ガス壊疽(読み)ガスエソ(英語表記)Gas gangrene

デジタル大辞泉 「ガス壊疽」の意味・読み・例文・類語

ガス‐えそ〔‐ヱソ〕【ガス×疽】

傷口にウェルシュ菌などのガス壊疽菌が感染し、壊死に陥り、その部分が腐敗してガスを発生する状態。

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精選版 日本国語大辞典 「ガス壊疽」の意味・読み・例文・類語

ガス‐えそ‥ヱソ【ガス壊疽】

  1. 〘 名詞 〙 土中のガス壊疽菌が傷口から筋肉に侵入して気腫をつくる悪性の創傷伝染病。患部にガスが発生し、腫脹はなはだしく、気分が悪くなり、脈や呼吸数がふえる。放置すると、ほとんどが死亡する。

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六訂版 家庭医学大全科 「ガス壊疽」の解説

ガス壊疽
ガスえそ
Gas gangrene
(外傷)

どんな病気か

 細菌が(そう)(傷口)から侵入することにより、筋肉が壊死(えし)を起こす致死性の疾患です。皮膚や皮下組織、筋肉などに感染を起こす疾患を軟部組織感染症(なんぶそしきかんせんしょう)といいますが、そのうちガス壊疽は筋肉を中心にメタンや二酸化炭素などのガスをつくりながら感染が広がることが特徴です(表12)。

 ガス壊疽は、クロストリジウム属の菌により起こるクロストリジウム性ガス壊疽と、連鎖球菌(れんさきゅうきん)大腸菌などのほかの細菌で起こる非クロストリジウム性ガス壊疽の2つに大別されます。

 以前は、戦争や各種災害による外傷後の感染症としてクロストリジウム性ガス壊疽が多くみられましたが、最近では、易感染宿主(いかんせんしゅくしゅ)(コントロールできていない糖尿病肝硬変(かんこうへん)、抗がん薬や免疫抑制薬の投与中などで免疫力が低下して感染しやすい患者さん)の外傷を契機に感染する非クロストリジウム性ガス壊疽が増加しています。

原因は何か

 外傷(そう)熱傷(ねっしょう)創、手術創、褥瘡(じょくそう)床ずれ)、糖尿病性壊疽などの創からガス産生菌が組織へ侵入すると、壊死に陥った組織内で増殖が起こり、毒素をつくって全身に影響を及ぼします。

症状の現れ方

 外傷後、創から菌が侵入すると、早いものでは数時間で傷の痛みが強くなり、発赤の範囲が広がります。最初は赤くはれ、次に壊死により創は褐色から黒色になり、握雪感(あくせつかん)(雪を握りしめるような感触)などの所見を示し、腐敗臭やドブ臭を発します。

 進行すると、多量の毒素や壊死物質が血中に流入することにより、貧血、血尿、黄疸(おうだん)などの症状が現れ、敗血症、多臓器不全症になり、救命は極めて難しくなります。

検査と診断

 創の周囲のはれ、壊死などの所見が認められた場合、ガス壊疽を疑い、患部のX線撮影やうみの細菌検査を行います。X線撮影で筋層内にガス像を確認することにより診断されます。また、細菌検査により原因菌を特定し、治療方針を決定します。

治療の方法

 薬浴とともに抗菌薬を創に塗布、あるいはペニシリンなどの抗菌薬を大量投与し、創を切開してうみを排出させ、壊死組織を切除します。手足の末端の炎症が膝や肘以上に進行し、重篤な全身症状を伴う場合では、救命のために患肢の切断を要します。

 なお、クロストリジウム性ガス壊疽では、高圧酸素療法がよく効き、切断を免れるものもあります。

 糖尿病や肝硬変などの基礎疾患がある場合は、その治療も同時に行います。

病気に気づいたらどうする

 病院の救急部門あるいは外科、整形外科を受診します。症状が急速に進行する場合や全身症状が認められた場合は、すぐに受診するか、救急車を呼んでください。

田熊 清継



ガス壊疽
ガスえそ
Gas gangrene
(感染症)

どんな感染症か

 土壌のなかにいる細菌が、主に外傷をきっかけに皮膚の筋層に達する場合と、糖尿病などの基礎疾患をもとに、大腸菌や連鎖球菌(れんさきゅうきん)などが筋層に進入して発症する場合の2通りがあります。

 どちらも、進入菌が増殖し、ガスを発生して筋肉が壊死(えし)(おちい)り、かつ全身性の中毒症を起こします。

症状の現れ方

 病変は赤くなり、皮膚の下の部分にガスがたまり、はれあがります。上から触ると、雪を踏んだような感覚があることが特徴的です。分泌物は、肉汁様で量が多く、腐敗臭を伴います。

