水に分散したコロイド粒子が凝集して,コロイド・ゾルに富む微小液滴相と,コロイド濃度の低い周囲の平衡液相とに分離する現象をコアセルベーションcoacervationといい,生じた小液滴をコアセルベートという。クリートH.R.Kruytやブンゲンベルク・デ・ヨングH.G.Bungenberg de Jongが,1920年代末にこの現象を研究した。コロイド粒子どうしの凝集傾向と,粒子と媒質液体間の親和性との兼ねあいで起こるもので,ゼラチンの水溶液に適当のアルコールを加えたものがその例である。コロイド成分が複数のときには,特定成分がコアセルベート中に濃縮される現象も起こる。A.I.オパーリンは生命の起源を論じたさい(1936),コアセルベートの特性を重要な一つのモデルとした。生命系の反応の確立にあたっては,成分の局所的濃縮が不可欠との考えからである。その後,濃縮のしくみとしては他の閉じこめや,鉱物質表面への吸着の可能性も論じられるようになったが,コアセルベートは現在でも重要なモデルの一つではある。
執筆者:長野 敬
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…1926年に要旨をすでに述べているが,《地球上における生命の起源Vozniknovenie zhizni na zemle》(1936)は,世界的に大きな影響力をもち,大幅に改訂されつつ版を重ねた(3版,1957)。原始生命システムとして,コロイド集合体のコアセルベートを想定しているのは特徴の一つだが,この点は一つの仮説であり,現在,定説となっているわけではない。ほかに生細胞の酸化酵素系や,茶・パンなど農産物の生化学も研究した。…
…具体的にどのようなしくみで,どのようなことが起こったかについては,なおさまざまな説がある。例えば,オパーリンは《地球上における生命の起源》で,原始の海に小さな液滴状のコアセルベートとして生物が誕生したと考え,この説が広く流布されているが,ほかにもいろいろな説がある。いずれにせよ,エネルギー転換にかかわるエネルギーのシステムと,それの方向を指示し,自己保存,自己増殖を行う情報のシステムとが組み合わさったとき,初めて,生物が生じたことは確かである。…
※「コアセルベート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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