グロトフスキ(読み)ぐろとふすき(英語表記)Jerzy Grotowski

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グロトフスキ」の意味・わかりやすい解説

グロトフスキ
ぐろとふすき
Jerzy Grotowski
(1933―1999)

ポーランド演出家、演劇理論家。ジェシュフに生まれる。1955年クラクフの国立演劇高等学院を終えて、モスクワ国立演劇研究所に留学し翌年帰国。59年クラクフで演出家としてデビューし、同年秋オポーレの十三列劇場の総監督となる。62年同劇場を十三列演劇実験室と改め、発表した『アクロポリス』によって、新しい演劇の創造者、理論家、改革者として広く注目を集めた。65年本拠地をブロツワフに移し、名称も演劇実験室とし、自らの理論の実践を成し遂げる。同年の『不屈の王子』、69年の『実現された黙示録』はその理念の理論的、実践的根拠を明らかにしたもので、当時の演劇界における彼の名声を不動のものとした。1965年月刊誌『オドラ』にその演技論を「貧しき演劇を目ざして」と題して発表。俳優の肉体を演劇の唯一の本質とみなし、他の付加的要素、文学性・衣装・装置・照明・音楽などを拒否する。俳優に過酷な肉体訓練と規律を求め、物理的抑圧極致でみられるエネルギーが生み出す俳優の自己開示と自己解放によって新たなる演劇的感動を創造しようとした。それは近代の演劇が築き上げたものに拮抗(きっこう)するものである。演技実験室を併設し、世界中から集まる若い俳優の養成も行った。しかし、69年以降新作を発表しないまま、99年にイタリアで没した。1973年(昭和48)に来日した。

[山田正明]

『グロトフスキ著、大島勉訳『実験演劇論』(1971・テアトロ)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グロトフスキ」の意味・わかりやすい解説

グロトフスキ
Grotowski, Jerzy

[生]1933.8.11. ジェシュフ
[没]1999.1.14. ピサ近郊ポンテデラ
ポーランドの演出家。クラクフとモスクワの演劇学校で学んだあと,1959年オポーレに十三列劇場を創設。演劇における戯曲の文学的特権をはじめ,その付加物であるメイキャップ小道具,照明,装置などを排除,観客数を 40~100人程度に制限し,生きた交わりをもつ俳優と観客の関係の間に,知覚に訴える演劇を創造しようと試みた。俳優は,生のあり方と生に対する方法を体現する存在として,絶えず自己の可能性を追求し,観客の前に自己を開示しなければならず,過酷な身体訓練を通じてみずからの声と身体を完全にコントロールすることを要求された。 65年本拠地をウロツワフに移し,実験演劇室 Teatr-Laboratoriumと改称。 60年代後半には西欧や米国で公演し反響を呼んだ。その理念と実践は P.ブルックを筆頭に欧米の多くの演出家に大きな影響を与えている。主要演出作品『アクロポリス』 (1962) ,『フォースタス博士』 (63) ,『不屈の王子』 (65) など。主著『実験演劇論-持たざる演劇めざして』 Towards a Poor Theatre (68) 。

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改訂新版 世界大百科事典 「グロトフスキ」の意味・わかりやすい解説

グロトフスキ
Jerzy Grotowski
生没年:1933-99

ポーランドの演出家。1959年ブロツワフの〈実験劇場〉を創設して主宰した。〈貧しい演劇〉の旗を掲げ,ステージも装置も拒否した空間に修道者に近い服装の演技者を配置して,肉体と声による禁欲的で緊張した芝居づくりで知られる。ヨーガとも通ずる独特な訓練法は,教祖的な風貌や能弁と相まって国際的に尊敬をかちえた。《挿絵のある黙示録》(1968)のほか古典劇を扱うが,筋は重視されない。
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百科事典マイペディア 「グロトフスキ」の意味・わかりやすい解説

グロトフスキ

ポーランドの演出家。アルトーの残酷劇の影響を受け,1959年ブロツワフに〈実験劇場〉を創設,〈貧しい演劇〉の主張を掲げ,ステージも装置も廃した空間に,演技者の肉体と声のみによる緊迫した演劇を創出した。その禁欲的にして能弁な演劇は,ヨーガを採り入れた独特の俳優訓練法とともに,現代演劇の一旗手として国際的にも評価が高い。

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世界大百科事典(旧版)内のグロトフスキの言及

【ポーランド演劇】より

…戦時中,占領軍の保護下に発足した劇場を総ボイコットした精神は,81年,戒厳令強行に抗する俳優らの出演拒否に再現され,このため当局は〈舞台俳優組合(ZASP)〉を解散させた(1982)。 戦後40年,真にポーランド的な演劇を築いてきた功績は,劇作家S.ムロジェクT.ルジェビチ,演出家A.ワイダ,アクセルErwin Axer(1917‐92),ハヌシュキエビチAdam Hanuszkiewicz(1924‐ ),T.カントルJ.グロトフスキ,俳優ホロウベクGustaw Holoubek(1923‐ ),シフィデルスキJan Świderski(1916‐88),エイフレルブナIrena Eichlerówna(1908‐ ),ミコワイスカHalina Mikołajska(1925‐89),シロンスカAleksandra Śląska(1925‐92),ウォムニツキTadeusz Łomnicki(1927‐92),装置家J.シャイナら多彩をきわめる。彼らが好んで演ずるS.I.ビトキエビチW.ゴンブロビチ(ともに故人)のグロテスク劇の現代批判が演劇の主流であり,国際性もここに存する。…

【ワークショップ】より

…それは,固定した理論や方法論を持つ学校方式の修業の場とは異なり,新しい理念と技術を参加者全員で模索しながら流動的に訓練を重ねていくことを特徴としている。当初は劇団など上演グループの中で組織され,技術の研修とグループ独自の上演活動の追求を目的とした小規模な内輪の仕事場であったが,しだいにアメリカの〈オープン・シアター〉やポーランドのJ.グロトフスキの演劇実験室などが評判を呼び,劇団組織の枠を越えるものも増え,ワークショップによる上演がクローズアップされるケースも多くなった。そこでは,演者,演出者,また作者がいっしょに研修を重ねながら共同作業としての舞台づくりが行われるが,こうした実験の成果としての舞台はさまざまの意味で前衛的なものであり,作品と演出と演技ほかが有機的に働く生きた総体としての迫力を持ち,感銘を与えることが少なくなかった。…

※「グロトフスキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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