グライダー(航空機の一種)(読み)ぐらいだー(英語表記)glider

翻訳|glider

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

グライダー(航空機の一種)
ぐらいだー
glider

航空機の一種で、飛行機のようにプロペラジェットエンジンなどの推力装置をもたず、機体の主翼に働く空気力によって飛行する機体。滑空機ともいう。

[野口常夫]

歴史

実用的なグライダーの研究は1891年ドイツのリリエンタールによって行われた。彼は滑空している鳥の飛び方を研究してグライダーを試作し、滑空飛行に成功した。このグライダーは、鳥の翼に似せてつくられた主翼の中央に人間がぶら下がって飛ぶ機体で、リリエンタールは6年間に総計2000回以上もの滑空実験を行い、正しく設計された翼は、人間の体重を支えうるということを実証した。1903年アメリカのライト兄弟は世界で初めての飛行機による動力飛行に成功したが、その2年前、兄弟はグライダーを製作し滑空実験を繰り返して、機体の研究と操縦の練習を行った。1920年ごろからグライダーはスポーツとして注目され、ヨーロッパを中心に各国で行われるようになった。第二次世界大戦になるとグライダーはパイロットの基礎訓練用として使われ、軍隊輸送用の大型機体も開発された。戦後ふたたびグライダー飛行はアメリカ、ヨーロッパを中心にスポーツとして行われるようになった。現在のグライダーは航空技術の目覚ましい進歩と新しい材料の使用により、その性能は飛躍的に向上した。

[野口常夫]

分類

グライダーはその性能からプライマリー・グライダーprimary glider、セコンダリー・グライダーsecondary glider、そしてソアラーsoarerの3種類に分けることができる。国土交通省(旧運輸省)の耐空性基準では、強度上の要件から滑空機実用(U)、滑空機曲技(A)に分類されている。

 プライマリー・グライダーは、普通、木製のトラス胴体に木製羽布張りの主翼がつき、上下から張り線によって固定されている簡単な構造で、操縦者は胴体先端の座席にむき出しのまま座り、計器類はない。太いゴム索を20人ぐらいの人によってV字形に引っ張り、十分な張力がついたところで発航するようになっている。この機体は空気抵抗が非常に大きく性能が悪いため、現在ではまったく使用されていない。

 セコンダリー・グライダーは、プライマリーの操縦席の周りをナセル(風防(ふうぼう))で囲み空力(くうりき)的改善を行った機体で、簡単な計器類がついた機体や、複座型になった機体がある。自動車に300メートルほどのワイヤをつけて発航する自動車曳航(えいこう)と、自動車用のエンジンにドラムをつけワイヤを巻き取って発航させるウィンチ曳航の方法があり、200~300メートルの高度まで上昇させることができる。この機体も現在はプライマリーと同様にほとんど使用されていない。

 現在使用されているグライダーのほとんどはソアラーとよばれる高性能グライダーである。ソアラーには練習用の複座型と単座型があり、練習生は最初複座機で教官といっしょに乗り練習する。発航はウィンチ曳航と飛行機曳航がある。飛行機曳航は、飛行機にロープをつけグライダーを曳航する方法で、1980年に入ってもっとも一般的な方法となってきた。飛行機曳航の利点は、グライダーを離脱する高度が自由に選べ、もっとも気流のよい所までグライダーを引っ張っていけることである。

[野口常夫]

原理・性能

グライダーはプロペラなどの推力装置をもたないため、飛行機のように一定の速度で水平飛行することができない。グライダーが一定の速度で滑空しているときは、水平面に対して一定の角度で滑空していることになる。この角度を滑空角という。滑空中のグライダーには滑空方向からグライダーの速度に等しい風(相対風)が当たることになり、この風によって機体には揚力と抗力が発生する(図A)。揚力は滑空方向に対して垂直方向に働き、抗力は滑空方向に対して反対の方向に働くことになる。機体の重心には重力が水平面に対して垂直方向に働いている。この重力は滑空方向に対して前向き成分と下向き成分とに分けることができ、重力の下向き成分と揚力とが等しく、重力の前向き成分と抗力が等しいとき、グライダーは一定の速度を保って滑空をする。ここで滑空角θは揚力と抗力の比(揚抗比)によって決まり、この値は距離と高さの比(滑空比)と同じになる。すなわち、一定の速度で滑空しているグライダーの揚抗比と滑空比は等しく、この値から滑空角を知ることができる。また滑空中のグライダーの垂直方向速度を沈下率(図B)といい、滑空比とこの沈下率の値がグライダーの性能を表している。

 このようにグライダーの性能は揚抗比の大きさに左右され、性能をあげるためには機体の抗力を小さくすることが必要となる。機体の抗力は誘導抗力と形状抗力とからなっている。誘導抗力は主翼の翼端から出る渦によって生じ、この誘導抗力は主翼の縦横比アスペクト比ともいう。(図C)〕と大きな関係があり、縦横比を大きくすることによって誘導抗力を減少することができる。形状抗力は機体の形に影響され、現在の高性能ソアラーでは、操縦者はあおむけに近い姿勢で乗る機体が多くなっており、これにより胴体の断面積を小さくして形状抗力の減少を図っている。また車輪も飛行中胴体の中に引き込める構造になっている。最新の高性能ソアラーは縦横比20~30の主翼をもち、滑空比は35~40、沈下率は毎秒0.6~0.8メートルほどである。

