ゴシュユ(英語表記)Evodia rutaecarpa(Juss.)Hook.et Thoms.

改訂新版 世界大百科事典 「ゴシュユ」の意味・わかりやすい解説

ゴシュユ (呉茱萸)
Evodia rutaecarpa(Juss.)Hook.et Thoms.

薬用のために栽培されるミカン科の落葉低木または小高木で高さ3~10mに達する。日本の各地で栽培されているが,日本には雌株しか栽培されていない。全体に淡黄褐色の長柔毛を密生する。葉は対生し,奇数羽状複葉,長さ16~32cm。小葉は5~9個で対生し,楕円形ないし卵形,長さ6~15cm,ふちに鋸歯がないか,または不明の鈍鋸歯があり,裏面に腺点を有する。初夏,枝先に短い円錐花序を出し緑白色の小花をつける。雌雄異株で,花は5数性。雌花花弁は比較的大きく,内面に柔毛がある。果実は小扁球形の袋果で,紫紅色,大きい腺点があり,先端はとがり,なかに1個の黒色光沢のある種子を有する。東部ヒマラヤから中国に分布する。果実にはエボデン,エボジンなどの精油やエポジアミンやルテカルピンなどのアルカロイドを含み,漢方健胃利尿剤として水毒による頭痛,嘔吐,胸満に用い,また殺虫,浴湯料とする。そのほか中国では種子から油をしぼり,葉を黄色染料とする。近縁E.officinalis Dodeも薬用にされ,また両者とも観賞用にも栽植される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゴシュユ」の意味・わかりやすい解説

ゴシュユ
ごしゅゆ / 呉茱萸
[学] Tetradium ruticarpum (Juss.) T.G.Hartley
Evodia rutaecarpa (Juss.) Benth.

ミカン科(APG分類:ミカン科)の落葉小高木。高さ2.5~5メートル。葉は対生し、奇数羽状複葉で、長さ15~35センチメートル。小葉は5~11枚つき、質は厚く全縁でほぼ楕円(だえん)形をなし、先端は急にとがる。両面に淡黄褐色の長い柔毛を密生する。雌雄異株。8月ころ枝端に散房花序をつけ、淡緑白色の花を多数開く。花軸は太く、毛を密生し、花弁は5枚、楕円形で、内側に白色の長い毛を密生する。子房は円球形で、成熟すると紫紅色となり、表面に粗大な腺点(せんてん)が現れる。これをつぶすと独特の強い香りを発する。中国の中南部原産で、揚子江(ようすこう)以南で広く栽培される。日本には1720年ころ雌木だけ渡来し、いまでは各地に生育している。

 漢方では、やや成熟した果実を乾燥したものを呉茱萸とよぶ。精油とアルカロイドを含有し、鎮痛、健胃、止瀉(ししゃ)、駆虫作用があるので、頭痛、腹痛、嘔吐(おうと)、冷え症などの治療に用いられる。

 ゴシュユは、中国北部と朝鮮半島に野生するシュユ(イヌゴシュユ)T. daniellii (Benn.) T.G.Hartley(E. daniellii Hemsley)に対し、南方すなわち古代の呉(ご)のシュユという意味の名称である。ニセゴシュユとよぶこともあるが、中国にあり、ゴシュユの変種であるホンゴシュユと同様に薬用に供されるので、ニセを冠した呼称はよくない。

[長沢元夫 2020年10月16日]


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百科事典マイペディア 「ゴシュユ」の意味・わかりやすい解説

ゴシュユ

中国原産のミカン科の落葉小高木。全体に特有の芳香がある。葉は対生し,7〜9枚の小葉からなる奇数羽状複葉。初夏,枝先に多数の緑白色の小花を開く。雌雄異株。日本では雌株しか栽培されず,種子はできないが赤色扁球形になる果実を呉茱萸(ごしゅゆ)といい,漢方では健胃・利尿剤とし,また殺虫剤,浴湯料とする。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゴシュユ」の意味・わかりやすい解説

ゴシュユ
Evodia rutaecarpa

ミカン科の落葉小低木。葉は対生し2~5対の小葉をもつ奇数羽状複葉である。中国原産で享保年間 (1716~36) に,呉茱萸 (ごしゅゆ) と呼ばれる果実を漢方の香辛性健胃剤とするために輸入したという。なお同属の植物としてハマセンダン E. glaucaが九州の山地に,またオガサワラゴシュユ E. boninensisが小笠原諸島に自生する。

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世界大百科事典(旧版)内のゴシュユの言及

【重陽】より

…9月9日の節供。陽数(奇数)の極である9が月と日に重なることからいい,重九(ちようきゆう)ともいう。中国行事の渡来したもので,邪気を避け,寒さに向かっての無病息災,防寒の意味もあった。菊花宴ともいい,685年(天武14)を起源とするが,嵯峨天皇のときには,神泉苑に文人を召して詩を作り,宴が行われていることが見え,淳和天皇のときから紫宸殿で行われた。菊は霊薬といわれ,延寿の効があると信じられ,この日,菊酒を飲むことも行われた。…

※「ゴシュユ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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