移り(読み)ウツリ

デジタル大辞泉 「移り」の意味・読み・例文・類語

うつり【移り/遷り】

人の住所などが変わること。移転。転居。「郊外にお―の由」「都―」
火事などが他に伝わること。「火の―が早い」
(多く「おうつり」の形で)贈り物の入っていた先方の器や風呂敷にお礼のしるしとして別の品を入れて返すこと。また、その品。
「オ―ヲ上ゲル」〈和英語林集成
移り変わること。変遷
「人も世も思へばあはれいく昔いく―して今になりけん」〈玉葉集五〉
続き合い。ゆかり。関係。
「虎様や少将様の―といひ」〈浄・百日曽我
代わりの人。身代わり
「せめて御兄弟の―にもなれかし」〈浄・百日曽我
事情。わけ。ようす。
かね持ち合はさぬ―を知らせ」〈浮・禁短気・六〉
蕉風俳諧の付け方の一。前句余韻が後句に及んで互いに調和する付け方。
「―、響き、匂ひは付けやうのあんばいなり」〈去来抄・修行〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「移り」の意味・読み・例文・類語

うつり【移・遷】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「うつる(移)」の連用形の名詞化 )
  2. 物や人がある位置から他の位置に変わること。移動。移転。
    1. [初出の実例]「其の後、移有て、其の所、人の家に成て住むと云へども」(出典:今昔物語集(1120頃か)二七)
    2. 「其後東京へお移寓(ウツリ)ときいたまま」(出典:内地雑居未来之夢(1886)〈坪内逍遙〉一)
  3. 物事の状態、性質などが変わっていくこと。また、時がたっていくこと。変遷。
    1. [初出の実例]「人も世も思へばあはれいく昔いく移りして今になりけむ〈従二位為子〉」(出典:玉葉和歌集(1312)雑五・二五八七)
  4. ある人に心が引きつけられること。愛情をもつこと。また、相手の人から何となく感じられる情。
    1. [初出の実例]「うつり 心のうつりなり。男より女へのうつりもあれど」(出典:評判記・色道大鏡(1678)一)
  5. 性質、傾向などが他に及ぼす影響。
    1. [初出の実例]「かかるはづみ大臣とつれては此移(ウツ)りにしてつれまで心よし」(出典:浮世草子・新吉原常々草(1689)下)
  6. においや色が他の物にしみつくこと。また、そのにおいや色。
    1. [初出の実例]「それぞれの香のうつりあるゆへ」(出典:南方録(17C後)墨引)
  7. 病気や火などが他に伝わること。また、その伝わりぐあい。
    1. [初出の実例]「火のうつりを急ぎ、又はうつりを遠くする等の、主の心づかいに感ををこし」(出典:南方録(17C後)滅後)
  8. 縁のあるもの。つづきあい。つながり。ゆかり。
    1. [初出の実例]「虎様や少将さまのうつりといひ、おふたりをじょさいに思ふ心でも祐経かばふ心でも、誓文くされなけれ共」(出典:浄瑠璃・百日曾我(1700頃)三)
  9. 代わりになる人。身代わり。
    1. [初出の実例]「せめて御兄弟のうつりにもなれかし、又は母御の御なぐさみ、たよりをだにもと心ざし」(出典:浄瑠璃・百日曾我(1700頃)道行)
  10. ある状態になっている事情。いきさつ。
    1. [初出の実例]「是程のうちに女子の一人もなき事、〈略〉然りといへ共稲妻よりほかにかよふ移(ウツ)りもなし」(出典:浮世草子・色里三所世帯(1688)上)
  11. 外にそれとなく現われる様子。けはい。感じ。
    1. [初出の実例]「しろき足首ちらりと高ももの移(ウツ)り見し時は」(出典:浮世草子・新吉原常々草(1689)上)
  12. 言葉、音調、リズムなどが、変化しながら続いていく時の、続き具合。特に、蕉風俳諧で、連句の付け方の一つ。前句の情趣が後句へひきつがれていったり、また、対照呼応したりすること。
    1. [初出の実例]「五音連声と云は、歌には五七五七々の句のうつりの響也。連歌には五七五のうつり也」(出典:長短抄(1390頃))
  13. 浄瑠璃の演奏で、ある節章から他の節章への移りかわりをさし、殊に詞(ことば)、地(じ)、節(ふし)の相互の転換部分を意味する。
    1. [初出の実例]「上瑠璃本をとりなやみ〈略〉ヲロシ、三重イロ、ウツリ、ハッハ、ソヲヲとばかりにて、療治の事はおろそかに」(出典:浮世草子・元祿大平記(1702)二)
  14. 贈り物を入れてきた器などに、お礼のしるしとして入れて返す品。半紙、マッチなど。本来は共同飲食の気持から、貰った食物の一部を残して返すこと。ただし、凶事の贈答には入れない。おうつり。
    1. [初出の実例]「いい花をもらひうつりにやぶれ傘」(出典:雑俳・柳多留‐二三(1789))

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