グロステスト(英語表記)Robert Grosseteste

改訂新版 世界大百科事典 「グロステスト」の意味・わかりやすい解説

グロステスト
Robert Grosseteste
生没年:1168ころ-1253

中世イギリスの自然哲学者,光学者,神学者。サセックス州の貧しい家庭に生まれたが,オックスフォードとパリで教育を受けた後,オックスフォード大学学芸学部でアリストテレスの《詭弁論駁論》《分析論後書》を講じた。1214年,同大学の初代総長に就任し,神学部で講義するとともに,新設のフランシスコ会の学校にも招かれ講義した。35年にリンカン司教に任ぜられ,没するまでその要職にあった。前半期(1220ころ-35ころ)の学問的活動を通じ,オックスフォード大学における数学,自然哲学,光学研究を革新し,彼は同大学の科学的研究の伝統を創始した中心人物の一人となった。まず《分析論後書》への独自な注釈を通して,現象の結果と原因の連関に分析を加え,アリストテレスの論証的学問の理念を明確化し,科学方法論の基礎をすえた。さらに重要なのは,《ヘクサエメロン》や《光論》(別題《形相始源論》)で展開された〈光の形而上学〉である。この哲学には,メタファーとしての光の神学や認識論のほかに,宇宙創成論,自然哲学の側面があり,後世に大きな影響を及ぼした。光は原初の光点から自己拡散し,無規定の第一質料に延長を賦与することによって現実の物体界を創成したとされる。光は〈第一の物体的形相〉であり,あらゆる自然的作用の根底にある原因となった。したがって光学こそ自然研究の基礎である。さらに光の直進反射屈折の伝播様式は幾何学的に規定されるから,《線・角・図形について》では,自然学研究における数学の重要性が強調されている。《場所の本性について》《潮汐論》《虹論》など多数の自然学的小論考にその適用例がみられる。学問的活動の後半期に,彼は主に偽ディオニュシウスディオニュシウス・アレオパギタ)の諸著,《ニコマコス倫理学》など多数の翻訳と注釈に従事し,学術の移入に尽力するとともに,イギリスへギリシア人を招聘するなど,外国語研究の促進にも寄与した。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グロステスト」の意味・わかりやすい解説

グロステスト
Grosseteste, Robert

[生]1168.2.3. サフォーク
[没]1253.10.9. バッキンガムシャー,バクデン
イギリスの聖職者,スコラ学者。オックスフォード,パリの各大学に学ぶ。 1235年リンカーンの司祭になるまで,オックスフォード大学総長として神学などを講義。この間彼はアリストテレスの著作や聖書を原語で研究し,ラテン語中心のキリスト教界に新風を吹込んだ。特にアリストテレスの自然学の著作のラテン語への翻訳と注解は,当時の自然科学の方法の転回を迫った。彼の思想にはときにアリストテレス主義と新プラトン主義の折衷がうかがわれるが,実地研究にもすぐれ,特に光学の分野に貢献した。彼は啓示と理性,聖書とアリストテレスとの矛盾を解決しようとした中世最初の学者であり,その光学理論でも,光を唯一最初の実体とし,独特の光の形而上学を展開。彼の科学的方法の後世への影響は大きい。

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世界大百科事典(旧版)内のグロステストの言及

【光学】より

…イブン・アルハイサムの説は水晶体を感覚器官とした点でまちがっていたが,この誤りも含めて,その後の光学研究者に受け入れられることになった。 中世ヨーロッパの光学はキリスト教の影響下に成立したと考えることができるが,たとえば,グロステストは光によってこの宇宙が創造されたとする〈創世記〉の哲学(〈光の形而上学〉)を構築した。この議論は光学そのものの発展に寄与することが少なかったが,多くの哲学者や神学者を光学研究へと向かわせたのである。…

【中世科学】より

… 13世紀には,このようにしてとり入れられたギリシア,アラビアの科学の遺産の上に,ようやく西欧科学の独自な活動が開始される。ヨルダヌスは棹秤や斜面の静力学的問題を〈仕事〉や〈モーメント〉の概念を内包する原理によってみごとに証明し,グロステストは数学的演繹と経験的実証とを結びつける数学的経験科学の独自の方法論を展開し,その弟子R.ベーコンはこの方法論をさらに発展させ,光学の研究においてそれを実践した。またこのとき新たに受容されたアリストテレスの自然学は,アルベルトゥス・マグヌスやトマス・アクイナスに大きな影響を与え,科学知識の原理的再編成がなされた。…

【光の形而上学】より

…また東方イスラムでは〈照明学派の長老〉スフラワルディーが新プラトン主義を古代ペルシアのゾロアスター教神智学と融合させ,全宇宙の現象を本源的な〈光の光nūr al‐anwār〉の階層的発出とみなす説を唱えて東方神智学を完成させた。 アウグスティヌスと偽ディオニュシウスの伝統にたち,〈“創世記”の哲学〉とでもいえる考えから,光の形而上学を新たに精緻化して提出したのはグロステストである。彼によれば,光luxは原初の光点からあらゆる方向へ自己拡散し,無規定の第一質料に延長性を賦与し,光の無限の多数化によって質料の可能態を完全に現実化して,第一物体たる蒼穹をつくる。…

【ベーコン】より

…67年までの約20年間はこの雄大な目標に内実を与えるために費やされた。大量の研究資金を投じてギリシア,アラビアの文献を渉猟するとともに,また師グロステストやマリクール(ペトルス・ペレグリヌス)などの賢者とも交流して,有用な経験的知識の集積を図った。積年の夢を教育制度改革として実現すべく,教皇クレメンス4世(在位1265‐68)と接触し,その求めに応じて,百科全書《主要著作》の構想を練ったが,それは個人の力量をはるかに超えていた。…

※「グロステスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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