グランドゼコール(英語表記)grandes écoles

改訂新版 世界大百科事典 「グランドゼコール」の意味・わかりやすい解説

グランドゼコール
grandes écoles

総合大学universitéおよび技術短期大学Institut universitaire de technologie(IUT)とともにフランスの高等教育機関を構成する高等専門学校の総称で,〈大学校〉を意味する。工学,農学,獣医学,教育,古文書学,行政,政治,経済,経営,商業,美術,工芸,建築,音楽,演劇,映画,ジャーナリズム,税務,軍事,警察等々,多様な分野において高度の技術教育を授けることを通じ,それぞれの分野におけるエリートを養成することを目的に設立された。その点で,一般教養人の養成を目ざす総合大学,中級専門家を養成する技術短期大学と基本的に性格を異にする。とくに文科系の高等師範学校エコール・ノルマル・シュペリウール),理科系のポリテクニクの出身者はエリート中のエリートとみなされており,各分野において団結力を誇っている。グランドゼコールの大多数は総合大学とは別個の系列をなし,両者はむしろ競合関係にある。

 グランドゼコールが所属する官庁も,高等師範,国立古文書学校,国立中央工芸,国立高等工芸などが文部省に所属するほかは,国立行政学院と政治学院が総理府,ポリテクニク,総合士官学校,海軍兵学校,国立高等航空宇宙その他が国防省,国立農学院,国立水利森林が農林省,国立高等鉱山が商工省,国立橋梁土木が建設省,国立高等通信が郵政通信省,国立高等美術,国立高等装飾美術,国立高等音楽院,国立演劇芸術院が文化省というように,それぞれの専攻分野によって異なる。このほか公立にパリ市立の高等物理化学学校,私立の名門校にパリ商工会議所所属の高等商業がある。1980-81学年度の統計では,国公私立を合わせたグランドゼコールの総数は306校,在籍学生総数9万6726,修了資格取得者(ディプロメ)の総数2万3365。このうち約半数の161校がエコール・ダンジェニウールécole d'ingénieursと呼ばれる工学系で占められており,学生数4万1848,修了資格取得者数1万2244。次いで多いのが商業・経営系の70校,学生数1万7278,修了資格取得者数4961で,フランス経済の変遷とみごとに対応している。

 入学条件は学校によって異なるが,1年次の場合は通常,高等学校(リセ)を卒業後,各学区(アカデミー)ごとに実施されるバカローレアbaccalauréatと呼ばれる大学入学資格試験に合格した上で,さらに,各校が単独またはグループを形成して実施する選抜試験(コンクール)が課される点で一般の大学と異なる。志願者は,多くの場合,バカローレアに合格したあと当該学区の大学に登録する一方,高等学校に設けられた準備学級classe préparatoireで通常2年以上(例外的に1年)学習したのち,志望校の選抜試験を受験する。2年次では,他のグランドゼコール出身者,あるいは修士号その他特定の資格所有者に受験の機会が与えられることがある。なお,高級官僚養成機関として知られる国立行政学院の場合,政治学院等のグランドゼコールの出身者または特定の称号や資格の取得者で27歳以下の者を対象とした外部選考と,5年以上在職した36歳以下の公務員またはそれに準じる者を対象とした内部選考により選抜する。グランドゼコールの修学期間は8ヵ月から4年と差があり,このほかに比較的長期間の実習が課されることが多い。また,ポリテクニクや高等師範学校などのように,在学中,公務員に準じて手当が支給されることもある。修了時に特定の資格が与えられる学校が多いが,高等師範学校のように修了資格がなく,アグレガシオンなどの教授資格試験に挑戦しなくてはならない例もある。

 グランドゼコール出身者に対する処遇は,官界,民間の別を問わず,就職当初から高い地位と高収入が保証されており,昇進の可能性も大である。特に,国立行政学院,ポリテクニク,パリ中央工芸,リヨン中央工芸,高等先端技術,パリ高等電子,パリ高等鉱山,橋梁土木,高等電気,高等通信,高等商業,高等経済商業といった一流校の出身者の初任給は,その他のグランドゼコール出身者や総合大学出身の経済学博士とか法学博士にくらべ格段に高いといわれる。このように,グランドゼコールは,その入学条件の厳しさ,競争の激しさ,出身者の学力水準の高さ,将来性の豊かさなどから,能力主義社会のエリート養成機関として高い評価をうけ,フランスの高等教育機関中最高の存在とみなされている。

