有棹撥弦(ゆうとうはつげん)楽器の一種。独奏、伴奏の両方に用いられるが、独奏に際してはバイオリンのように伴奏を必要としない。ギターには多くの種類があるが、おおよそ共通した外形上の特徴は、表板と裏板とが平らで、表板にサウンド・ホール(響孔)のあるくびれの少ない胴をもち、まっすぐな(リュートのように折れていない)フレットのついた棹(さお)をもつことである。
[前川陽郁]
ギターという名称の由来は、古代のキタラkitharaにまでさかのぼることができるが、今日のギターのように背面が平らでくびれをもつ胴の楽器は13、14世紀のスペイン、フランスのラテン風ギターguitarra latinaが最初と考えられる。この楽器は柔らかい音色をもち、甲(かん)高い音を出すムーア風ギターguitarra morisca(背面に膨らみがある楕円(だえん)形の胴と金属弦をもつ)と対比されていた。ヨーロッパでリュートが全盛であった16世紀にスペインではビウエラvihuelaが約50年間流行した。ビウエラの形はギターと似ているが、当時のギターが複弦4コースであったのに対し、ビウエラは複弦6コースであった。17世紀には、単弦の高音弦を加えた、スペイン・ギターとよばれる5コース・ギターが愛用されたが、18世紀初めになると、ギターは音域が広く大きな音を出せる楽器に押され、庶民の楽器になるとともに簡素化されて単弦になった。18世紀の終わりにはふたたび盛んになり、このころ最低音の弦が加わり現在と同じ6単弦となった。そして19世紀の初め、狭く深かった胴が広く浅くなり、くびれが強く、またフレットが増え、音域が広くなって、現在のクラシック・ギターの形がほぼできあがった。
またこのころ、今日と同じ〔E2-A2-D3-G3-B3-E4〕の調弦法も確立された。さらに19世紀中ごろには、胴を大きくして力強く豊かな響きが得られるようにされ、6弦での演奏に対応しやすいように、指板は広く、弦高は低くされた。当時のとくに重要な製作者にスペインのトーレスAntonio de Torres(1812―1892)があり、以後その伝統はスペインに受け継がれて、名工が多く生まれている。
さらに20世紀に入ると、ジャズやポピュラー音楽の隆盛に伴い、エレクトリック・ギターなどさまざまなギターが生まれている。
[前川陽郁]
全長約1メートル、6単弦で、元来はガット弦を用いたが、現在では通常、高音側の3弦にナイロン弦を、低音側に巻線(ナイロンの芯(しん)に金属製の細線を巻き付けたもの)を用いる。指板には、金属製のフレットが半音刻みに17~20個つき、約4オクターブ半の音域をもつ。弾弦する右指の奏法には、(1)指頭、(2)爪(つめ)、(3)指頭と爪、を用いる3種があり、現在では(3)がもっとも一般的である。そして右手の特定の指を指定する際には、スペイン語の名称の頭文字をとって、親指はp(ペー)、人差し指はi(イー)、中指はm(エメ)、薬指はa(アー)、小指はch(チェー)の記号を用いる。現在のギター奏法の基礎を確立したのはスペインのタレガ(1852―1909)である。彼は新しい奏法を確立しただけでなく、バッハやモーツァルトなどの作品をギター用に編曲することでレパートリーを拡充し、自身でも創作をした。その高弟にプジョール、リョベートらが出、その影響下に現代最高のギター奏者セゴビアが育った。セゴビアによってギターはサロンから演奏会場へと進出し、ギター音楽は全世界に広まった。作曲家ではスペインのロドリーゴが『アランフェス協奏曲』(1940初演)など、ギターのための優れた作品を多く書いている。
[前川陽郁]
クラシック・ギター以外で現在よく使われるのは、フラメンコ・ギター、フォーク・ギター、それにエレクトリック・ギター(エレキ・ギター、電気ギター)などである。フラメンコ・ギターは、スペインのアンダルシア地方で踊りや歌の伴奏楽器として発達した。形はクラシック・ギターに似ているが、側・裏板が堅く、表板が薄めである。弦高が低めであるため、強音時には弦が指板に触れて独自の音色を生む。奏法上は、複数の弦を指の爪で掻(か)き下ろすラスゲアードが特徴的である。
