日本大百科全書(ニッポニカ) 「コチ」の意味・わかりやすい解説
コチ
こち / 鯒
flathead
太平洋やインド洋の熱帯から温帯にかけて分布し、多くは300メートル以浅の砂泥底にすむが、サンゴ礁域や河口近くにもいることがある。日本では北海道南部以南から21種が知られるが、南方ほど種類が多い。コチ科Platycephalidaeの魚類は、体が著しく扁平(へんぺい)で、頭が大きくて骨板に包まれ、多くの棘(きょく)状の突起または隆起線がある。名は「芴(こつ)」または「骨(こつ)」に由来するといわれる。普通、体を砂中に潜めて目だけを出し、周りの色彩に体色を似せるので見分けにくい。餌(えさ)は底生の小魚や小エビ・カニ類などで、それらが近寄ると大きな口でひと飲みにする。
コチ類の多くの種は、一生のうちに性転換をする。成長過程の初期には精巣だけ発達して雄となり、その後は卵巣が発達して雌雄同体となり、最後に卵巣だけが成熟して雌となる。
従来コチの和名でよばれていたものは、近年の研究で2種が混在していることが判明した。1種をマゴチ(クロゴチ)、もう1種をヨシノゴチ(シロゴチ)とよんで区別しているが、学名はまだ与えられていない(2013)。両種とも頭部が著しく縦扁(じゅうへん)し、頭部の隆起縁の棘(とげ)が弱いこと、目が小さく、両眼の間隔が広いことで特徴づけられ、本科の他種と容易に区別できる。
[落合 明・尼岡邦夫]
料理
南日本、とくに瀬戸内海に多くいるので、主として関西から西の地方でよく食べられている。白身で味がたいへん淡泊である。夏に味がよいが、年じゅう食べられる。冬はとくに鍋物(なべもの)の材料としてぶつ切りにしたものが使われる。生きのよいものは、刺身、洗いになる。てんぷら、煮つけにもよい。火が通ると身が外れやすくなる。南ヨーロッパではブイヤベースの材料として欠かせない魚である。
[河野友美・大滝 緑]