コレギウム

大学事典 「コレギウム」の解説

コレギウム[羅]

ウニヴェルシタスと並んで「大学」に関わって使用され続けたが,歴史的にはおおむね三つの意味に分けられる。まず第1にウニヴェルシタスと同様の人間の集合体,団体。第2に学生のための学寮。第3にウニヴェルシタスとは別の高等教育機関ないし中等教育機関。英語のカレッジ(college),フランス語のコレージュ(collège)は,コレギウム(collegium)に由来する。

[法人団体組織(コレギウム)としての意味]

同じ職業ないし地位にある者によって構成される団体としての概念はローマ法に由来し,目的と機能を定めた規約,法的な代理人であるプロクラトーレないし管理者,共有財産と財政,法的な代表権などの法人格としての資格を完全に備えた団体組織であった。このような法人団体組織としてのコレギウムは商人,職人,医師,法曹家などの職業組合として多様な形態で存在した。団体としての性格や権利はウニヴェルシタスと変わりはなく,中世にも両者は厳密に区別されなかった。パリ大学では「教師と学生のウニヴェルシタス」に対して教師の組織としてコレギウムが使用されたし,ボローニャ大学でもドクトルたちが学位授与を目的としたコレギウムを形成した。これは,当時法曹家が形成した職業組合としてのコレギウムとは別種のものであった。その意味では,ストゥディウム・ゲネラーレはウニヴェルシタスやコレギウム,ファクルタスから成り立っていたと捉えることもできる。また,コレギウムは中世に教会や修道院の諸団体にも使用されたため,一種の共住的な団体を意味するようになった。ここから,学寮の意味が派生したとみられる。

[学寮としての意味]

中世の学生たちは,もっぱら仲間同士で民家を賃貸して共同生活をする方式をとった。こうした形態はホスピティウム(hospitium)と呼ばれた。ホスピティウムは,その同居者のなかから代表者を選出して自治的に管理される団体であった。ホスピティウムの分担金を払えない貧困学生は,市民の屋根裏部屋などに間借りした。そうしたなかで篤志家によって,貧困学生のための学寮(コレギウム)が設けられるようになった。そうした行為は神への奉仕とみなされたからである。1180年にパリに設けられたコレージュ・デ・ディズュイット(18人学寮)が,この種の学寮の最初のものとされている。このように学寮は元来,貧困学生のための生活の場として設立されたものである。そのなかでも,1257年創立のパリのソルボンヌ学寮(フランス),1364年創立のボローニャのスペイン学寮(イタリア)などがよく知られている。

 当初は,枢機卿などが特定の国民団の学生のために設立し,14,15世紀には各地の大学に多くの学寮が設立された。とくにイギリスでは,13世紀からオックスフォードマートン学寮(イギリス),ケンブリッジにはピーターハウス学寮(イギリス)など多数設立された。また学寮は次第に貧困学生だけでなく,一般的な学生の生活の場へと変化していった。15世紀頃からは学生だけでなくチューターなどの教師も共住して,教育機能をも果たすようになり,コレギウムは学寮であると同時に大学教育をおこなう場へと発展していくことになる。フランス革命以降,ヨーロッパ大陸部では学寮は次第に消滅していったが,イギリスでは残存し,大学における「学部」と「学寮」の二重の教育構造が次第に確立した。イギリスの現在まで続くカレッジ制度は,こうした「コレギウム」から発達したものである。

[教育機関としての意味]

人的団体としてのコレギウムという意味は,高等教育機関や中等教育機関にまで拡大された。その典型は,反宗教改革以降にイエズス会が創設したコレギウムで,人文主義理念の下に中・高等教育にまたがる教育をおこなった。教皇の許可を受けてイエズス会を結成したイグナティウス・デ・ロヨラ,I.de自身が創設したローマのコレギウムは,のちにグレゴリアーナ大学となった。このようなコレギウムは宗派ごとに多数つくられたが,フランスではパリの学寮の影響下で大学に接続する中等教育機関としてのコレージュが,公的ないしは私的にも設立されるようになった。人文主義の影響は,ルーヴァンにコレギウム・トゥリリンゲ(フランス)(三古典語学院(フランス))ボルドーにコレージュ・ド・ギュイエンヌ(フランス)を生んだ。なかでも著名なコレージュ・ド・フランス(フランス)は「大学」に対抗する人文主義教育の牙城となったが,高等教育機関ではあっても学位は授与しなかった。

 アメリカ合衆国のカレッジは,ヨーロッパとは異なった展開をした。1636年,植民地で最初に設立されたハーヴァード・カレッジ以降,カレッジは中等教育後に学ぶ3年ないし4年の課程とされ,修了後はバチェラーの学位のみが取得できた。その多くが自由学芸を中心に学ぶリベラルアーツ・カレッジ(アメリカ)で,「大学」としてはアンダーグラジュエート・コース(修了前課程)とされ,グラジュエート・コース(卒後課程)であるグラジュエート・スクールなどとは区別される。このほかに,おおむね2年課程であるジュニア・カレッジやコミュニティ・カレッジがある。日本では,カレッジという語は短期大学や現在は少なくなったが学部が一つの単科大学に対して使われてきた歴史的経緯がある。しかし現在は,4年制の学部を一つしかもたない機関も日本名は「大学」で,その英語名もuniversityである。
著者: 児玉善仁

参考文献: 児玉善仁「起源としての大学概念」,別府昭郎編『〈大学〉再考―概念の受容と展開』知泉書館,2011.

