クライスラー(読み)くらいすらー(その他表記)Chrysler

翻訳|Chrysler

デジタル大辞泉 「クライスラー」の意味・読み・例文・類語

クライスラー(Chrysler Group LLC)

米国の自動車会社。1925年、W=P=クライスラーが設立。クライスラー、ジープ、ダッジなどのブランドをもつ。ゼネラルモーターズフォードとともにビッグスリーとよばれ、世界の自動車産業を主導した。本社は米国ミシガン州オーバーンヒルズ。
[補説]サブプライムローン問題を発端とする世界金融危機の影響を受け、2009年4月に連邦破産法の適用を申請し、経営破綻。政府の支援、およびフィアット社との提携により、同年6月に新会社として再生した。

クライスラー(Fritz Kreisler)

[1875~1962]米国のバイオリン奏者・作曲家。オーストリア生まれ。作品に「愛の喜び」「ウィーン奇想曲」など。

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精選版 日本国語大辞典 「クライスラー」の意味・読み・例文・類語

クライスラー

  1. ( Chrysler ) アメリカの自動車メーカー、クライスラー社(現、ダイムラー・クライスラー社)が製造した自動車の名。
    1. [初出の実例]「難波タクシーはクライスラーを四台も持ってゐる立派なものにも拘らず」(出典:家族会議(1935)〈横光利一〉)

クライスラー

  1. ( Fritz Kleisler フリッツ━ ) バイオリニスト、作曲家。オーストリアに生まれ、一九四三年アメリカに帰化。すぐれた技巧と深い音楽性をもった演奏で世界的名声を得る。代表作は、「ウィーン奇想曲」「愛の悲しみ」など。(一八七五‐一九六二

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クライスラー」の意味・わかりやすい解説

クライスラー(Chrysler Corp.)
くらいすらー
Chrysler

ゼネラル・モーターズ(GM)、フォードに次ぐアメリカの自動車会社で、「ビッグ・スリー」を形成してきたが、2018年時点ではイタリアのフィアット社と統合したフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の完全子会社の一ブランドである。

 クライスラー社は1925年W・P・クライスラーWalter Percy Chrysler(1875―1940)がGMから独立して設立した会社で、第二次世界大戦前の絶頂期には25.8%の全米シェアを占め、フォードを抜いて自動車業界の第2位メーカーになったこともある。戦後、フォードがフォード2世Henry FordⅡ(1917―1987)のもとで立て直しを図り復活すると、ふたたびクライスラーは第3位に転落した。同社はGM、フォードに倣って、1960年代に入ってから積極的な海外進出を図り、1963年フランスのシムカ、1964年イギリスのルーツ、1965年スペインのバレイロスに資本参加し、1967年にはルーツを完全支配下に置いた。しかし、資金力と技術において弱点を抱えていたクライスラーにとって海外進出は大きな負担となったうえ、経営陣内部の混乱も加わって、その後経営不振に陥った。

 1970年代に入り、1973年の石油危機とそれ以降の一般消費者の小型車志向は、アメリカ自動車産業全体にとっての大打撃となった。同社は1978年以来、5期連続赤字を出し、破産の危機に直面したため、元フォード社長リー・アイアコッカを社長に迎え、経営立て直しを図った。1980年には15億ドルの連邦政府融資保証を受け、日本車の対米輸出自主規制の効果も加わって、1983年には黒字に転じ、からくも倒産を免れた。クライスラーは1998年に、海外戦略の強化と営業基盤の安定を図るため、ドイツの自動車メーカーであるダイムラー・ベンツとの合併に合意して、新会社ダイムラー・クライスラーを設立。その大規模な合併は大きな反響をよんだ。合併時の売上高は611億ドル(1997年12月期)。日本では1969年(昭和44)に三菱(みつびし)自動車工業に資本参加し、1985年(昭和60)に同社との折半出資による合弁でダイヤモンド・スター・モーターズ・コーポレーション(DSM)を設立したが、1993年(平成5)に資本提携を解消した。

[佐藤定幸]

その後の動き

2007年5月、ダイムラー・クライスラーは業績不振のクライスラー部門をアメリカの投資会社に売却、クライスラーはふたたび独立会社として運営されることになった。しかしリーマン・ショック後、クライスラー社は世界的な金融危機の影響を受けて業績が悪化し、2009年4月30日、アメリカ連邦破産裁判所に連邦破産法11条の適用を申請した。同年6月にはイタリアのフィアット社から20%の出資を受け入れ、経営支援を受けた。2014年には、全株式を取得したフィアット社の傘下に入り、経営統合してフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)となった。同年、ニューヨーク証券取引所に上場。登記上の本社をオランダのアムステルダム、実質的な本社機能(含む税務上の本社機能)をイギリスのロンドンに置く。従来のクライスラー社(アメリカ・ミシガン州オーバーンヒルズ)はFCA傘下のFCA US LLCに改称した。

