カワイルカ(読み)かわいるか(英語表記)river dolphin

翻訳|river dolphin

改訂新版 世界大百科事典 「カワイルカ」の意味・わかりやすい解説

カワイルカ (河海豚)
river dolphin

河川あるいは沿岸域に生息する吻(ふん)の長い原始的な特徴をとどめた歯クジラ類カワイルカ科Platanistidaeに属する哺乳類の総称。第三紀中新世には南・北両アメリカ大陸の東西岸や日本からも知られ,現在より分布が広かった。その後発展したマイルカ類に圧迫され,地方的に4属が生き残ったらしい。中新世には,すでに今日の各系統への分化が明らかであり,現生種も互いに共通性が少ないのでそれらを3~4科に分け,全体をカワイルカ上科Platanistoideaとすることもある。

 形態的な特徴は,上顎骨顔面部の外縁が板状隆起すること,眼は退化傾向にあること,上顎は細長く棒状で下顎縫合がマッコウクジラのように長いこと,7個の頸椎は遊離していること,背びれは小さく,胸びれは大きくうちわ状をなすことである。はじめの二つ以外は原始的な形態である。カワイルカはふつう単独ですみ,多くて2~3頭の群れをなす。社会構造は未発達で,群れは親子連れか一時的なつがいと見られている。生息圏が人間活動の影響を受けやすいので,保護に注意を要する。

 ガンジスカワイルカPlatanista gangetica(英名Ganges susu)はガンガーガンジス)・ブラマプトラ水系の河口からヒマラヤ山ろくまで分布する。体は灰褐色で,腹面はやや淡い。左右の上顎骨の隆起は頭頂で接近し,斜め下方に開いたらっぱ状をなす。その内側に中耳からのびた気囊があり,ソナー音の反射板となる。このため鼻孔は前後にのびたスリット状をなす。眼の水晶体は痕跡的で,明暗と光の方向を感ずる程度。歯は上下左右おのおの26~32本。胃は5室で,第1胃は食道の膨大したものである。交尾は10~3月,妊娠は1年弱,子は70cmくらいで生まれ,マイルカ類より早く約1年で離乳する。体長は雌2.5m,雄2.1mに達する。この差は雌の吻(ふん)がとくに長いためで,他のカワイルカに例を見ない。餌は魚類,エビなど。インダス川の個体は歯が多く(30~37本),鼻骨が高いので別種P.indi(英名Indus susu)とすることもある。この系統はインダス川のダム建設の影響で,500~1000頭前後に減少した。

 ヨウスコウカワイルカLipotes vexillifer(英名white flag dolphin)は長江(揚子江)に分布し,魚類を食べる。1950年代までは長江のとなりの富春江にも分布した。背面は青灰色で下面は白色。体長は雌2.5m,雄2.2mに達する。上顎骨の隆起の発達と眼の退化の程度は,ともに前種とラプラタカワイルカの中間程度。歯はそれぞれ30~36本。胃は4室よりなるが食道胃を欠く。アマゾンカワイルカInia geoffrensis(英名boutu)もこれに似た種類で,アマゾンとオリノコ水系に分布する。体長2~2.3mで,雄がやや大きい。三つの地方型があり,歯の数その他に差がある。歯数はボリビア産上下左右それぞれ31~35本,アマゾン本流産25~31本,オリノコ産24~27本である。ボリビア産のものを別種I.boliviensisとすることもある。

 ラプラタカワイルカPontoporia blainvillei(英名Franciscana)はブラジル南部からアルゼンチン北部の沿岸域に産する海生種。背面淡褐色で下面は淡い。体長は雌1.6m,雄1.4mの小型種。歯は上下左右それぞれ45~61本。胃は3室よりなり,食道胃を欠く。2~3年で成熟し,2年に1回出産する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワイルカ」の意味・わかりやすい解説

カワイルカ
かわいるか / 河海豚
river dolphin

哺乳(ほにゅう)綱クジラ目カワイルカ科に属するハクジラの総称。この科Platanistidaeの仲間は、アマゾンカワイルカ、ガンジスカワイルカ、ラプラタカワイルカ、ヨウスコウカワイルカなど4属4~6種があり、東南アジアと南アメリカの温帯、熱帯に分布する原始的なイルカである。中新世には広く分布したが、現在では近代的なマイルカ類のイルカに圧迫されつつある。体長1.7~2.6メートル。吻(ふん)は細長く、上下左右に各二十数本から60本の歯をもつ。7個の頸椎(けいつい)は一般のイルカと異なり全部遊離している。背びれは小さいが胸びれは大きく広がり扇子状をしている。目は退化の傾向を示し、河川にすむ種ではとくに著しい。これらの種は音波(160~190キロサイクル)を発し、その反射音によって餌(えさ)となる魚やエビを探知する。海産のラプラタカワイルカでは、魚の発する音や発光を手掛りに索餌(さくじ)すると思われる。一部の種類では食物の貯蔵所である食道胃を失っている。頭骨の形態も種間の差が大きく、全種がかならずしも近縁な種類ではないことを示している。脳は体重の1%以下でマイルカ類に比して小さい。マイルカ類と異なり、親子、つがいで行動し大きな群れはつくらない。河川にすむ種類では、ダムや排水路の建設によって生活環境が破壊されたり、マイルカ類の侵入によって生存が脅かされる可能性がある。

[粕谷俊雄]


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