翻訳|guitar
撥弦楽器の一種。弦を指先または義甲(ぎこう)ではじいて音を出す。昔から多くの変形があり,現在もスチール・ギター,エレクトリック・ギター,ハワイアン・ギターなどがあるが,単にギターという場合は,ふつうクラシック・ギターまたはスパニッシュ・ギターと呼ぶ最も伝統的な型をさす。これはおもに木製で,音を共鳴させるため中が空洞になった胴体から細長い棹が出ており,その先に糸蔵(いとぐら)が設けられている。弦は糸蔵に取り付けられた糸巻から出て棹の表面を走り,胴体の表面にあけられた円い孔の上を通って,駒と呼ばれる弦止めにおさまる。弦はかつてはガット(羊腸)またはスチール(鉄線)を用いたが,現在ではナイロン製がふつうである。音色が情緒に富んで美しく,しかも多彩であるほか,旋律,和声,リズムをいずれも十分に表現できるギターは完全な独奏楽器といえる。ただ音量に欠けるため一般に管弦楽の中には用いられず,そのためやや特殊視されるが,持運びの軽便さから伴奏楽器としても愛用されるなど利点はきわめて多い。
ギターの歴史は非常に古く,前2500年ころのシュメール文明にもさかのぼる。メソポタミア,エジプトをはじめ古代文明が残したテラコッタや石の浮彫には多少ともギターに似た,胴体,棹,糸蔵をもつ弦楽器が散見される。古代から中世にかけて,ギターはリュートと並行しながら発達してきた。胴体の背面が丸く隆起したリュートに対してギターは背が平らで,したがって表面板と背面板をつなぐ役の横板が必要になる。この胴体の形が,姉妹楽器のリュートとギターを分ける要点である。これらの弦楽器は中東を中心に発達し,おそらくアラブによって中世のヨーロッパに入ったものと考えられる。中世後期(12~14世紀)のヨーロッパにおけるギターはたいへん小型で,指または義甲で弾かれており,特色である胴のくびれは浅かった。16世紀に入ると形が今日のギターに近づき,また義甲が廃された。17~18世紀には従来4組だった弦が5組(複弦といって各組2本ずつ弦を張った)に増え,歌の伴奏や独奏に用いられて人気を博した。今日のように複弦をやめて単弦とし,弦の数も6本を標準と定めたのは18世紀の末ごろからである。
ギターは伝統的に南ヨーロッパとくにスペインが本場といわれ,ここからは古典期のF.ソル,近代のF.タレガ,現代のA.セゴビアなどの名手が出たし,多くの名器も生み出されてきた。しかし,ギターは古くからヨーロッパ諸国に普及していたし,現在ではほとんど世界中で親しまれている。
日本には安土桃山時代ポルトガル人,スペイン人によりわずかに持ちこまれたのち,明治時代から再び輸入され,1929年セゴビアの初来演があってのち徐々に愛好者を生んできた。現在では世界の一流水準に立つ演奏家や製作者も現れ,また小・中学校での音楽教育に使われるなど普及ぶりも目ざましく,今や日本は有数のギター愛好国に数えられている。
執筆者:浜田 滋郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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