鍵盤楽器の一種。名称はラテン語のclavis(鍵)とchorda(弦)に由来する。鍵盤をもつ弦鳴楽器としては最も古く,構造も簡単で音量も小さい。クラビコードは音律測定用に使われたモノコードmonochord(モノコルドともいい,1本の弦を張り,その振動を利用する楽器または器具)が発展したものといわれる。同時に複数の音が出せるように弦の数が増やされ,駒を動かさなくても求める音の高さが得られるように,オルガンからヒントを得て鍵盤が備えつけられた。中世,ルネサンスにおいてはマニコードとかポリコードなどとも呼ばれたが,しだいにクラビコードの名が定着した。大きさは普通,幅90~180cm,奥行き30~60cm,高さ10~20cmの長方体で,4本の脚がついているものと卓上型とがある。長い方の1辺に鍵盤がついており,その向こう側に左から右へと弦が張られている。弦は左奥の糸止めピンから鍵盤の奥上方を通り,駒を越えて右端の調律ピンに巻きつけられる。1音に対して2本のユニゾン弦が張られる場合と,単一弦の場合とがある。この弦を,鍵の向こう端に植え込まれたタンジェントと呼ばれる金属片が打って音を発するのであるが,弦の左側にはフェルトが巻きつけてあって振動を消すので,結局タンジェントの打点から駒までの弦が振動し音高を決定することになる。それゆえ1コースの弦を複数の鍵が共有することが可能であり,これを共有弦というが,1コースを共有する複数の音を同時に鳴らしたりレガートに奏することはできない。そこで18世紀に専有弦すなわち1コースにつき1鍵という方式が生まれた。音域も拡大され,16世紀初めには3オクターブ半が一般的であったが,18世紀半ばにいたって5オクターブが標準となった。いずれにしても,指が鍵を押してタンジェントが弦を持ち上げている間だけ音が持続し,その間,押す指の圧力のコントロールによって音高や強弱の微妙な変化をつけることができる。圧力を細かく増減して音にビブラートをかけることもでき,これをベーブング奏法と呼ぶが,これは他の鍵盤楽器にはまったく見られないクラビコード特有の奏法である。タッチに敏感で繊細な美しい音色をもつので,感情の自然な表出を目指した感情過多様式empfindsamer stilにとって最適の楽器であった。18世紀後半のドイツで大変好まれ,なかでもC.P.E.バッハは,《わがジルバーマン・クラビーアへの別れ》(Wq.66,1781)ほか多数のクラビコードのための作品を残すとともに著書《クラビーア演奏の正しい技法についての試論》(第1部1753,第2部1762)のなかでクラビコードの特質や奏法について詳しく述べている。19世紀にいったん廃れたが20世紀に入ると古楽復興のブームに乗って復活し,少数ながら新しい作品も書かれている。
執筆者:津上 智実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ハープシコードとともに、ピアノの前身となった鍵盤(けんばん)楽器。ハープシコードが弦を掻(か)いて音を出すのに対し、クラビコードは、鍵を下げると鍵の反対側が上がり、そこに取り付けられたタンジェントとよばれる真鍮(しんちゅう)の楔(くさび)で弦を下から打つことで音を出す。クラビコードの起源は、モノコルドや、その弦を複数にしたポリコルドに鍵盤をつけたことにあり、15世紀ごろまでにはその原形ができていたと考えられ、16~18世紀のバロック時代にかけてヨーロッパで広く用いられた。
クラビコードは長方形の胴をもち、胴の長辺の側に鍵盤を配し、弦は鍵盤と平行に(長辺方向に)張られている。初期には、1本の弦を2~4の鍵で共用できる仕組み(共有弦)になっていたが、18世紀には1鍵対1弦(専有弦)になって演奏の自由さは向上し、音域も最終的には5オクターブにまで広げられた。ただし、共有弦の楽器のほうが音色は優れているともいわれる。クラビコードは音量がごく小さいため、もっぱら家庭用の楽器として愛好された。微妙な強弱の変化をつけることが可能で、打鍵後もタンジェントが弦に触れていることを利用して、打鍵のあとに何度か圧力をかけ直して一種のビブラート効果を得るベーブンク奏法のような、独自の奏法も考案された。
[前川陽郁]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…一方,リード・オルガンやアコーディオンは,鍵の操作によってフリー・リードを振動させる。弦鳴鍵盤楽器の中には,撥弦によるもの(ハープシコード属)と打弦によるもの(クラビコード,ピアノ)の2種類がある。体鳴鍵盤楽器は,鍵盤の操作によって鉄製の平板をフェルトハンマーで打つチェレスタによって代表される。…
※「クラビコード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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