研究者や技術者が大学や民間企業など複数機関と雇用契約を結び、どの機関でも正式な役・職員や従業員として働く制度。大学、高等専門学校、民間企業、研究機関などと雇用契約を結んで研究・開発・教育業務に従事するケースが多く、事前に決めた勤務時間や業務比率に応じて各機関が給与を分担する仕組みである。クロスアポイントメントcross appointmentは「職務をまたぐ」という意味で、相互雇用制度、混合給与制度ともよばれる。大学や企業にとっては、少ない経費で優秀な人材を確保することができ、短期であれば報酬が高額な内外の一流研究者を招聘(しょうへい)できる利点もある。国全体でみれば、優秀な人材を複数機関が活用できるうえ、研究者の流動化、活躍する(複数の)機会の創出、産学連携などを促すことができ、イノベーションの創出や研究水準の向上につながる。一方、研究費や人件費の分担について、管理・事務手続が煩雑となるほか、年金や退職金に関する制度が整備されていないという問題があったが、複数機関と退職金、年金、知的財産権、情報管理などに関する協定を結ぶことで、柔軟な働き方が可能となった。
海外ではjoint appointmentやdual appointmentということばが使われることが多い。たとえばアメリカの教授の場合は9か月給与制が一般的で、夏休みの3か月間は別機関から収入を得る兼業が認められるなど、欧米では複数機関と雇用契約を結びやすい環境にある。日本では、国立大学の教授らは非常勤職の兼務ができるにとどまっていたが、政府が2014年(平成26)の「科学技術イノベーション総合戦略2014」や、「日本再興戦略 改訂2014」に、この制度の導入促進を盛り込み、同年に文部科学省と経済産業省が策定した「クロスアポイントメント制度の基本的枠組みと留意点」で手続や課題を整理したことで利用例が広がった。同制度を適用する国立大学の教員は2020年(令和2)10月時点で787人と、2015年4月時点の8.5倍に増えた。
[矢野 武 2023年3月17日]
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