グランドゼコールのコラム・用語解説

【グランドゼコール】

国立古文書学校 École nationale des chartes
1821年ルイ18世により設立された古文書学校。4年制。フランソアモーリヤックの母校。
●高等師範学校(〈エコール・ノルマル・シュペリウール〉)
国立行政学院 École nationale d'administration(略称エナENA)
1945年設立。コンセイユ・デタ,会計検査院,財務総監部等の幹部や,内務・外務の高級官僚養成を目的とし,官界,政界,財界に数多くの優れた人材を送り出した。1981年の左翼政権成立後,選抜方法に改革が加えられ,学生と公務員以外にも門戸が開かれた。
パリ政治学院 Institut d'études politiques de Paris(通称シアンス・ポSciences-Po)
1872年設立。政治・経済・社会学関係の名門校。ENAの学生受験部門で圧倒的な合格率をあげている。クローデル,ポンピドゥー,シラク,ドブレ,マンデス・フランス,ミッテラン,ロカールの出身校。3年制。
エコール・ポリテクニク
国立橋梁土木学校 École nationale des ponts et chaussées(通称ポンゼ・ショセ)
橋梁・土木の技術者養成のため,1747年パリに設立。現在では建設,都市計画,国土整備,交通の分野にも進出。準備クラスは俗称トープ・テクニク。3年制。
国立高等工芸学校 École nationale supérieure d'arts et métiers(通称アールゼ・メティエまたはガザールgadz'arts)
機械・工芸関係の技師養成のため,1780年パリに設立。3年制。工芸博物館が付属。
国立パリ中央工芸学校 École centrale des arts et manufactures de Paris(通称ピストンPistonまたはサントラル)
1829年設立の工科高等専門学校。57年にはリヨン中央工芸学校が誕生。3年制。
国立パリ高等鉱山学校 École nationale supérieure des mines de Paris(略称ミーヌ・ド・パリ)
1783年設立。3年制。現在では鉱山・石油関係のほか原子力関係の技術者も養成。ポアンカレの母校。
国立パリ・グリニョン農学院 Institut national agronomique Paris-Grignon(通称アグロAgro)
1848年ベルサイユに設立され52年廃校になったものを,76年再建。1972年にグリニョンの国立高等農学校と合併。農業大国フランスを支える名門校。3年制。
国立高等通信学校 École nationale supérieure des télécommunications(略称テレコム・パリTélécom.Paris)
1878年設立の高等電信学校を母体にして,1942年に設立。現在では電子・情報・視聴覚工学にも進出。3年制。
高等電気学校 École supérieure d'électricité(略称シュペレクSupélec)
1894年設立。電気・電子・電波・情報工学,自動制御機器の分野の名門校。3年制。
国立高等航空宇宙学校 École nationale supérieure de l'aéronautique et de l'espace(略称シュプアエロSup'aéro)
1909年設立。航空工学および宇宙工学の専門校。3年制。
高等商業学校 École des hautes études commerciales(略称HEC)
1881年設立。企業経営者養成の名門。3年制。パリ商工会議所所属。
高等経済商業学校 École supérieure des sciences économiques et commerciales
1913年に設立された経済・商業関係の有力校。セルジー・ポントアーズにある。3年制の私立校。
国立高等美術学校 École nationale supérieure des beaux-arts(通称エコール・デ・ボザールまたはボザール)
1816年ルイ18世が現在地(パリ,ボナパルト街)に設立(1819開校)。芸術家の養成を目的とし,彫刻,絵画,版画,金工,建築などのコースがある。入学対象は16~26歳。1968年の五月革命に続く改革により分校制に移行した。文化省の管轄。
●国立高等音楽院(〈コンセルバトアール〉)
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大学事典 「グランドゼコール」の解説

グランド・ゼコール[仏]

[グランド・ゼコールと大学]

中世以来の大学は歴史的に,神・文・法・理・医という枠組みが守られてきた。フランスのグランド・ゼコールの起源は,もともとは,この枠組みを越えた技術教育,専門教育を行い,高度な技術者の養成に応えるために設立されてきたところに由来する。「grandes écoles」の字義通りの意味は「大・学校」であるが,これは大学外の「学校」として創設されたものであることを示してもいる。フランス以外の他の多くの国々にも技術者養成のための高等教育機関は存在してきたが,通常は大学よりも格下に位置づけられることが多い。これに対してフランスのグランド・ゼコールの独自性は,少数精鋭エリート教育を行い,大学よりも高い威信を有する点に見いだされる。

