3~4世紀ごろのカッパドキアの伝説的聖人。ローマ帝国の軍人で,偶像崇拝を拒否したため,さまざまな拷問の末,殉教。馬で東方のリュディアを旅行中,その地の王女が悪竜への犠牲に選ばれ,水辺につながれているのを発見し,馬上より槍と剣で竜を倒し王女を救ったという伝説がある。キリスト教徒にとって,竜は異教を,王女はキリスト教会を意味し,彼は悪に打ち勝つ正義の象徴と考えられた。その崇敬は東方で生まれ,パレスティナ,コプトなどに長くとどまったが,12世紀までに西欧にも入った。十字軍以後,彼の名をとった騎士団が多数生まれた。イタリアではジェノバ,ベネチアなどで町の守護聖人とされ,ドイツでは11世紀にバンベルクで教会が捧げられた。イギリスでは13世紀に国の守護聖人とされ,多くの教会ができた。またガーター勲章は,イギリスの守護聖人の名を付してジョージ(ゲオルギウス)勲章The Order of Saint Georgeとも呼ばれる。騎士,射手,農民,武具製造人,馬などの守護聖人としても広く愛された。美術作品では一般に,長めの髪をもつ若く美しい騎士として表され,しばしば甲冑に身をかため,白馬に乗り,足元に竜が表される。持物は,折れた槍,抜いた剣,十字の文様のついた楯,天使がもたらしたと伝説で語られる白地に赤十字の旗(イギリス国旗はこれに由来)などである。イタリア・ルネサンスの美術家たちが画題として好み,当時の美術に多くの作例がある。祝日は4月23日。
執筆者:井手 木実
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代ローマの青年将校、聖人。303年ごろディオクレティアヌス帝の命令に反して信仰を捨てなかったため、パレスチナのディオスポリスで斬首(ざんしゅ)され殉教した。彼に対する尊崇は4世紀、東方から西方にかけて広がり、ギリシア神話のペルセウスの怪物退治と結び付けられ、多くの英雄的行為が伝えられている。12世紀には、悪竜を退治して王の娘を救い、その国をキリスト教に改宗させたという伝説が生じた。これは東方正教会のイコンの画材に多く取り上げられた。イギリスでとくに親しまれ、オックスフォード教会会議(1222)後、イングランドの守護聖人となった。東方正教会では兵士の守護聖人として崇(あが)められている。ロシア人は彼らの軍隊、兵器廠(しょう)の守護者とした。
[田口貞夫 2017年11月17日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これらの理由で,安産の守護聖人とされる。伝説から,ゲオルギウスに助けられた王女と同一視されることもある。中世以来よく美術に表され,持物は,伝説にちなんだ十字架,たいまつ,くし,剣,その名が意味する真珠など。…
…〈播かれた者〉の意)が出現したという。さらに《黄金伝説》には有名なゲオルギウスの竜退治が語られる。ゲルマンの叙事詩《ニーベルンゲンの歌》に登場する英雄ジークフリートも竜を殺す。…
※「ゲオルギウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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