和の守り》(1950)が作曲された。このように種々のオラトリオが出現し,さらに今日では不確定な音程やトーン・クラスター(密集音塊)などの新技法の応用によってオラトリオの新局面が探求されている。
執筆者:井形 ちづる
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「聖譚(せいたん)曲」と訳される。一般に宗教的題材に基づく壮大な叙事的楽曲で、オペラと同様に独唱、合唱、管弦楽を用いるが、初期の作品を除けば、演技や背景、衣装を伴わないのが通例である。オラトリオの全歴史を通じて合唱に重点が置かれ、物語の筋を運ぶ語り手の存在も特徴となっている。直接の起源は、16世紀後半、聖フィリッポ・ネーリ(1515―95)がローマの教会で始めたオラトリオ会(集会が開かれた祈祷室(オラトリオ)に由来する)における楽種にある。しかしオラトリオという語が一定の音楽形式を表すようになったのは、17世紀中ごろからである。この時期にはラテン語オラトリオと俗語(イタリア語)オラトリオの2タイプがあったが、しだいに後者が好まれるようになり、ラテン語のものは17世紀後期に姿を消した。17世紀中ごろの重要な作曲家はカリッシミ(1605―74)で、彼はラテン語オラトリオを確立するとともに、オラトリオの様式を完成した。イタリアではぐくまれたオラトリオは、ドイツで「受難曲」の伝統と出会い、新生面が開かれた。なかでもシュッツはドイツ語オラトリオの礎(いしずえ)を築き、その伝統は大バッハやテレマンによって18世紀に受け継がれた。イギリスではヘンデルがカリッシミの合唱オラトリオに帰って、劇的可能性を極限にまで高め、古典的オラトリオを完成した。『エジプトのイスラエル人』(1739)、『救世主(メサイア)』(1742)はとくに有名である。
オラトリオの創作はヘンデル以後しばらく沈滞するが、18世紀にはハイドンがオーストリアに出て、ふたたび高い水準に達した。『天地創造』(1798)、『四季』(1801)は彼の二大傑作で、ヘンデルの合唱技法に器楽的要素を大いに取り入れた壮麗な作品である。19世紀のもっとも優れたオラトリオ作曲家はメンデルスゾーンで、『聖パウロ』(1836)と『エリア』(1846)の二つの傑作がある。リスト、ベルリオーズ、フランクにも優れた作品がある。
20世紀のオラトリオには、宗教的な作品として、オネゲルの『ダビデ王』(1921)、ジャン・フランセーの『聖ヨハネの黙示録』(1942)などがある。また世俗的なオラトリオとして重要な作品は、ストラビンスキーの『オイディプス王』(1927)、プロコフィエフの『平和の守り』(1950)、ショスタコビチの『森の歌』(1949)などである。
[磯部二郎]
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[ルネサンス以前]
イタリア演劇の発生的形態は,12世紀から13世紀にかけて中部イタリアを中心に歌われたり,演じられたラウダlauda(神をたたえる歌)であるとされているが,それはかならずしも演劇ばかりではなく,オラトリオやオペラの起源でもある。このラウダの作者や演じ手は,主として〈兄弟団〉といわれる宗教組織に属する聖職者たちであった。…
… またこの時代には,オペラの独唱場面に近いような構成のカンタータや,1場景だけのオペラともいえるセレナータなども多く作られた。聖書の物語を劇風に扱ったオラトリオも作られた。オラトリオは一般に上演されなかったので,レチタティーボによる語り手の置かれるのが普通だった。…
…ただし,他の宗教にも数多くの宗派宗旨があるように,キリスト教にも,カトリックとプロテスタントの二大教会の別があり,それぞれの内部に数多くの教派があって,音楽的伝統も一様ではない。芸術的に見た場合,それらの中でとくに重要なのは,パレストリーナやベートーベンのミサ曲によって代表されるローマ・カトリック教会,バッハのカンタータや受難曲によって代表されるルター派のドイツ福音主義教会,パーセルのアンセムやヘンデルのオラトリオによって代表される英国国教会,ボルトニャンスキーの教会コンチェルトによって代表されるロシア正教会などである。 イエス・キリストの生涯を書き記した新約聖書の福音書には,ただ1ヵ所だけ音楽に言及した個所がある。…
…それに対してバロック音楽は,異質的・対極的なものの緊張をはらんだ結びつけによって動的・劇的表現に向かった。これは,絵画における明暗の対比やダイナミックな表現と軌を一にするもので,声楽曲の分野ではオペラやオラトリオなどの劇音楽の形式を生み,器楽曲の分野ではコンチェルト(協奏曲)やトッカータ,ファンタジア(幻想曲)のような形式の成立を促した。具体的な表現手段に目を注ぐなら,本来異質的な響きのメディアである声と楽器の結合,二重合唱における明と暗の音色的対比,独奏(唱)と合奏(唱)の機能上の対比,強と弱(ディナーミク)の音響レベルの対置,抒情的アリアと言葉に重点をおいたレチタティーボの対比,拍節感の強い部分と無拍節の部分の併置などが挙げられるが,これらの諸要素はしばしば手を携えて芸術的な効果をあげてゆくのである。…
※「オラトリオ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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