検査と診断

 X線の所見で、傷の周囲に多数のガス像を認めます。原因となる細菌を培養検査しますが、検出できない時もあります。

治療の方法

 病変部はガスのためはれあがるので、血液のめぐりが悪くならないように、わざと皮膚を切開して、はれを回避する減張(げんちょう)切開が必要です。傷口は開放状態で処置します。病変部そのものを切除するデブリードマンと呼ばれる外科処置も、必要に応じて行われています。

 また、原因となる菌の種類に合わせた抗菌薬を使います。

 発症の原因となった菌が酸素を好まない菌であれば、高圧酸素療法を行うこともあります。ただし、その有効性には議論があります。

 症状が体幹にせまっていく重症例では、早期の患肢切断が必要になることがあります。

病気に気づいたらどうする

 医師の診断を受けることが必要です。診断に引き続き、切除などの処置が必要なので、外科のある病院か診療所を受診してください。

炭山 嘉伸, 吉田 祐一

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内科学 第10版 「ガス壊疽」の解説

ガス壊疽(Gram 陽性悍菌感染症)

(5)ガス壊疽(gas gangrene)
定義
 ガス壊疽は,細胞・組織障害性が強い数種のガス壊疽菌群と総称されるクロストリジウム属細菌(clostridia)が原因となる皮下組織,筋膜,そして筋肉までが侵された通常大量のガス産生を伴う致死的壊死性感染症である.筋肉壊死に陥った状態をいうmyonecrosisと同意語である.Clostridium perfringens,C. septicum,C. novyi,C. sordellii,C. histolyticum,C. chauvoei,C. bifermentans,C. limosumなどがガス壊疽菌群である.外傷性(外因性)と特発性(内因性)がある.
病因
 ガス壊疽菌群の芽胞は自然界に広く分布し,土壌や人・動物の腸管内にも存在する.C. perfringensとC. septicumは土壌,ヒトの腸管に存在し,外傷性または内因性のガス壊疽の原因となる頻度が高い.健康人の両菌種の保有率はそれぞれ数十%,数%である.
 C. perfringensはα毒素(43 kDa),θ毒素を産生する.C. perfringens α毒素(ホスホリパーゼ C)は,血小板アゴニストであり,毛細血管・小静脈・小動脈の血管内で血小板と凝集による血栓を形成する.血栓による血流遮断は局所の酸化還元電位を低下させ,嫌気性菌の増殖を促進させる.C. perfringensのθ毒素パーフリンゴリジン(perfringolysin)は細胞膜にポアを形成する孔形成毒素である.また,θ毒素は低濃度で炎症性反応を修飾することにより,ガス壊疽の進展に貢献する.その他のガス壊疽菌群の菌種も孔形成毒素などを産生することがわかっているが,毒素の特徴付けや疾病における役割の解析は進んでいない.
分類
1)C. perfringensガス壊疽(外傷性):
挫滅,骨折などで筋肉に達するような損傷を受けた場合,刺傷,銃創など腸管に達する損傷を受けた場合に起こる.前者では土壌中のC. perfringensの芽胞が,後者では腸管内のC. perfringensが原因である.C. perfringens
が増殖・毒素を産生すると,その毒素により小血管に塞栓をきたし,突然の激痛が現れる.菌の増殖に伴いガス産生,組織の破壊や腫脹が進行する.また,毒素が血流に入ると血管内溶血,ショック,多臓器不全などを起こす.
2)C. septicumおよびC. perfringensガス壊疽(特発性・内因性):
突然の激痛,ときに錯乱などの意識障害で発症する.大腸癌,憩室炎,消化器外科手術後,白血病の患者,癌化学療法・放射線療法中の患者,AIDS患者などでみられる.腸管内のガス壊疽菌群が原因である.腸管から血流に侵入し,組織内で増殖し,ガス壊疽を起こす.
3)クロストリジウムが関与する嫌気性蜂巣炎:
糖尿病患者ではまず皮下組織や後腹膜が侵され,その後電撃的に全身疾患に移行する.筋肉内注射を繰り返している薬物常用者でみられるC. novyiガス壊疽のように浮腫のみが前面に出る場合もある.
4)ガス壊疽菌群が関与するその他の急性感染症:
妊娠中絶と関連したC. sordellii感染症,胆管胆囊炎と関連したC. perfringensガス壊疽,そして眼科領域でみられる外傷後・術後の重症C. perfringens感染症などがある.
診断
 C. perfringensによる外傷性ガス壊疽の診断のポイントは受傷部位の突然の激痛と悪臭のあるガスを含む血性分泌物を伴う急激な創部の拡大である.分泌物や生検によって得た検体の直接塗抹標本のGram染色所見の特徴はGram陽性桿菌を認めるが,炎症細胞を認めない点である.この所見はガス壊疽菌群の毒素の作用(血栓形成・細胞溶解)と関連している.血液培養が陽性となる.C. perfringensやC. septicumによる特発性ガス壊疽は外傷と無関係に起こるため,早期の診断が難しい場合がある.突然の意識障害が初発症状となる場合がある.
予防・治療
1)ガス壊疽の予防:
創部のデブリドマンと消毒を十分に行う.血行再建などにより創部に嫌気環境をつくらない,持続させないことも重要である.
2)ガス壊疽の治療:
外科的処置が重要である.救命のため四肢の切断が選択されることがある.抗毒素血清療法と抗菌化学療法が外科的処置とともに行われる.クロラムフェニコール,クリンダマイシン,ピペラシリン,イミペネムなどはガス壊疽菌群に抗菌力を有する.クリンダマイシンを除き抗菌薬に対する耐性化もない.C. perfringensガス壊疽動物モデルを用いた実験で,蛋白合成阻害薬であるクリンダマイシンが,ガス壊疽の標準的選択薬である細胞壁合成阻害薬のペニシリンより効果的であったことが示されている.また,現時点では補助的治療の域を出ないが,高圧酸素療法も行われる.[渡邉邦友]
■文献
Stevens DL, et al: Life-threatening clostridial infections. Anaerobe, 18: 254-259, 2012.