参考文献: 島田雄次郎『ヨーロッパの大学』玉川大学出版部,1990.

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改訂新版 世界大百科事典 「コレギウム」の意味・わかりやすい解説

コレギウム
collegium

ラテン語で〈組合〉〈団体〉を意味する語。複数形コレギアcollegia。古代ローマの伝承では,王政期に商人や工人の同職組合が創設されたと言われるが,史実としてはヘレニズム世界に起源をもち,共和政末期には結社の自由があったことが確認される。アウグストゥス帝の時代には,元老院あるいは皇帝の認可を必要としたことが多くの碑文に記録されているにしても,実際には比較的自由に認められた。鍛冶屋,仕立屋,大工,船員などの同業者の葬儀組合の形をとることが多かったが,結社の真の目的は成員相互の社交と親睦にあった。帝政後期には,国家の必要とする事業を営む統制団体としての性格を強め,そのため,成員は職業に拘束され,その身分,義務は世襲化されていった。古代末期のコレギウムを中世のギルドの前駆形態とみなすかどうかという問題については,ドイツ都市とイタリア都市との地域差が考慮されなければならない。
ギルド
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コレギウム」の意味・わかりやすい解説

コレギウム
これぎうむ
collegium ラテン語

ローマ時代の結社、組合。もともとは神官の団体を意味し、のちになっても大部分のものが多少とも宗教的な性格を帯びていた。共和政末期に政治的な闘争に参加したこともあり、帝政期には、その結成には皇帝か元老院の許可が必要となった。この許可は比較的容易に得られたが、会合の回数などに制限が加えられた。コレギウムには、貧民の埋葬のための互助組合、青少年の体育訓練のための団体、退役兵のクラブなど多様な種類があり、国家や都市の公式の組織とは違った社会的な機能を果たしていた。手工業者など同職の人々のコレギウムの場合も、その目的は、共通の経済的利益の確保よりは、むしろ成員間の親睦(しんぼく)と社会生活上の互助のほうにあった。しかし、穀物商、海運業者などの組合に対しては、すでに2世紀から国家への奉仕の組織化のために統制が加えられ、3世紀にはそれが他の分野にまで広げられた。帝政末期には、組合員の自由は大幅に制限され、組合は奉仕を確保するための国家の道具となった。

[坂口 明]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コレギウム」の意味・わかりやすい解説

コレギウム
collegium

古代ローマの団体。 (1) 私的な結社。 (2) 役人団 最古期から個人に権力が集中するのを防ぐために,各役職につき2人以上偶数の役人をおき,互いに牽制させた。職務を交代し,互いに拒否権をもった。 (3) 祭司の団体 国家祭儀,鳥占い,シビュラ予言,諸神の礼拝を司る祭司が構成。より小規模の祭司団をソダリタス sodalitasという。 (→クラブ)

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世界大百科事典(旧版)内のコレギウムの言及

【ボローニャ大学】より

…アルプス以北の組合にはドイツ,フランス,スペインなど十数個にのぼる国民団が含まれ,全ヨーロッパから多数の学生が参集していた。 教師組合collegiumは学生組合とは別個に存在し独自の加入認定権をもっていた。しかし14世紀に都市によるサラリー支給が始められるまで,教師は学生の支払う授業料に依存していたため,実際の教授行為を行う教師を選定する権利は学生が保持し,教師は学生組合の学頭に服従させられていた。…

【医師会】より

…中世末期から大学が各地に誕生し,それらが医師の養成機関になったのは,大学は知識を授受するための結社universitasであり,そこでの課程の修了者に,人を教える権利であるドクター称号を付与できたからである。一方,地域で医業を行っていた医師たちは,同じころからコレギウムcollegiumという名の結社をつくり,国または教会の権威を背に,非会員の医業を制限しようとした。この両者の利害は衝突するので,協定するか,合同することで一元化をはかろうとする運動がおこるが,19世紀には,自由主義的雰囲気が支配的で,このような閉鎖的集団の承認を困難にした。…

【カレッジ】より

…イギリスやアメリカの高等教育機関の一部。ラテン語のコレギウムcollegiumがその語源。中世では主としてギルド的な団体を意味したが,まもなくユニバーシティの起源をなすuniversitasと同様に,学問的知識の伝達を目的とする学生や教師の団体のみをさすようになる。…

※「コレギウム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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