ケルスス(その他表記)Aulus Cornelius Celsus

改訂新版 世界大百科事典 「ケルスス」の意味・わかりやすい解説

ケルスス
Aulus Cornelius Celsus

ローマの著作家。生没年不詳,ティベリウス帝の治下(後14-37)に活動。学問全般を網羅する大規模な百科全書を著したとされるが,〈ヒッポクラテスは医学を哲学から分離した〉という名言序説に掲げた《医術について》と題する作品しか伝存しない。これは古代ギリシアのヒッポクラテス医学派,アレクサンドリアの医学派などのすぐれた著作を踏まえて,生理・病理薬剤外科手術など,さらには養生法に至るまで,医学全般を全8巻の中に明確・適切に解説したもので,ガレノスの膨大な著作とともに,医学史研究にとって不可欠の史料である。彼自身は医者ではなかったともいわれるが,結紮(けつさく)法を叙述した歴史的な意義は大きく,また肝臓・胃などの病に対する食養生の話は今もなおその価値を失わない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケルスス」の意味・わかりやすい解説

ケルスス(Publius Juventius Celsus)
けるすす
Publius Juventius Celsus
(77以前―129以後)

ユリアヌスとともにローマ古典時代の最盛期を代表する法学者。法務官執政官(2回)、ハドリアヌス帝の顧問官など顕職重ね、父の後を継いでプロクルス学派の法学校の学頭となった。剛直な性格の人といわれ、頭脳明晰(めいせき)で鋭敏な感覚の持ち主であり、法律問題に対してつねに独創的な解決を試みた。相続財産の善意占有者と悪意占有者を区別する元老院議決を提案したことは有名である。また、概念の定式化に優れ、「法は正善および衡平の術である」とか、「法律の全部をみず、その一部のみに依拠して判決しあるいは解答するのは法律家たる者のなすべきことではない」とか、さらに「法律を知るとは、その用語をとらえることではなく、その意義および適用を理解することをいう」など、さまざまな定義や法諺(ほうげん)を残している。主著に『法学大全』Digesta39巻がある。

[佐藤篤士]


ケルスス(Aulus Cornelius Celsus)
けるすす
Aulus Cornelius Celsus
(前30ころ―後45ころ)

ローマの百科事典作家。皇帝ティベリウス(在位14~37)時代に活躍した。その著作『技術』Artesは、農業、医術、軍事技術、雄弁術、哲学、法律の六つを扱ったといわれるが、現存するのは『医学について』Dere medicina8巻だけである。その内容は、食餌(しょくじ)療法と治療学と病理学(第1~2巻)、内臓の病気(第5~6巻)、外科の病気(第7~8巻)となっている。ことに外科術の部分が貴重で、顔と口の整形手術、鼻の茸腫(じょうしゅ)の除去、甲状腺腫(こうじょうせんしゅ)の除去、結石の切開、扁桃腺(へんとうせん)の除去などを述べ、そのほかケルスス禿瘡(とくそう)(脱毛症の一種)の説明もある。

[平田 寛]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケルスス」の意味・わかりやすい解説

ケルスス
Celsus, Aulus Cornelius

1世紀頃のローマの著述家。セルサスともいう。『大百科全書』を著わし,そのうちの『医学について』 De Medicinaだけが残存している。ヒポクラテス全集と並び称され,ことに,ほとんど亡失したアレクサンドリアの医学およびギリシアの外科学の面影を伝えるものとして,貴重である。この本は中世には無視されていたが,教皇ニコラウス5世によって発見され,ルネサンス以後再評価された。 1478年にフィレンツェ版が刊行されて以来,ルネサンス期にヨーロッパで最もよく読まれた医書の一つとなった。8巻あり,直腸から指を入れて膀胱結石を破砕する方法が記載されており,いまもケルスス手術と呼ばれるほか,外科,皮膚科にもいくつか名を残している。医師事務論に1章をさき,「医術は予測術 ars conjecturalisで,ときにははずれる」などの格言を残している。

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世界大百科事典(旧版)内のケルススの言及

【炎症】より

…つまり炎症とは〈炎のように燃えている病気〉,すなわち〈熱を伴う疾病〉ということであった。ローマ時代になると炎症の概念は具体的となり,A.C.ケルスス(紀元1世紀ころ)は,発赤rubor,はれtumor,熱calor,痛みdolorからなる,炎症の四つの特徴を記載した。“できもの”をみれば,この四つの主徴は容易に理解されよう。…

【手術】より

…中世までの間ローマ医学は多くの優れた外科医を輩出した。〈赤く,はれて,熱くて,痛む〉という炎症の四徴候を提示したケルススは専門の医師ではなかったが,優れた外科医でもあったガレノスは,絹糸や腸線による結紮(けつさつ),肋骨切除による心臓露出,膿胸手術などを行い,一方,創傷治癒に関する見解などを明らかにしている。ガレノスはヒッポクラテス以後の医学をしめくくり,一つの新しい壮大な医学体系をうちたてた2世紀の大学者であるが,彼は,理論的整合性を追うあまり,観察や実験によって得られない空白の部分を種々の概念と堅固な理論で補い築き上げたために,彼の折衷的でもある医学体系の中にいくつもの誤りが入り込んでしまっている。…

※「ケルスス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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