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改訂新版 世界大百科事典 「ガス壊疽」の意味・わかりやすい解説

ガス壊疽 (ガスえそ)
gas gangrene

クロストリジウム属Clostridiumに属する嫌気性菌が傷口から侵入して起こる,広範な筋肉の感染症。原因菌は,ウェルシュ菌C.welchii,ノビ菌C.novyi,セプチクス菌C.septicumなど6種類あり,数種類の混合感染によるものが多い。いずれもグラム陽性の杆菌で,胞子をもち,毒素を産生する。土壌中に広く分布するので,泥のついた小さな傷に起こりやすく,汚染が激しい戦場で多発しやすい。受傷後24~72時間以内に傷口の痛みとはれが起こり,筋肉は壊疽を起こし,茶色の半ば濁った悪臭の強い滲出液が出,組織は高度に障害される。さらに,菌の産生する毒素によって早期に意識障害や黄疸を併発する。進行は非常に速く,早期に腐敗した組織を切除し,傷を浄化しないと死に至る。病変の主体が筋肉の壊死であり,発生したガスが滲出液に混じったり,皮膚を押すとプチプチという音が聞こえるので,この名称がある。治療は壊死組織を早期に切除し,抗生物質を大量に投与して行う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ガス壊疽」の意味・わかりやすい解説

ガス壊疽
がすえそ

ガス壊疽菌の感染によっておこる創傷感染症の一つ。ガス壊疽菌というのは嫌気性グラム陽性桿菌(かんきん)群の総称で、クロストリジウム属がもっとも多く、なかでも主役はウェルシュ菌である。ガス壊疽は、これらの混合感染による症候群である。土壌で汚染された開放性損傷によって発症しやすく、感染後6~7時間で感染創の周囲が蜂巣織炎(ほうそうしきえん)状に赤く腫(は)れ、筋肉の壊死(えし)を招いてガス発生を伴うため、病気の進行とともに膨れ上がり、全身状態が著しく悪化する。第一次世界大戦中の戦傷者に多発し、多数の死者を出して注目された。平和時にはまれである。かつては四肢の高位切断が行われたが、近年は化学療法や高圧酸素療法の効果が認められている。

[柳下徳雄]

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百科事典マイペディア 「ガス壊疽」の意味・わかりやすい解説

ガス壊疽【ガスえそ】

主としてガス壊疽菌(土中に存在する嫌気(けんき)性の芽胞形成杆(かん)菌の一群)が不潔な傷口から感染して起こる伝染病。戦場に多い。発熱と皮膚・筋肉の壊疽をきたす。抗生物質の大量投与を行うが,四肢の切断が必要となる場合もある。→嫌気性菌杆菌

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ガス壊疽」の意味・わかりやすい解説

ガス壊疽
ガスえそ
gas gangrene

ウエルシュ菌などの嫌気性桿菌が密閉創や血行障害のある創に侵入して起る感染症。菌は土の中,ときにヒトや動物の糞便中に存在する。感染すると急速に皮膚,筋肉に壊疽を起し,局所に悪臭のあるガスを発生して,全身状態を強く侵す。患部を早期に切開して徹底的に壊死組織を除去するが,四肢の場合は救命のために切断することもある。化学療法,免疫療法その他の全身療法が発達したので,最近では死亡率が 10%程度に低下している。

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世界大百科事典(旧版)内のガス壊疽の言及

【壊疽】より

…起炎菌としては嫌気性菌のクロストリジウムが最も多い。糖分を融解してガスを発生する場合には,ガス壊疽ということがある。腸管の壊死は,放置すれば必ず壊疽に陥る。…

【蜂巣炎】より

…治療は,局所の安静,冷却,全身的な抗生物質の投与を行い,膿瘍があれば切開排膿する。嫌気性菌による蜂巣炎では,組織の腐敗とガスの産生がみられ,ガス壊疽(えそ)と呼ばれる。【小野 美貴子】。…

※「ガス壊疽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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