日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロイスダール」の意味・わかりやすい解説
ロイスダール
ろいすだーる
Jacob van Ruysdael (Ruijsdael)
(1628/1629―1682)
オランダの画家。ハールレムに生まれ、アムステルダムで没したと推定される。風景画家として有名なロイスダール家の一員で、父イサクIsaack(1599―1677)および叔父サロモンSalomon(1600ころ―70)について絵を学んだ。1648年にハールレムの画家組合に登録され、57年ごろからアムステルダムで活躍した。彼は医者で、ラテン語の教師でもあったようである。作風は50年代のなかば以降に確立されたが、それは自然の皮相な観察を超えて、雲と風と水の劇的なたたずまいの下で繰り広げられる悲壮美を表しており、しばしば枯死した巨木や廃墟(はいきょ)や墓地や山の城塞(じょうさい)などを配した画面が特徴的である。たとえば55年の『ユダヤ人墓地』(ドレスデン国立絵画館)では、荒涼とした渓谷の上を走る雷雲、中世の廃墟と古代の墓地を横切って流れる水が、画面に沈鬱(ちんうつ)な気分を醸し出している。すべて目に触れる地上の事物や人間の営為のむなしさを物語る幻想的なこの種の風景画は、不安と憂愁に満ちた魂から生まれた自然観照に由来しており、近代的なロマンチシズムの自然観を先取りしている。
[野村太郎]