[矢野 武 2019年8月20日]


クライスラー(Fritz Kreisler)
くらいすらー
Fritz Kreisler
(1875―1962)

オーストリア出身のアメリカのバイオリン奏者、作曲家。20世紀前半を代表する名手であり、気品と格調の高さで世界中の音楽愛好者に敬愛された。1875年2月2日ウィーンに生まれ、同地音楽院とパリ音楽院に学び、12歳で音楽教育を終える早熟ぶりをみせたが、一時音楽から遠ざかって医学と美術を修めた。1899年ニキシュ指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と協演、本格的な演奏活動に入る。第一次世界大戦後にオーストリアの陸軍士官として従軍、負傷したが、戦後ただちに楽界に復帰、世界的な名声を博す。1923年(大正12)の春に来日。ナチスを逃れて38年にフランス市民権を、さらに39年アメリカに移住して、43年アメリカ市民権を取得。47年ニューヨークのカーネギー・ホールの演奏会を最後に引退し、62年1月29日、同地で没。情緒豊かな温かい表現で聴き手の心に訴える演奏を行い、一世を風靡(ふうび)した。作曲にはオペレッタ作品もあるが、ウィーン情趣をたたえたバイオリン独奏用小品『愛の喜び』『愛の悲しみ』『ウィーン奇想曲』が名高い。またベートーベンをはじめとするバイオリン協奏曲のカデンツァは、多くのバイオリン奏者によって愛奏されている。

[岩井宏之]

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百科事典マイペディア 「クライスラー」の意味・わかりやすい解説

クライスラー[会社]【クライスラー】

1925年設立の米国自動車会社。長年,ゼネラル・モーターズ,フォードに次ぐ全米第3位の位置にあり3社はビッグスリーといわれた。第2次大戦後の自動車ブーム終息後,経営失敗と内紛で不振となったが,1960年代から立ち直る。高級車ニュゼネラル・モーターズ,フォードに次ぐ全米第3位の米国の自動車会社。ーポート,ニューヨーカーなどのクライスラー・シリーズ,中級車ダッジ,プリムスから小型車,ジープまで幅広く生産。ヨーロッパにも進出,日本では1969年三菱重工業(現在は三菱自動車)と提携。1970年代末に経営不振となり,政府保証の融資を受け再建を進めた。その後アイアコッカの手で再建されたが,販売不振から経営が行き詰まり,1998年11月ドイツのダイムラー・ベンツ社と合併し〈ダイムラー・クライスラー〉となり世紀の合併と評された。しかしこの合併も短期で解消され,クライスラーの経営不振が続いた。2007年米国サブプライムローン問題に端を発する金融危機で米国市場が急速に冷え込むなか,業績はさらに悪化,2009年4月米連邦破産法の適用を申請した破綻した。米国オバマ政権は同じく破綻したGMとともに米国資本主義の象徴的存在としてとらえ再建支援を訴え,再建に向けて司法判断も異例の早さで出され,2009年6月伊フィアットとの資本・業務提携で合意して新クライスラーを発足させた。フィアットとの新連合は,2008年の販売台数実績425万台で世界第6位に位置するが,自動車産業の世界的な低迷は続いており,再建の予断を許さない状況である。新クライスラーの株式は全米自動車労組55%,フィアット35%,その他を米国政府,カナダ政府が占めている。
→関連項目ダイムラー・クライスラー[会社]デトロイトプジョー[会社]三菱自動車工業[株]

クライスラー

オーストリア出身の米国のバイオリン奏者,作曲家。20世紀前半を代表する名演奏家の一人。生地のウィーン音楽院ブルックナーらに学び,パリ音楽院でドリーブらに師事。1899年,ニキシュ指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との協演でソリストとしての地歩を築く。1939年ナチスのオーストリア併合でパリに逃れ,次いで米国に亡命。1943年に市民権を得た。ウィーンの伝統を身につけた最後の大バイオリン奏者ともいえ,自作をはじめとする比類ない名演を録音に残した。作品では《愛の喜び》《美しいロスマリン》《ウィーン奇想曲》などの小品が親しまれている。→イザイエ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クライスラー」の意味・わかりやすい解説

