ゴム状弾性(読み)ゴムじょうだんせい(英語表記)rubber-like elasticity

改訂新版 世界大百科事典 「ゴム状弾性」の意味・わかりやすい解説

ゴム状弾性 (ゴムじょうだんせい)
rubber-like elasticity

ゴムやゴムに類似した物質の示す弾性。引張りや圧縮の力を加えたときのゴムの可逆的な伸び,縮み(弾性)は,金属の弾性と著しい違いを示す。例えばゴムは元の長さの数倍にも変形させることができるし,弾性係数も金属の場合の1万分の1程度である。また,金属の弾性係数温度にあまり依存しないのに対し,ゴムのそれは温度に比例する。これらのことは,ゴム状弾性の機構が,金属の弾性の機構と異なっていることを示している。ゴムは,長い鎖状の高分子からなっており,長い鎖の各部分が不規則にあちらこちらの向きになり,うねうねと曲がっていると,鎖の両端の間の距離がRになる確率は,WR)=A exp(-b2R2)で与えられる(Ab定数)。ゴムに力を加えて引っ張ると,Rが大きくなり,エントロピーSk logeWは減少する(kボルツマン定数)。すなわち,ゴムの伸びた状態は元の状態に比べてエントロピーの小さい状態であるため,エントロピーの大きい状態へ移行しようとし,これがゴムの弾性力を与えることになる。このようにエントロピーの減少が弾性力の起源となる弾性はエントロピー弾性と呼ばれる。鎖に外力Kが働いてつり合っているときには,K=-T(∂S/∂R)の関係を満たす(Tは絶対温度)。外力の働かない自然の状態はR=0に対応する。伸びが小さくて,bRが1より小さいときは,KR(伸び)に比例し,その係数は絶対温度に比例する。ゴム状弾性の原因は,分子論的にいえば鎖状分子の曲りの運動ブラウン運動)による。
ゴム →弾性
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百科事典マイペディア 「ゴム状弾性」の意味・わかりやすい解説

ゴム状弾性【ゴムじょうだんせい】

ゴム弾性とも。ゴムおよび類似の物質(弾性硫黄,各種合成ゴム等)が示す特異な弾性。これらの物質はきわめて伸びやすく(ヤング率が普通の固体の約10万分の1)またもとの長さの数倍も伸びるが,特に一定荷重のもとで温度を上げると長さが縮み,断熱的伸びでは発熱する(普通の固体では吸熱)。これは弾性の原因が本質的に異なるためで,普通の固体では伸長により原子間隔が変化し位置エネルギー(内部エネルギー)が増加するため,エネルギーの低いもとの状態にもどろうとして張力を生じるのに対し,ゴム状物質ではそれを構成する鎖状高分子の熱運動に関連するエントロピーが伸長により減少するため,エントロピーの大きいもとの状態にもどろうとして張力を生じる。前者をエネルギー弾性,後者をエントロピー弾性ともいう。→ジュール=トムソン効果

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゴム状弾性」の意味・わかりやすい解説

ゴム状弾性
ゴムじょうだんせい
rubber-like elasticity

ゴムやゴム類似物質の示す弾性。ゴム弾性ともいう。鎖状の高分子構造をもつが,高温で弾性を失う物質に硫黄を添加 (加硫) して網目構造をつくり,弾性を示す温度範囲を広くする。ゴムのヤング率 (→弾性係数 ) は金属の 10万分の1で,原寸法の数倍まで伸びる。低温では硬くもろくなって弾性を失う。固体の弾性が内部エネルギーの変化に起因するのと違って,ゴム状弾性はエントロピーの変化に起因するのが大部分で,気体を圧縮したときに示す弾性に似ている。

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