樟脳(読み)しょうのう(英語表記)camphor

翻訳|camphor

精選版 日本国語大辞典 「樟脳」の意味・読み・例文・類語

しょう‐のう シャウナウ【樟脳】

〘名〙 テルペン系ケトン化合物の一つ。化学式 C10H16O 無色透明、板状結晶。クスノキの材片を水蒸気蒸留してつくる。特異な芳香がある。有機溶剤によく溶けて、水には溶けにくい。セルロイド火薬の製造原料に用いるほか興奮剤香料防虫剤防臭剤などに用いられる。カンフルカンファー
言継卿記‐永祿一三年(1570)六月一六日「女官あかか一昨日丁香、藿香〈一両宛〉、甘松二分〉、生脳〈少〉致」
※俳諧・虎渓の橋(1678か)賦何雀俳諧「樟脳すこし香に匂ひける〈江雲〉 人はいさ心もしらすひせんかさ〈松意〉」

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デジタル大辞泉 「樟脳」の意味・読み・例文・類語

しょう‐のう〔シヤウナウ〕【×樟脳】

特異な芳香のある無色透明の板状結晶。昇華しやすい。水に溶けず、アルコールなどの有機溶媒に溶ける。クスノキの木片を水蒸気蒸留して製する。セルロイド無煙火薬の製造原料、香料・防虫剤・医薬品などに用いる。分子式C10H16O カンフル。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「樟脳」の意味・わかりやすい解説

樟脳
しょうのう
camphor

多環状モノテルペンケトンの一つで、医薬分野ではカンフルともいう。特有の香気をもつ半透明、昇華性の安定な粒状結晶。中国の揚子江(ようすこう)以南、海南島、台湾および日本が主産地であるクスノキ科のクスノキには、樟脳を生産する本樟と、リナロールを主成分とする芳樟(ほうしょう)とが著名である。化学構造から右旋性(d体)、左旋性(l体)、ラセミ体dl体)の3種の光学異性体がある。本樟または芳樟の根、幹、小枝の切片(チップ)、葉を水蒸気蒸留すると、樟脳原油とともに泥状結晶が留出し、これを濾取(ろしゅ)すると粗製樟脳が得られる。

 原木よりの収率は粗製樟脳0.8~1.0%、樟脳原油1.6~2.0%である。樟脳原油を分留すると再生樟脳が得られる。粗製樟脳とともに昇華法により精製して精製樟脳とする。それは精製度によって甲種樟脳(A)、改良乙種樟脳(純度98%以上)、乙種樟脳(B)(純度95%以上)などの区別がある。精製樟脳は粉末状または粒状として製品化する。

 第二次世界大戦後、中華民国が台湾を支配したため天然樟脳の生産は著しく減少した。日本における樟脳の生産量は1951年(昭和26)の4200トンが最高であり、1962年に樟脳専売制度が廃止されたために、その生産量は急激に減少した。

[佐藤菊正]

合成樟脳の製法

最近は天然樟脳が少ないので、α-ピネンを出発原料としたdl体(光学不活性)の合成樟脳が主流を占めている。すなわち、α-ピネンを酸化チタンなどの触媒により異性化させカンフェンとし、これを氷酢酸‐硫酸によって酢酸イソボルニルとし、さらにアルカリ水溶液でけん化してイソボルネオールとする。最後に、イソボルネオールを銅触媒によって接触的脱水素し、dl-樟脳を合成する。

 ヒンドゥー教徒の焼香用香料として用いられるほか、防虫剤、医薬品、ボルネオール製造原料として重要である。

[佐藤菊正]

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