クライスラー
Chrysler LLC

アメリカ合衆国の自動車メーカー。前身はマックスウェル・モーターであるが,ゼネラル・モーターズを退職したウォルター・P.クライスラーが再建して 1925年に設立。 1928年ダッジ (1914設立) を買収してビッグ・スリーの一角に入る。 1936~49年にはフォード・モーターを抜いたこともあるが,1950年代には技術偏重で業績が悪化,内紛が加わって危機に見舞われ,1961年に無名のリン・タウンゼンドが 42歳で社長に就任,巻き返しをはかった。アメリカ市場のシェアは一時8%まで低下したが,1968年には 18.9%にまで上昇。海外経営戦略では,1963年フランスの自動車会社シムカの乗っ取りが有名。その後イギリスのルーツ,スペインのバレイロスを買収。 1969年以降再び業績悪化に見舞われ以後低迷が続いた。 1987年にアメリカン・モーターズを買収。 1989年には三菱自動車の株式とガルフストリーム・アエロスペースを売却,さらに 1996年には防衛・航空関連部門をレイセオンに売却し,自動車部門に集中することになった。 1998年ドイツの自動車メーカー,ダイムラー=ベンツと合併し,ダイムラー・クライスラーと改称した。しかし 2007年には合併を解消。アメリカの投資ファンドの傘下に入り,社名をクライスラー LLCに変更した。

クライスラー
Kreisler, Fritz

[生]1875.2.2. ウィーン
[没]1962.1.29. ニューヨーク
オーストリア生れのアメリカのバイオリニスト,作曲家。7歳でウィーン音楽院に入学,1885年パリ音楽院で J.マッサールにバイオリンを,L.ドリーブに作曲を学ぶ。 88~89年ピアニストの M.ローゼンタールとアメリカを演奏旅行し,輝かしい成果を収めた。 1943年アメリカに帰化。バイオリニストとして一世を風靡するとともに,作曲や編曲によるバイオリンの小品も多数残し,『ウィーン奇想曲』『愛の悲しみ』『愛の喜び』『中国の太鼓』などは珠玉の小品とされている。 1923年来日。

クライスラー
Chrysler, Walter Percy

[生]1875.4.2. カンザス,ワミーゴ
[没]1940.8.18. ニューヨーク,グレートネック
アメリカ三大自動車会社の1つであるクライスラー社の創設者。初めユニオン・パシフィック鉄道の機械工場に見習工として入社,のち草創期の自動車工業に身を投じ,ビュイック部門の製作部長として,創立直後のゼネラル・モーターズで活躍,1919年退社時はビュイック部門の社長であった。 25年クライスラー社設立,28年名車プリマスを発表して,フォード,シボレーに対抗する第三勢力となった。

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改訂新版 世界大百科事典 「クライスラー」の意味・わかりやすい解説

クライスラー
Fritz Kreisler
生没年:1875-1962

オーストリアが生んだ20世紀最高のバイオリン奏者の一人で作曲家。のちアメリカに帰化。生地のウィーン音楽院,およびパリ音楽院で神童ぶりを発揮,12歳で音楽教育を終了。1899年ニキシュ指揮のベルリン・フィルハーモニーと協演し,独奏者としての地歩を固めた。第1次世界大戦に将校として従軍,負傷したが,その後も活発に演奏活動を続けた。彼の手にかかると,大曲も小品も親愛感あふれるものになり,そのため幅広い人気を博したが,とりわけ自作の小品の甘美な表現は絶品であった。1923年来日。おもな作品に《愛の喜び》《愛の悲しみ》《美しいロスマリン》《ウィーン奇想曲》がある。
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ピティナ・ピアノ曲事典(作曲者) 「クライスラー」の解説

クライスラー

ウィーンで生まれたアメリカ合衆国のヴァイオリニスト。幼少の頃よりヴァイオリンを学び始め、ウィーン市立音楽院に入学、パリ音楽院を幼くして卒業している。1899年にベルリン・フィルハーモニーと共演。それ ...続き

出典 (社)全日本ピアノ指導者協会ピティナ・ピアノ曲事典(作曲者)について 情報

世界大百科事典(旧版)内のクライスラーの言及

【牡猫ムルの人生観】より

…第1巻1820年,第2巻1822年刊。正式の題名は〈ならびに偶然まじり込んだ楽長ヨハネス・クライスラーの伝記断片〉という添書きをともなう。学をつんだ牡猫ムルは若い世代のために自分の生涯の回想録を書くが,その際,《楽長クライスラー伝》なる書物のページをやぶいて吸取紙もしくは下敷きとして使い,それがそのまま原稿にまじって印刷されたために,ムルの回想はしばしばクライスラー伝の断片によって中断される。…

【バイオリン】より


[日本のバイオリン]
 日本にバイオリンが導入されたのは明治時代にさかのぼる。大正時代にはジンバリストEfrem Zimbalist(1889‐1985),F.クライスラー,J.ハイフェッツなどの名演奏家が多数来日し,バイオリンへの関心が高まった。しかしバイオリンが一般化したのは昭和にはいってからであり,第2次世界大戦直前の時期には諏訪根自子,巌本真理,江藤俊哉,岩淵竜太郎などの演奏家が活躍している。…

※「クライスラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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