フォーク・ギターは、ブルース、フォーク、カントリー音楽などに多く使われる楽器で、1960年代のフォーク・ブームによって、手軽で高度な歌伴奏の楽器として世界的に定着した。多く使われているのはドレッドノート・タイプとよばれる、大型でくびれの比較的弱いもので、フィンガー・ピッキングにも、ピックによるストロークにも適している。スチール製の弦が張られ、6弦のものとともに、複弦6コースの12弦ギターもよく用いられている。
エレクトリック・ギターは、ピックアップによって弦の振動を電気信号に変え、アンプで増幅してスピーカーから音を出すギターで、1930年代に開発された。共鳴胴をもつものと、もたないものとがある。アンプで増幅することにより豊かな音量が得られるだけでなく、ピックアップの複数化やエフェクターの使用などにより、音色の変化も多彩である。
[前川陽郁]
『小倉俊著『ギター事典』全2巻(1970、1974・音楽之友社)』
撥弦楽器の一種。弦を指先または義甲(ぎこう)ではじいて音を出す。昔から多くの変形があり,現在もスチール・ギター,エレクトリック・ギター,ハワイアン・ギターなどがあるが,単にギターという場合は,ふつうクラシック・ギターまたはスパニッシュ・ギターと呼ぶ最も伝統的な型をさす。これはおもに木製で,音を共鳴させるため中が空洞になった胴体から細長い棹が出ており,その先に糸蔵(いとぐら)が設けられている。弦は糸蔵に取り付けられた糸巻から出て棹の表面を走り,胴体の表面にあけられた円い孔の上を通って,駒と呼ばれる弦止めにおさまる。弦はかつてはガット(羊腸)またはスチール(鉄線)を用いたが,現在ではナイロン製がふつうである。音色が情緒に富んで美しく,しかも多彩であるほか,旋律,和声,リズムをいずれも十分に表現できるギターは完全な独奏楽器といえる。ただ音量に欠けるため一般に管弦楽の中には用いられず,そのためやや特殊視されるが,持運びの軽便さから伴奏楽器としても愛用されるなど利点はきわめて多い。
ギターの歴史は非常に古く,前2500年ころのシュメール文明にもさかのぼる。メソポタミア,エジプトをはじめ古代文明が残したテラコッタや石の浮彫には多少ともギターに似た,胴体,棹,糸蔵をもつ弦楽器が散見される。古代から中世にかけて,ギターはリュートと並行しながら発達してきた。胴体の背面が丸く隆起したリュートに対してギターは背が平らで,したがって表面板と背面板をつなぐ役の横板が必要になる。この胴体の形が,姉妹楽器のリュートとギターを分ける要点である。これらの弦楽器は中東を中心に発達し,おそらくアラブによって中世のヨーロッパに入ったものと考えられる。中世後期(12~14世紀)のヨーロッパにおけるギターはたいへん小型で,指または義甲で弾かれており,特色である胴のくびれは浅かった。16世紀に入ると形が今日のギターに近づき,また義甲が廃された。17~18世紀には従来4組だった弦が5組(複弦といって各組2本ずつ弦を張った)に増え,歌の伴奏や独奏に用いられて人気を博した。今日のように複弦をやめて単弦とし,弦の数も6本を標準と定めたのは18世紀の末ごろからである。
ギターは伝統的に南ヨーロッパとくにスペインが本場といわれ,ここからは古典期のF.ソル,近代のF.タレガ,現代のA.セゴビアなどの名手が出たし,多くの名器も生み出されてきた。しかし,ギターは古くからヨーロッパ諸国に普及していたし,現在ではほとんど世界中で親しまれている。
日本には安土桃山時代ポルトガル人,スペイン人によりわずかに持ちこまれたのち,明治時代から再び輸入され,1929年セゴビアの初来演があってのち徐々に愛好者を生んできた。現在では世界の一流水準に立つ演奏家や製作者も現れ,また小・中学校での音楽教育に使われるなど普及ぶりも目ざましく,今や日本は有数のギター愛好国に数えられている。
執筆者:浜田 滋郎
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