オラトリオ(読み)おらとりお(英語表記)oratorio イタリア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オラトリオ」の意味・わかりやすい解説

オラトリオ
おらとりお
oratorio イタリア語

「聖譚(せいたん)曲」と訳される。一般に宗教的題材に基づく壮大な叙事的楽曲で、オペラと同様に独唱合唱管弦楽を用いるが、初期の作品を除けば、演技や背景、衣装を伴わないのが通例である。オラトリオの全歴史を通じて合唱に重点が置かれ、物語の筋を運ぶ語り手の存在も特徴となっている。直接の起源は、16世紀後半、聖フィリッポ・ネーリ(1515―95)がローマの教会で始めたオラトリオ会集会が開かれた祈祷室(オラトリオ)に由来する)における楽種にある。しかしオラトリオという語が一定の音楽形式を表すようになったのは、17世紀中ごろからである。この時期にはラテン語オラトリオと俗語(イタリア語)オラトリオの2タイプがあったが、しだいに後者が好まれるようになり、ラテン語のものは17世紀後期に姿を消した。17世紀中ごろの重要な作曲家はカリッシミ(1605―74)で、彼はラテン語オラトリオを確立するとともに、オラトリオの様式を完成した。イタリアではぐくまれたオラトリオは、ドイツで「受難曲」の伝統と出会い、新生面が開かれた。なかでもシュッツはドイツ語オラトリオの礎(いしずえ)を築き、その伝統は大バッハやテレマンによって18世紀に受け継がれた。イギリスではヘンデルがカリッシミの合唱オラトリオに帰って、劇的可能性を極限にまで高め、古典的オラトリオを完成した。『エジプトのイスラエル人』(1739)、『救世主(メサイア)』(1742)はとくに有名である。

 オラトリオの創作はヘンデル以後しばらく沈滞するが、18世紀にはハイドンオーストリアに出て、ふたたび高い水準に達した。『天地創造』(1798)、『四季』(1801)は彼の二大傑作で、ヘンデルの合唱技法に器楽的要素を大いに取り入れた壮麗な作品である。19世紀のもっとも優れたオラトリオ作曲家はメンデルスゾーンで、『聖パウロ』(1836)と『エリア』(1846)の二つの傑作がある。リスト、ベルリオーズ、フランクにも優れた作品がある。

 20世紀のオラトリオには、宗教的な作品として、オネゲルの『ダビデ王』(1921)、ジャン・フランセーの『聖ヨハネの黙示録』(1942)などがある。また世俗的なオラトリオとして重要な作品は、ストラビンスキーの『オイディプス王』(1927)、プロコフィエフの『平和の守り』(1950)、ショスタコビチの『森の歌』(1949)などである。

[磯部二郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オラトリオ」の意味・わかりやすい解説

オラトリオ
oratorio

宗教的,道徳的題材による,動作,背景,衣装を伴わない叙事的楽曲。独唱,合唱,管弦楽から成るが,合唱に重点が置かれる。中世の典礼劇,神秘劇に源を発し,16世紀なかばローマの教会の祈祷所 (オラトリウム) における集会で,聖フィリッポ・ネリが創始。最も初期の作品と認められるのは,E.カバリエリの『霊と肉の劇』 (1600) 。 17世紀なかば G.カリッシミの『イェフテ』その他の作品により新しい展開を示す。その後,イタリアのオラトリオはドイツとイギリスに覇権を譲り,ドイツはシュッツ,バッハ,ハイドンへと連環を形づくる。イギリスの伝統はヘンデルによって築かれ,特に彼の『メサイア』はオラトリオ史上比類のない名作として知られる。

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