改訂新版 世界大百科事典 「クスノキ」の意味・わかりやすい解説
クスノキ (樟)
camphor tree
Cinnamomum camphora(L.)Presl
庭園,神社,寺院によく植えられ,また暖地の街路樹にも用いられるクスノキ科の常緑樹木で,ふつう樹高25m,直径80~150cmになるが,ときには樹高40m以上,直径5~8mに達する巨大なものがある。関東地方以南,四国,九州から台湾,中国南部,インドシナに分布し,丈夫で育ちやすいので各地に植えられる。樹皮は灰褐色から暗黄褐色で,縦に細かく割れる。葉は互生し,葉柄は2~3cm,葉身は長さ6~9cm,幅3~4cmで卵形~楕円形,やや革質で表面に光沢がある。花は直径約5mmの淡緑黄色の両性花で,新枝の葉腋(ようえき)から出る円錐花序に4~6月に咲く。果実は直径7~10mmの球形の液果で紫黒色に熟し,中に直径3~5mmの1個の種子をもつ。葉をはじめ樹体全体にショウノウ(樟脳)を含み,芳香をもつ。木材は黄褐色~淡紅褐色の散孔材。気乾比重約0.52で,比較的軽く,加工しやすい。ショウノウを含むため耐朽性,耐虫害性がきわめて高い。玉杢(たまもく),如鱗杢(じよりんもく)などの美しい杢目(もくめ)を示すことがある。大材が得られ保存性が高いことから社寺建築の柱や土台に用いられた。そのほか家具,彫刻欄間,建築壁板,仏像などの彫刻,木魚,細工物,器具,古くは丸木舟の製作など広い用途がある。台湾にある亜変種ホウショウは形態的にはクスノキとほとんど異ならないが,ショウノウの代りにリナロールを多く含み,これは香料原料として高い価値をもつ。薬用にされるニッケイもクスノキの仲間である。
クスノキ科Lauraceae
双子葉植物。40属あまり,約2000種からなり,世界の熱帯~亜熱帯を中心に分布する。とくに東南アジアと南アメリカの熱帯に多い。大半は常緑の樹木であるが,暖帯~温帯には日本のクロモジなどのように落葉のものもある。植物体全体に精油成分を含有する組織があり,そのため一般に芳香をもつ。葉はふつう互生し,単葉で,全縁または浅裂する。托葉はない。花は両性または単性,放射相称でふつう小さい。おしべの葯が弁開するのは,この科の特徴の一つである。果実は液果または核果で,種子は無胚乳。ニクズク科やバンレイシ科などの原始的な被子植物と類縁があると考えられるが,花はより単純化している。この科の有用樹木としては芳香成分を利用するクスノキ,ゲッケイジュ,ニッケイ属の数種,果実を食用にするアボカドなどをあげることができる。また,ほとんどが樹木であるこの科では,木材として有用なものが多い。
執筆者:緒方 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報