 グライダーの主翼には翼の上面と下面に出るスポイラーがついており、操縦者の操作によって出すことができ、このスポイラーによって機体の揚抗比を変えて滑空角を操縦者が調節する。これにより着陸時、正確に目標地点に着陸させることができる(図D)。

[野口常夫]

構造

グライダーの機体の構造は大きく分けると、木製羽布張り構造、全金属製応力外皮構造、強化プラスチック応力外皮構造の三つがある。木製羽布張り構造の機体の主翼は一般にヒノキスプルース(ベイトウヒ。マツ科の常緑針葉樹)などの木材で骨組をつくり合板や羽布を張り、その上に塗料を塗って仕上げている。一部の高性能ソアラーは全金属製応力外皮構造を採用しており、飛行機と同じようにアルミニウム合金が使用されている。高性能ソアラーの多くは強化プラスチック応力外皮構造で、これにより機体の外形を空力的に理想に近い形にすることができ、また機体表面が滑らかに仕上げられるため、機体の性能は飛躍的に進歩した。

[野口常夫]

飛行

グライダーは動力をもたないため、上昇したり目的地への飛行には上昇気流を使うことになる。上昇気流には、(1)斜面上昇気流(山などの斜面に向かって吹いた風が、これに沿って上昇するもの)、(2)長波上昇気流(山の斜面に沿って上昇した風が、山の風下側に波状の気流を生じさせるもの)、(3)熱上昇気流(太陽の放射熱で地表が暖められ、その部分の空気が上昇するもの)の三つがある(図E)。操縦者はこれらの上昇気流をみつけ、その中で旋回したり低速飛行をしたりして上昇し、大空を自由に飛ぶことができる。

 また、操縦装置がなく、操縦者を機体からハーネス(操縦者を機体から水平につるすベルト)でつり、操縦者はコントロールバーを両手で握り、体を前後左右に動かして機体の重心位置を変えて操縦するものをハンググライダーhang gliderまたはカイトkiteという。これは、1970年代アメリカのカリフォルニアを中心に世界中で流行した。75年にはFAI(Fédération Aéronautique Internationale国際航空連盟)で正式に加盟が認められ、新しい空のスポーツとなった。

 1980年代に入ると、ヨーロッパを中心にパラグライダーが使用されるようになってきた。パラグライダーは、化学繊維の布を翼の断面形状をもった形(キャノピー)に縫い合わせ、前縁に沿って開口部(エアインテーク)をつくり、空気がこのキャノピーに当たるとラム圧(空気中を進行するときの前進圧)で脹(ふく)らみ、翼の形状となる。キャノピーには多くのライザーとよばれる細い繊維のひもが取り付けられている。この多くのライザーはキャノピーの下方で2か所に束ねられ、これによってキャノピーの形状が保たれている。束ねられたライザーにパイロットが乗り固定できるハーネスとよばれる座席がついている。パイロットはこれに乗って飛行する。キャノピー左右の後縁にはブレークコードとよばれるコードがあり、このコードをパイロットが手で操作することによって左右の翼の断面形状が変化し、パラグライダーを操縦することができる。

 パラグライダーには骨組みがなく、折りたたんで専用のケースに入れて、1人で容易に運べるため、その手軽さから急速に普及した。現在では、ハンググライダー、グライダーより愛好者人口は多くなり、FAIの規定による世界選手権大会など世界各地で多くの競技会が開催されている。

[野口常夫]

『ゴンチャレフ著、森山岩夫訳『最新の滑翔技術と戦術』(1955・日本航空協会)』『原田覚一郎著『グライダー操縦の基礎』(1969・鳳文書林)』『『ライフ/人間と科学シリーズ 飛行の原理』(1975・タイムライフブックス)』『平田実編・写真、岡良樹ほか文『ハングライダー――鳥になる本』(1988・成美堂出版)』『『ハングライダー入門』(1991・日本放送出版協会)』『デービッド・ジェフリズ著、東昭監修『ポケットペディア 航空機』(1997・紀伊國屋書店)』『マイケル・テイラーほか著『航空ギネスブック 日本語版』(1998・イカロス出版)』『リチャード・テームズ著、森泉亮子訳『ライト兄弟――空にあこがれた「永遠の少年」』(1999・国土社)』『木村春夫編、佐藤博著『日本グライダー史』(1999・海鳥社)』『鈴木真二著『はなしシリーズ ライト・フライヤー号の謎――飛行機をつくりあげた技と知恵』(2002・技報堂出版)』『『イカロスMOOK パラグライダーにチャレンジ』(2003・イカロス出版)』


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android