イギリスの風景画家。イングランド南東部,サフォーク州イースト・バーグホールトの生れ。父は,緩やかな起伏の丘陵地帯を流れるスタウア川に沿って,幾つかの製粉所を所有していた。この故郷の穏やかな風景を生涯描き続けたコンスタブルは,後に〈スタウア川の景色が私を画家にした〉と述べている。事実,彼は1799年ロンドンのローヤル・アカデミーの美術学校に入学したころにはすでに自分の道は風景画に,しかも伝統的な理想化された古典的風景画ではなく,イギリス南部の自然の刻々の姿をありのままに描くことにあると悟っていた。1806年ころから制作時の天候を記した,油彩スケッチを含む戸外での習作を描き始め,その習慣は終生続いた。一方,彼の描く地域は故郷周辺から少しずつ広がり,11年から29年にかけてソールズベリーの大聖堂をくりかえし描いている。また19年以降は夏ごとにロンドン郊外のハムステッドを訪れ,ことに刻々と移り変わる空と雲の姿を追究した。このような彼の自然の探究はイギリスでよりもむしろフランスで大きな影響力をもった。24年フランスのサロン(官展)に出品された《乾草車》(1821)がJ.L.T.ジェリコーやE.ドラクロアに感銘を与えたといわれ,バルビゾン派への影響もしばしば指摘される。晩年は妻の死(1828)などによって幸福なものではなかったが,30年に《イギリスの風景画》と題する銅版挿絵入りの風景画の手引きを出版し,またローヤル・アカデミーでイギリス風景画史の講義をするなど,画家としての己の道を確実に歩んだ。これらの理論的発言においても実作においても,彼は〈自然のキアロスクーロ(明暗法)〉,すなわち風景画における光源である空,および空の光によって微妙に変化する事物の的確な表現を重視している。K.M.クラークは,コンスタブルの風景画には絵画史上例を見ぬほど多量の視覚的データが集積されているが,限定された画面の中でまとまりを作品に与えているのは,C.ロランやN.プッサンなど古典主義の風景画の構図法の記憶である,との見解を述べている。つまり,コンスタブルは,〈ありのままの自然〉という風景画における近代性と,古典的な伝統との融合に成功した画家であるといえよう。
執筆者:鈴木 杜幾子
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イギリスの画家。サフォークの製粉業者の子に生まれた。この地方は小川や運河の多い土地で、その風物がそのまま題材になっている。若いころロンドンに出、1799年ロイヤル・アカデミーの美術学校に入学し、ウィルソンRichard Wilson(1713/1714―1782)やオランダ派を模写し、ガーティンの手法に注目した。1802年、アカデミーに入選したものの、このころから自分の行くべき方向が画壇と相いれないことを知り、帰郷して風景画に没頭する。生計のため肖像画も描きながらサフォークの風景を描いたが、画風を確立したのは40歳に近づいてからであった。終生同郷のゲーンズバラを敬愛していたが、自然を素直に愛し、静かな喜びを感じる点では通じるものがある。しかし、ゲーンズバラの軽みはなく、自然の事象の一つ一つに執拗(しつよう)に食い込んでゆく。画室から出て戸外に画架を立て、身近な風景を描いて緑を発見し、当時常套(じょうとう)化された褐色系の色調に革命的な変化をもたらした。完成作は戸外のスケッチをもとに画室で仕上げたが、視角に多少の変化をもたせ、光と色とで物象の現実的感覚を導入し、自然の掟(おきて)を守ろうとした。従来未解決の外光の問題が開けてくると同時に、ともすれば見落としがちな無名のものの存在という問題に先鞭(せんべん)をつけることになる。1824年、パリのサロンで『まぐさ車』などがドラクロワや印象派に刺激を与えた。1827年、ハムステッドに移り、油彩スケッチの小品を多く残している。
[岡本謙次郎]
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…しかし,いずれも独自の国民様式として定着するにはいたらず,時代による質的な差も目だつ。また少なくとも19世紀のJ.M.W.ターナー,J.コンスタブルの時代までは,ジャンルを問わず大陸諸国に与えた影響よりは受けた影響の方が大きかった。島国という地理的特殊性がイギリス美術にどれだけ作用しているかは微妙な問題であるが,様式の伝播という点からすれば,大陸諸国との間に時間的なずれがしばしば認められる(マネ,セザンヌ,ゴッホ,ゴーギャンなどの作品がイギリスで初めて本格的に紹介されたのが,ようやく1911‐12年の〈マネと後期印象派〉展によってであったというのは,その一例である)。…
※「コンスタブル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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