改訂新版 世界大百科事典 「ゲーンズバラ」の意味・わかりやすい解説
ゲーンズバラ
Thomas Gainsborough
生没年:1727-88
イギリスの画家。サフォーク州サドベリ生れ。1740年ころからロンドンのフランス人版画家グラブロHubert Gravelotのもとで修業。48年故郷サフォークに帰り,主としてイプスウィッチでジェントリー層の肖像画を描く。59年保養地バースに移り,上流階級の肖像画の注文を多く受ける。68年のローヤル・アカデミー設立とともにその会員。74年以降定住したロンドンでは,画家J.レーノルズと並び称された。晩年は王家から制作依頼を受けるなど,当代の人気肖像画家の一人であった。だが彼は肖像画家にのみ徹していたわけではなく,むしろ真の情熱は生涯にわたって風景に向かっていた。油彩やスケッチによる数百点の風景画を残し,それよりもさらに多数現存する肖像画の背景にも,風景的要素が描かれている場合が多い。風景画には,17世紀オランダ風景画の影響による自然観察,ロココ風の美化された田園生活への憧憬といったロマン主義を先取りする要素が,交互に表れている。このような特質は,17世紀以来の静的な古典的風景画の伝統に対して,18世紀末から19世紀初頭にかけて隆盛したイギリス独自の風景画の一つの兆しであったといえる。一方,ファン・デイクやP.P.ルーベンスなどの影響の明らかな肖像画も,形式の点では大陸の貴族的肖像画の伝統を守りながらも,表情の微妙さや衣装の動きなどに鋭い人間観察や画家の個人的感性が看取でき,独自の境地を開いている。
執筆者:鈴木 杜幾子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報