 フランスでは,中等教育の修了と同時に高等教育の入学資格でもあるバカロレア試験に合格すれば原則として大学に入学できるが,グランド・ゼコールへの入学は,バカロレア取得後,リセ(日本の高校に相当)に付設されているグランド・ゼコール準備級(フランス)への厳しい入学試験に合格し,さらにそこでの通常2年の勉学を経て,さらに厳しいグランド・ゼコールへの入学試験に合格することが必要である。このグランド・ゼコール準備級には2014~15年で8万人強が登録している(高等教育全体の学生数は247万人)。また,たとえば理工科学校(フランス)(エコール・ポリテクニーク)が国防省,鉱山学校が経済産業省,土木学校が環境・エネルギー・海洋省というように,グランド・ゼコールによっては大学とは異なる省の管轄下に置かれている点も特徴的である。

[グランド・ゼコールの歴史]

今日に至る著名なグランド・ゼコールのいくつかは,1743年創設の土木学校,83年の鉱山学校のように大革命前に創設されている。これらの学校の特徴として,養成する専門分野を校名に冠していることも指摘できる。こうした学校は,教育の内容は時代に応じて変化してきていても,学校名は常に保持し続けており,それも威信の源の一つとなっている。革命期の1794年には,理工科学校および高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)が創設された。19世紀後半の第三共和政初期の1872年には,今日のパリ政治学院(シアンス・ポー)が当初は私立の学校として創設されている。また,1819年にはパリ商業高等学校,21年には古文書学校,81年にはパリ高等商業学校(HEC)が創設され,さらに第2次世界大戦後の1945年には国立行政学院(ENA)が設立された。これらの学校の創設を大きな流れで見るならば,革命以前から革命期という早い時期には技術系の学校が多く創設され,19世紀末頃からは政治や経済に関わる学校が設立されてきたと捉えることができよう。こうした流れは,社会の要請の大きな変化に対応したものと捉えることもできるのである。

[グランド・ゼコールとエリート養成]

グランド・ゼコールによるエリート養成(フランス)は,どのようなものとして捉えることができるだろうか。一例として,大統領や首相の出身を見てみよう。複数の学校を卒業している者も少なからずいるが,それらを延べ人数として数えると,1958年の第五共和政成立以降の7人の大統領のうち,ENAの出身者は3人,シアンス・ポーの出身者は4人,理工科学校,高等師範学校の出身者は各1人である。また20人の首相経験者のうち,ENAの出身者は8人,シアンス・ポーの出身者は12人,高等師範学校の出身者は3人を数え,ほかにも商業系のグランド・ゼコールを卒業している者も複数いる。学問界においても,たとえばパストゥール,ベルグソン,デュルケーム,サルトル,アルチュセール,フーコー,デリダ,ブルデューなど,高等師範学校出身の著名な学者は数多い。このように,グランド・ゼコールはフランス社会において指導的な役割を果たす人々を実際に輩出してきたと言うことができよう。

 学校によっては全寮制のものもあり,少人数の教育で,卒業後にも続く関係が育まれる場となることも多く,それがエリートとしての支えともなり得る。ただし,とくに政治の分野においては,こうしたグランド・ゼコール出身者のエリート主義が,庶民から離れた政治を行っているという批判が示されることもある。一方,シアンス・ポーでは社会的に困難な状況に置かれている地域の出身者の入学枠を設けて,階層的なエリートの再生産のみとはならないようにとの試みも進められている。

[グランド・ゼコールの将来]

今日グランド・ゼコールの多くは外国人を積極的に受け入れて,単なるフランスのためのエリート養成という枠を越えた国際的な展開を行ってきている。またフランスでは近年,PRES(研究・高等教育拠点)やその後継のCOMUE(大学・高等教育機関共同体)という形で,複数の高等教育機関,研究機関が集まってより大きなまとまりがつくられてきているが,グランド・ゼコールもこうしたまとまりに加わって,大学や他の教育研究機関との関係を深めようとしている。時代の動きに対応しつつ,これからもグランド・ゼコールはその独自の存在を示し続けていくのではないだろうか。
著者: 白鳥義彦

参考文献: Louis Liard, L'enseignement supérieur en France(1789-1893), tome Ⅱ, Armand Colin, 1894.

参考文献: George Weisz, The Emergence of Modern Universities in France, 1863-1914, Princeton University Press, 1983.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

百科事典マイペディア 「グランドゼコール」の意味・わかりやすい解説

グランド・ゼコール

フランスで総合大学とは別個に各分野のエリートを養成するために作られた高等教育機関の総称。エコール・ノルマル・シュペリウール,理工科学校,国立行政学院など,総数300校以上にのぼる。バカロレア(大学入学資格)取得後に,独自におこなわれる選抜試験に合格しなければならない。通常は大学に登録した後に受験する者が多い。

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